9 / 14
第3話 3-3
しおりを挟む
それから3日後。
ベッドの中でだけど身体を起こせるくらいに回復したあたしに、お医者さんが「いつものおクスリ」を手渡した。
いつものように、コップに口をつける。
ほんのわずか、おクリスが唇にふれた瞬間。
ダメっ! 飲んじゃダメっ。
あたしは本能的に、そう強く感じた。
反射的に、コップから口を離す。
おクスリに少し触れただけなのに、唇がピリピリする。
この感じ、この感覚にはおぼえがある。
これには、食べちゃいけないものが入っている。
そう、「アレルギー物質」だ。
あたしには、「ブドウアレルギー」がある。
結構珍しいみたいだけど、あたしは5歳のときに、突然ブドウが食べられなくなった。
ううん、あたしにとって「ブドウ」は、食べちゃいけない毒になった。
なぜだか自分でもわからなかったけど、突然ブドウが嫌いになって、お母さんが食べなさいっていっても、どうしても食べることができなかった。
「ごめんなさい、たべれない、ごめんなさい」
ブドウを前に泣きじゃくるあたし。あのときのことは、小さかったからよくは覚えてないけど、それでもブドウがこわくて、ブドウを食べなさいというお母さんがこわくてしかたがなかった。
あれは、自分でも説明できない不思議な感覚で、それまでブドウは何回も食べていたし、むしろ好きなフルーツだったのに、あの瞬間、本当に突然といっていいほど、ブドウはあたしにとってこわいモノになっていた。
あたしがあまりにブドウを嫌がるから、不審に思ったお母さんがお医者のおじいちゃんの病院で調べてもらったら、あたしは「ブドウアレルギー」になっていたらしい。
といってもこの身体はレットのもので、レットもブドウアレルギーってことはない……よね?
ブドウアレルギーって、珍しいみたいだから。
アレルギーに感して、あたしはお医者のおじいちゃんからいろいろ説明を受けたから、少しは理解できている。
「このおクスリですが、これまでとなにか変わっていませんか?」
なのでまずは確認だ。
これまであたしは、このおクリスを飲めていた。
むしろ最近では、好きな味になっていた。
なのに、これは……今日のおクスリは飲めない。
レットの身体によくない、「ナニカ」が入っている。
「カッツェの蜜を、少量ですが加えました。クスリの効果をつよめるためでございます」
「効果をつよめるもの……ですか?」
「はい。ここ最近、お嬢さまの体調は回復傾向にございます。今回発熱なされたのは、少し無理をなされたからでございましょう。クスリは確実に効果を上げております。なので投薬を、次の段階へと進めとうございましてな」
クスリの効果を高めるため、カッツェの蜜……というなにかをくわた。
そうか、だから飲めなかったんだ。
カッツェの蜜がなにかは知らないけど、それはレットにとって「アレルギー物質」なんだ。
あたしにとっての「ブドウ」のように、レットにとっては「カッツェの蜜」が毒になるんだ。
「そうですか……ですがカッツェの蜜は、わたくしには毒になるのだと思います」
アレルギー物質で通じるのかな? いってみる?
「アレルギー物質、です」
あたしの言葉にお医者さんは、
「アレルギー物質ですと? カッツェの蜜アレルギーなどという話は聞いたことがございませぬが」
いや……よかった、アレルギー物質という言葉が通じて。
この世界、ときどき言葉が通じないんだよね……。
中世ファンタジー風な世界だから、テレビとかスマホが通じないのはなんとなくわかるけど、チューリップとかトマトとか、そういう「普通のもの」が通じなかったりするし。
「いや、ですが……た、確かに、その可能性は……」
お医者さんが考えこむ。
(なんの話ですか? アズキ)
あたしの隣で小首をかしげるレット。
彼女には、「アレルギー」がわからないのかな?
「これまでのおクスリなら飲めますが、これは……」
あたしは手の中のコップをお医者さんに差し出し、
「飲めません」
きっぱりといい切った。
実際、飲めない。
おクスリには少し触れただけなのに、唇が腫れてきている。
でも、よかった。
もしレットがおクスリの飲んで体調が良くなって、この「カッツェの蜜入り」の効果の強いおクスリを飲んでしまっていたらと思うと、ゾッとする。
「アレルギーを軽く見てはいけない。死ぬことだって珍しくないんだ。さくちゃんも、これからはブドウを食べるのはもちろんだけど、触るのもやめておきなさい」
って、お医者のおじいちゃんに、真面目な顔で注意されたっけ。
だからあたしは、寝室にレットとふたりになると、
「カッツェの蜜っていうのレットには毒かもしれないから、食べちゃダメだよ。絶対、約束して」
そういい聞かせて、約束させた。
ベッドの中でだけど身体を起こせるくらいに回復したあたしに、お医者さんが「いつものおクスリ」を手渡した。
いつものように、コップに口をつける。
ほんのわずか、おクリスが唇にふれた瞬間。
ダメっ! 飲んじゃダメっ。
あたしは本能的に、そう強く感じた。
反射的に、コップから口を離す。
おクスリに少し触れただけなのに、唇がピリピリする。
この感じ、この感覚にはおぼえがある。
これには、食べちゃいけないものが入っている。
そう、「アレルギー物質」だ。
あたしには、「ブドウアレルギー」がある。
結構珍しいみたいだけど、あたしは5歳のときに、突然ブドウが食べられなくなった。
ううん、あたしにとって「ブドウ」は、食べちゃいけない毒になった。
なぜだか自分でもわからなかったけど、突然ブドウが嫌いになって、お母さんが食べなさいっていっても、どうしても食べることができなかった。
「ごめんなさい、たべれない、ごめんなさい」
ブドウを前に泣きじゃくるあたし。あのときのことは、小さかったからよくは覚えてないけど、それでもブドウがこわくて、ブドウを食べなさいというお母さんがこわくてしかたがなかった。
あれは、自分でも説明できない不思議な感覚で、それまでブドウは何回も食べていたし、むしろ好きなフルーツだったのに、あの瞬間、本当に突然といっていいほど、ブドウはあたしにとってこわいモノになっていた。
あたしがあまりにブドウを嫌がるから、不審に思ったお母さんがお医者のおじいちゃんの病院で調べてもらったら、あたしは「ブドウアレルギー」になっていたらしい。
といってもこの身体はレットのもので、レットもブドウアレルギーってことはない……よね?
ブドウアレルギーって、珍しいみたいだから。
アレルギーに感して、あたしはお医者のおじいちゃんからいろいろ説明を受けたから、少しは理解できている。
「このおクスリですが、これまでとなにか変わっていませんか?」
なのでまずは確認だ。
これまであたしは、このおクリスを飲めていた。
むしろ最近では、好きな味になっていた。
なのに、これは……今日のおクスリは飲めない。
レットの身体によくない、「ナニカ」が入っている。
「カッツェの蜜を、少量ですが加えました。クスリの効果をつよめるためでございます」
「効果をつよめるもの……ですか?」
「はい。ここ最近、お嬢さまの体調は回復傾向にございます。今回発熱なされたのは、少し無理をなされたからでございましょう。クスリは確実に効果を上げております。なので投薬を、次の段階へと進めとうございましてな」
クスリの効果を高めるため、カッツェの蜜……というなにかをくわた。
そうか、だから飲めなかったんだ。
カッツェの蜜がなにかは知らないけど、それはレットにとって「アレルギー物質」なんだ。
あたしにとっての「ブドウ」のように、レットにとっては「カッツェの蜜」が毒になるんだ。
「そうですか……ですがカッツェの蜜は、わたくしには毒になるのだと思います」
アレルギー物質で通じるのかな? いってみる?
「アレルギー物質、です」
あたしの言葉にお医者さんは、
「アレルギー物質ですと? カッツェの蜜アレルギーなどという話は聞いたことがございませぬが」
いや……よかった、アレルギー物質という言葉が通じて。
この世界、ときどき言葉が通じないんだよね……。
中世ファンタジー風な世界だから、テレビとかスマホが通じないのはなんとなくわかるけど、チューリップとかトマトとか、そういう「普通のもの」が通じなかったりするし。
「いや、ですが……た、確かに、その可能性は……」
お医者さんが考えこむ。
(なんの話ですか? アズキ)
あたしの隣で小首をかしげるレット。
彼女には、「アレルギー」がわからないのかな?
「これまでのおクスリなら飲めますが、これは……」
あたしは手の中のコップをお医者さんに差し出し、
「飲めません」
きっぱりといい切った。
実際、飲めない。
おクスリには少し触れただけなのに、唇が腫れてきている。
でも、よかった。
もしレットがおクスリの飲んで体調が良くなって、この「カッツェの蜜入り」の効果の強いおクスリを飲んでしまっていたらと思うと、ゾッとする。
「アレルギーを軽く見てはいけない。死ぬことだって珍しくないんだ。さくちゃんも、これからはブドウを食べるのはもちろんだけど、触るのもやめておきなさい」
って、お医者のおじいちゃんに、真面目な顔で注意されたっけ。
だからあたしは、寝室にレットとふたりになると、
「カッツェの蜜っていうのレットには毒かもしれないから、食べちゃダメだよ。絶対、約束して」
そういい聞かせて、約束させた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる