Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

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第二章 勝負の三年間 一年生編

第十四話 「綾乃ちゃんがいれば…」

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 ハーフタイム、綾乃は宮城からこう言葉を掛けられる。


 「一ノ瀬がいると、攻守のバランスが良くなる。一ノ瀬あってのこのチームだと思ってる。だが、一ノ瀬の個人技頼みのサッカーはしたくない。味方の良いところを活かす。それが、チームサッカーに繋がると思っている。それを上手く体現してくれるのが一ノ瀬。自信の持っているものを出してくれればいい。よろしく頼むぞ!」


 綾乃は「はい」と応える。引き締まった表情。この時はお嬢様ではなく、一人の選手。

 浩平が綾乃にサッカーを習わせたのは礼儀を身に付けることの他に。


 「判断力を身に付ける。逆境に挫けない心を育む。そして、誰からも信頼されるくらい頼もしい人間になってほしい」


 綾乃が入社、そして浩平が経営する会社を継ぐ日が来た時のために。


 綾乃は宮城に頭を下げる。宮城は口元を緩めながら小さく頷くと、美佳の元へ歩を進める。宮城の背中をしばらく見つめた綾乃はベンチへ腰掛け、水筒を傾け、喉を潤す。

 それからすぐ、彼女の左隣に美智恵が。綾乃はふと、彼女の横顔を見つめる。それに気付いた美智恵は笑顔で綾乃に顔を向ける。

 
 「終了間際のプレー、あわや失点の場面。でも、綾乃ちゃんはあのプレーを選んだ。そして、その判断が失点を防いだ。選択肢は一つじゃなかったんでしょ?」


 美智恵が問うと、綾乃は「ええ」と答え、グラウンドを見つめる。

 綾乃の頭の中には前半終了間際の自身のプレーの映像が。


 
 岩浜西高校の九番の選手にボールが渡る。ペナルティーエリア内だった。

 ファウルをとられると、PK。しかし、一人の選手はそれに臆することなく、ボールを奪いに、右足をボールへ。

 そのタイミングで、九番の選手はシュートを放った。

 右足から放たれたボールは綾乃の右脹脛ふくらはぎに直撃。転がったボールを拾いに九番の選手が走るが、美智恵がクリア。

 ホイッスルが鳴り響いた瞬間、綾乃の視線の先にはきれいな青空が映っていた。


 
 「相手選手のその先の動きが何となく読めたんです。足の動きなどから。ファウルをとられずにシュートを防ぐことができるプレーの選択肢は幾つもありました。その中で、一番安全にシュートを防ぐことができる可能性が高かったのが、あのプレーだったんです。答えが出た瞬間、既に右足がボールに伸びてました」


 ピンチの場面で一瞬でも判断が遅れると、失点してしまう。綾乃はその一瞬を逃さず、見事にシュートを防いだ。

 一歩間違えれば、PKを与えてしまう場面でだ。

 
 再び水筒を傾ける綾乃。すると、美智恵はグラウンドを見つめ、こう呟く。


 「綾乃ちゃんがいれば…」


 水筒を口から離し、美智恵の横顔を見つめる綾乃。


 「夢じゃないかも…」


 美智恵の続く言葉で水筒をベンチへ置く綾乃。



 「ど、どうされたんですか?」


 戸惑うように尋ねる綾乃。

 美智恵は僅かに口元を緩め「ううん」とだけ答える。

 
 「気になっちゃいますよ」

 「教えない」


 笑ってはぐらかす美智恵。

 

 「教えてくださいよ」


 綾乃の表情に笑みが。

 宮城は綾乃の横顔を見つめ、口元を緩める。

 まるで、ある人物と同じ考えを持っているかのように。



 時間はあっという間に経過し、後半。

 山取東高校は美智恵と綾乃を中心に攻撃を組み立て、ゴールに迫る。


 「いいぞ!」


 宮城の声。


 
 グラウンドでは、美智恵が綾乃にボールを繋ぐ。そして、綾乃はゴール前にスルーパスを送る。そのボールに反応した鈴恵が右足で押し込んだ。

 ゴールネットが揺れ、山取東高校の選手の声がグラウンドに響く。

 
 ハイタッチを交わす三人。そして、鈴恵が言う。


 「綾乃ちゃんがいれば安心だね」


 
 この日の練習試合、山取東高校は五対一で勝利を収めた。
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