ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
666 / 785
第六部 異世界建築士とよろこびのうた

第631話:見直したんですよ?

しおりを挟む
 帰ってくるなり、にやぁ~っとしてみせるフェルミ。

「……なんだその顔は」
「いぃえぇええ? ただ、今日はとぉ~っても、お楽しみだったんスねぇって。ケガを押して、オトコとして頑張ったことを見直したって、言いたいだけっスよ?」

 玄関口からぎらりと目を輝かせて、居間のソファーに座っている俺を見ながら言うフェルミ。つい、猫のフレーメン現象を思い起こさせるその顔に、俺は一瞬で嗅ぎ取られたことを悟る。そしてその物言いで、即座にピンときたのだろう。マイセルがフェルミを肘で小突く。

「そういうこと、言わないの。お姉さまもはやく赤ちゃんが欲しいんですから」
「リトリィ姉ちゃんも赤ちゃんができたのか?」

 ニューが、なんだかうれしそうにリトリィを見上げる。

「そうだったらいいスねえ、という話っスよ。……ねえ、ご主人?」

 あくまでフェルミは俺をおちょくるような、実に楽しそうな顔だ。
 で、マイセルとフェルミ、そしてヒッグスとニューとリノを玄関で出迎えたリトリィが、恥ずかしそうにうつむく。

 今さっきまで、ふたりでしっとりとした時間を過ごしていたというのに、あっというまににぎやかな我が家に戻ってしまった。
 まあ、うん、俺たちの家族ってのはこれでいいんだよ、きっと。

「うふふ……マイセル、今夜からご主人の復活っスよ?」
「フェルミも好きね……。じゃあ、お姉さまと二人でムラタさんから搾り取ってちょうだい。私はいいです」
「そんなこと言っちゃっていいんスか? 昨日の夜は自分で……」
「あーっ! あーっ! 聞こえないですっ!」
「……お前ら、もういいから、いつまでも玄関で騒いでないでとっとと入ってこい」



「小屋の方はもう、ほとんど完成といったところね」
「はい。フェルミ……さん」

 小屋を見上げながら聞くフェルミに、微妙な顔で答えるレルフェン。フェルミの大きなお腹が気になるようで、気にしていないようなふりをしながら、やっぱりちらちらと見ている。

「フフ、気になるの?」
「え、いや、その……」

 お腹をさすってみせながら艶っぽい笑みを浮かべたフェルミに、レルフェンがしどろもどろになる。彼は、フェルミが男を装っていた頃を知っているからだろう。どこかぎこちない。

「やっぱり気になるのね。別に私のこと、女だなんて思わなくていいんですよ?」
「い、いや、だって、フェルミ……さん、今は監督の奥さんだし……」
「え? 私は『外の』──」
「フェルミ、あまりこいつらをからかわないでやってくれ。特にレルフェンはまだ独り身なんだから」

 フェルミが「外の女」なんて言いかけたから、慌てて口を挟む。俺の子を産んでくれる女性を、愛人扱いになんてできるものか!

「か、監督! そんなこと言わなくたって……!」
「事実だろ。そんなこいつが美人を前に緊張して手元が狂ったら、目も当てられないことになる」
「……自分のオンナを、『美人』だなんて自慢するものじゃないですよ、ご主人?」

 そんなこと言いながら、顔を赤らめてうれしそうにしやがって。フェルミのくせに可愛いらしいじゃないか。なんで俺は、こんな可愛らしいひとを男だと思い込んでたんだ、ちくしょう。

 そんな俺の葛藤など知ってか知らずか、バーザルトがにこにこしながらレルフェンの答えを継いだ。

「たしかにほぼ完成ですね。外壁に関しては、あとは壁を塗るだけです。この方法、山のふもとの村なんかで好評なんですよ」
「山のふもとの村?」

 俺は思わず横から口をはさんでしまった。。
 俺が日本から落ちた先は、この街からもその威容がよく見える、バーシット山。そこでリトリィをはじめとした隠居鍛冶師の家族に拾われ、この世界での生活が始まった。

 その山を下りてきて、今こうしてオシュトブルグの街で暮らしているが、ここから山のふもとの森に至るまでに、点々と家や畑が続いている。オシュトブルグの街の近くにも、村というか、小さな集落があちこちに点在しているのは、リトリィをさらった奴隷商人たちの足取りを探るときに知った。

 そういった村で好評? 聞いたことないが、どうしてだ?
 するとバーザルトが、不思議そうに首をかしげた。

「どうしてって……監督が考案した構法ですよ?」
「いや、それは分かるが、どうして好評なんだ?」
「だって、簡単で早く家が建つからに決まっているじゃないですか。街と違って不燃材で覆う必要もありませんし」

 徹底した合理主義のアメリカで生まれた、「簡単に家が建つ」と評判だったバルーン構法のアレンジだからな。確かに早くできるけれど……。

「早く、安くできるってのは、大きな魅力みたいですね。自分も、この一年半で何件か関わらせていただきました。職人的な技術があまり活かせないのはもどかしいですけど、やっぱり喜ばれるのはうれしいです」

 バーザルトはとてもうれしそうだ。気持ちは分かる。やっぱりお客さんに喜ばれるっていうのは、仕事を続けるうえで大きなモチベーションになるからな。

「へえ……。私、この構法知らなかったんだけど、この小屋が小さかったから早くできたわけじゃなくて、普通の家もこんな感じに早くできるの?」
「はい。基礎だけはしっかりと作らなきゃだめだと思いますけど、基礎ができて、床ができてしまえば、あとは早いですよ? フェルミさんが今住んでいる家なんですけど、監督がこの家を、『できるだけ早く、安く、実用的に建てる』ために考案した構法なんです!」

 なんだか自分のことのように誇らしげなバーザルト。
 フェルミは「……さすがご主人」と珍しく目を丸くし、マイセルは「そうなんですよ!」と胸を張り、リトリィもつんと澄ましているように見せて、しっぽをばっさばっさと振り回してたりするわけだ。

 いや、そんなにも俺のことを誇ってくれるのはとってもうれしいんだが、この構法の元を考えたのは十九世紀のアメリカ人で、俺じゃないんだけどな? もう今さら、そんなこと言い出せないが……。

「それで、外は不燃材で壁を塗って終わりなんでしょうけど、中はどうなるの?」
「内装は、監督の話だと壁はワックスをしっかり塗り込めて防腐処理をして、床は砕いた軽石を混ぜたモルタルを塗ったうえで、木のを置くそうですけどね」
「軽石? どうしてまた、そんな?」
「え? 監督がそう言ったんですけど。フェルミさんは聞いていないんですか?」

 ああ、話していなかったな。

「軽石は、熱を伝えにくいそうですよ?」

 正確には、モルタルに骨材として軽石を練り込むのだ。骨材を使うのだから、正確にはモルタルではなく「コンクリート」なのだけれど。

 断熱性は、「熱を伝えるものがない」ほど高い。最も良いのは「真空」だが、空気も熱を伝えにくい。だから、空気の層を持ち、しかも空気が対流などで動かない小部屋に閉じ込められていることが、断熱性能を高めるコツだ。

 たとえば木材は、顕微鏡レベルで見ることができる微細な部屋──つまり死んだ細胞が大量の空気を保持しているため断熱性が高い。軽石も、多孔質の建材。同様の効果が期待できる。

 今後、間違いなく大家族となる我が家では、風呂の時間も長引くだろう。軽石を骨材として混ぜたモルタル──軽石コンクリートを床に使うことで、少しでも熱を逃がさないようにできたら、というわけだ。

 ということを、バーザルトに追加で説明をしたら、全員、不思議そうに首をかしげていた。

「……まあ、とにかく冷めにくい部屋になるように工夫してみるっていう話だよ。本当に冷めにくい部屋になったら、断熱工法の一つとして今後も提案できるから、その実験だな」

 そう言って話を打ち切ると、作業の再開を促す。
 ヒヨッコたちは我に返った様子で、それぞれの持ち場に散っていった。

「……ご主人、私、ご主人のこと、初めて見直したかもしれない」
「初めてってなんだよ。まったく、お前は俺を何だと思ってるんだ」

 俺は苦笑いしてみせたが、フェルミはもう一度、「ご主人、ただの大工じゃないんだって、見直したんですよ? 本当に……」と頬を紅潮させてつぶやく。
 ──お前、からかってるんだよな? いつもみたいに。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界カフェ食堂で皿洗いをしますと思ったら日本料理を創造する力が与えられていた!(もふもふ聖獣猫のモフにゃーと楽しく日本料理を創造します)

なかじまあゆこ
ファンタジー
可愛いもふもふ達とアリナは異世界でスローライフをします。 異世界召喚された安莉奈は幼女の姿になっていた。神様に与えられた能力を使い眷属聖獣猫モフにゃーや魔獣のライオン魔獣鳥に魔獣の日焼けとお料理を創造します! 熊元安莉奈(くまもとありな)は黄色のバスに乗せられ異世界召喚された。 そして、なぜだか幼女の姿になっていた。しかも、日本の地球人だったことを忘れていたのだ。 優しいモリーナ夫妻に養子として引き取れた安莉奈はアリナになった。 モリーナ夫妻はカフェ食堂を経営していたが繁盛しておらず貧乏だった。料理が出来ないアリナはお皿洗いなどのお手伝いを小さな体ながらしていたのだけど。 神様から日本料理を創造する力が与えられていた! その力を使うと。 地球では辛い生活を送っていた安莉奈が異世界ではアリナとしてお父さんに激愛され幸せに生きている。 エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...