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第二章 勝負の三年間 一年生編
第四話 「まずは、一つ目の夢に向かって…!」
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翌日の土曜日。
小雨がぱらつく中、綾乃はベンチに腰掛け、練習シューズの紐を結ぶ。
「今日もよろしくお願いしますね…」
練習シューズにそう言葉を掛けるように呟く綾乃。靴紐を結び終えると、両膝を軽く「ポン」と叩く。
山取東高校の土のグラウンドは靴跡一つなくきれいに整備されている。整備したのは綾乃達一年生。
中学校までは人工芝の上で練習してきた綾乃。高校入学後に初めて土のグラウンドで練習。しかし、不思議と違和感なく練習をこなすことができた。
しかし、この日は雨。
「雨の日の練習は大変そうですね…。でも、それもいい経験になりそうです…」
土のグラウンドを眺め、そう呟く綾乃。それからすぐに、クラスメイトの長川美智恵が綾乃の右隣に腰掛ける。
「綾乃ちゃん、土に足をとられないようにね」
きれいに整備されたグラウンドを雨が濡らす。降り続けると、グラウンドはぬかるむ。
ぬかるみに嵌ってしまうと、思った動きができなくなる。美智恵は綾乃にそう伝える。
「ありがとうございます」
微笑む綾乃。
午前九時になり、練習が開始。ストレッチを終えた綾乃達はランニングに入る。その中で綾乃は雨の日の土のグラウンドの感覚を確かめる。
しばらくランニングを続けていると、綾乃は右足を土に持っていかれる感覚を覚えた。ランニングをこなしながら驚いたように自身の右足を見つめる。
「想像以上ですね…」
ランニングを終え、ボールを使った練習を開始。足元の感覚を確かめながらボールを転がす綾乃。若干、軌道がブレたが、ボールはしっかり美幸の元へ届く。
ほっとしたように息をつく綾乃。
「この練習の経験が試合で活きるかもしれませんね…」
自身にそう言い聞かせると同時に、美幸からのパスが。軌道のブレないきれいなパスだった。右足でボールを受けた瞬間、綾乃は美幸を見つめる。
「私はまだまだです…。早く皆さんに追いつけるように頑張りますね…!」
それからすぐに出した綾乃のパスはきれいな直線を描くように美幸の右足に収まった。
十時二十分過ぎ、休憩に入り、綾乃は水筒を傾ける。朝からぱらつく小雨は雨脚を弱め、霧雨のように綾乃の髪を濡らす。
水筒のキャップを閉じバッグへしまう。そして、自身の右足へ目をやる。そして、ある場面の映像が頭の中に流れる。
「たまたまかもしれませんけど、きれいなパスが出せました。でも、その後はなかなかああいったパスが出せませんでした。天候や足元の状態もしっかり確認しないといけませんね…」
視線は靴跡ができたグラウンドへ。僅かに水たまりをしばらく見つめると、靴跡によってできた僅かな窪みへ視線を向ける。
「バウンドが変わったりするんでしょうかね…」
そう呟きながら腰を上げ、サッカーボールを籠から一球両手で取る。そして、細かく足元でボールを転がす。しばらくし、右足でボールを収め、小さく頷く。
「勉強あるのみですね」
綾乃は空を見つめる。すると、厚い雲の向こう側に微かな光を見る。
まるで、グラウンドにできた僅かな水たまりを蒸発するような光が。
綾乃は口元を緩める。
「まずは、一つ目の夢に向かって…!」
その数十分後、小雨はすっかり止み、雲の隙間から僅かに青空が顔を覗かせた。
小雨がぱらつく中、綾乃はベンチに腰掛け、練習シューズの紐を結ぶ。
「今日もよろしくお願いしますね…」
練習シューズにそう言葉を掛けるように呟く綾乃。靴紐を結び終えると、両膝を軽く「ポン」と叩く。
山取東高校の土のグラウンドは靴跡一つなくきれいに整備されている。整備したのは綾乃達一年生。
中学校までは人工芝の上で練習してきた綾乃。高校入学後に初めて土のグラウンドで練習。しかし、不思議と違和感なく練習をこなすことができた。
しかし、この日は雨。
「雨の日の練習は大変そうですね…。でも、それもいい経験になりそうです…」
土のグラウンドを眺め、そう呟く綾乃。それからすぐに、クラスメイトの長川美智恵が綾乃の右隣に腰掛ける。
「綾乃ちゃん、土に足をとられないようにね」
きれいに整備されたグラウンドを雨が濡らす。降り続けると、グラウンドはぬかるむ。
ぬかるみに嵌ってしまうと、思った動きができなくなる。美智恵は綾乃にそう伝える。
「ありがとうございます」
微笑む綾乃。
午前九時になり、練習が開始。ストレッチを終えた綾乃達はランニングに入る。その中で綾乃は雨の日の土のグラウンドの感覚を確かめる。
しばらくランニングを続けていると、綾乃は右足を土に持っていかれる感覚を覚えた。ランニングをこなしながら驚いたように自身の右足を見つめる。
「想像以上ですね…」
ランニングを終え、ボールを使った練習を開始。足元の感覚を確かめながらボールを転がす綾乃。若干、軌道がブレたが、ボールはしっかり美幸の元へ届く。
ほっとしたように息をつく綾乃。
「この練習の経験が試合で活きるかもしれませんね…」
自身にそう言い聞かせると同時に、美幸からのパスが。軌道のブレないきれいなパスだった。右足でボールを受けた瞬間、綾乃は美幸を見つめる。
「私はまだまだです…。早く皆さんに追いつけるように頑張りますね…!」
それからすぐに出した綾乃のパスはきれいな直線を描くように美幸の右足に収まった。
十時二十分過ぎ、休憩に入り、綾乃は水筒を傾ける。朝からぱらつく小雨は雨脚を弱め、霧雨のように綾乃の髪を濡らす。
水筒のキャップを閉じバッグへしまう。そして、自身の右足へ目をやる。そして、ある場面の映像が頭の中に流れる。
「たまたまかもしれませんけど、きれいなパスが出せました。でも、その後はなかなかああいったパスが出せませんでした。天候や足元の状態もしっかり確認しないといけませんね…」
視線は靴跡ができたグラウンドへ。僅かに水たまりをしばらく見つめると、靴跡によってできた僅かな窪みへ視線を向ける。
「バウンドが変わったりするんでしょうかね…」
そう呟きながら腰を上げ、サッカーボールを籠から一球両手で取る。そして、細かく足元でボールを転がす。しばらくし、右足でボールを収め、小さく頷く。
「勉強あるのみですね」
綾乃は空を見つめる。すると、厚い雲の向こう側に微かな光を見る。
まるで、グラウンドにできた僅かな水たまりを蒸発するような光が。
綾乃は口元を緩める。
「まずは、一つ目の夢に向かって…!」
その数十分後、小雨はすっかり止み、雲の隙間から僅かに青空が顔を覗かせた。
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