22 / 100
第二章 勝負の三年間 一年生編
第十四話 「綾乃ちゃんがいれば…」
しおりを挟む
ハーフタイム、綾乃は宮城からこう言葉を掛けられる。
「一ノ瀬がいると、攻守のバランスが良くなる。一ノ瀬あってのこのチームだと思ってる。だが、一ノ瀬の個人技頼みのサッカーはしたくない。味方の良いところを活かす。それが、チームサッカーに繋がると思っている。それを上手く体現してくれるのが一ノ瀬。自信の持っているものを出してくれればいい。よろしく頼むぞ!」
綾乃は「はい」と応える。引き締まった表情。この時はお嬢様ではなく、一人の選手。
浩平が綾乃にサッカーを習わせたのは礼儀を身に付けることの他に。
「判断力を身に付ける。逆境に挫けない心を育む。そして、誰からも信頼されるくらい頼もしい人間になってほしい」
綾乃が入社、そして浩平が経営する会社を継ぐ日が来た時のために。
綾乃は宮城に頭を下げる。宮城は口元を緩めながら小さく頷くと、美佳の元へ歩を進める。宮城の背中をしばらく見つめた綾乃はベンチへ腰掛け、水筒を傾け、喉を潤す。
それからすぐ、彼女の左隣に美智恵が。綾乃はふと、彼女の横顔を見つめる。それに気付いた美智恵は笑顔で綾乃に顔を向ける。
「終了間際のプレー、あわや失点の場面。でも、綾乃ちゃんはあのプレーを選んだ。そして、その判断が失点を防いだ。選択肢は一つじゃなかったんでしょ?」
美智恵が問うと、綾乃は「ええ」と答え、グラウンドを見つめる。
綾乃の頭の中には前半終了間際の自身のプレーの映像が。
岩浜西高校の九番の選手にボールが渡る。ペナルティーエリア内だった。
ファウルをとられると、PK。しかし、一人の選手はそれに臆することなく、ボールを奪いに、右足をボールへ。
そのタイミングで、九番の選手はシュートを放った。
右足から放たれたボールは綾乃の右脹脛に直撃。転がったボールを拾いに九番の選手が走るが、美智恵がクリア。
ホイッスルが鳴り響いた瞬間、綾乃の視線の先にはきれいな青空が映っていた。
「相手選手のその先の動きが何となく読めたんです。足の動きなどから。ファウルをとられずにシュートを防ぐことができるプレーの選択肢は幾つもありました。その中で、一番安全にシュートを防ぐことができる可能性が高かったのが、あのプレーだったんです。答えが出た瞬間、既に右足がボールに伸びてました」
ピンチの場面で一瞬でも判断が遅れると、失点してしまう。綾乃はその一瞬を逃さず、見事にシュートを防いだ。
一歩間違えれば、PKを与えてしまう場面でだ。
再び水筒を傾ける綾乃。すると、美智恵はグラウンドを見つめ、こう呟く。
「綾乃ちゃんがいれば…」
水筒を口から離し、美智恵の横顔を見つめる綾乃。
「夢じゃないかも…」
美智恵の続く言葉で水筒をベンチへ置く綾乃。
「ど、どうされたんですか?」
戸惑うように尋ねる綾乃。
美智恵は僅かに口元を緩め「ううん」とだけ答える。
「気になっちゃいますよ」
「教えない」
笑ってはぐらかす美智恵。
「教えてくださいよ」
綾乃の表情に笑みが。
宮城は綾乃の横顔を見つめ、口元を緩める。
まるで、ある人物と同じ考えを持っているかのように。
時間はあっという間に経過し、後半。
山取東高校は美智恵と綾乃を中心に攻撃を組み立て、ゴールに迫る。
「いいぞ!」
宮城の声。
グラウンドでは、美智恵が綾乃にボールを繋ぐ。そして、綾乃はゴール前にスルーパスを送る。そのボールに反応した鈴恵が右足で押し込んだ。
ゴールネットが揺れ、山取東高校の選手の声がグラウンドに響く。
ハイタッチを交わす三人。そして、鈴恵が言う。
「綾乃ちゃんがいれば安心だね」
この日の練習試合、山取東高校は五対一で勝利を収めた。
「一ノ瀬がいると、攻守のバランスが良くなる。一ノ瀬あってのこのチームだと思ってる。だが、一ノ瀬の個人技頼みのサッカーはしたくない。味方の良いところを活かす。それが、チームサッカーに繋がると思っている。それを上手く体現してくれるのが一ノ瀬。自信の持っているものを出してくれればいい。よろしく頼むぞ!」
綾乃は「はい」と応える。引き締まった表情。この時はお嬢様ではなく、一人の選手。
浩平が綾乃にサッカーを習わせたのは礼儀を身に付けることの他に。
「判断力を身に付ける。逆境に挫けない心を育む。そして、誰からも信頼されるくらい頼もしい人間になってほしい」
綾乃が入社、そして浩平が経営する会社を継ぐ日が来た時のために。
綾乃は宮城に頭を下げる。宮城は口元を緩めながら小さく頷くと、美佳の元へ歩を進める。宮城の背中をしばらく見つめた綾乃はベンチへ腰掛け、水筒を傾け、喉を潤す。
それからすぐ、彼女の左隣に美智恵が。綾乃はふと、彼女の横顔を見つめる。それに気付いた美智恵は笑顔で綾乃に顔を向ける。
「終了間際のプレー、あわや失点の場面。でも、綾乃ちゃんはあのプレーを選んだ。そして、その判断が失点を防いだ。選択肢は一つじゃなかったんでしょ?」
美智恵が問うと、綾乃は「ええ」と答え、グラウンドを見つめる。
綾乃の頭の中には前半終了間際の自身のプレーの映像が。
岩浜西高校の九番の選手にボールが渡る。ペナルティーエリア内だった。
ファウルをとられると、PK。しかし、一人の選手はそれに臆することなく、ボールを奪いに、右足をボールへ。
そのタイミングで、九番の選手はシュートを放った。
右足から放たれたボールは綾乃の右脹脛に直撃。転がったボールを拾いに九番の選手が走るが、美智恵がクリア。
ホイッスルが鳴り響いた瞬間、綾乃の視線の先にはきれいな青空が映っていた。
「相手選手のその先の動きが何となく読めたんです。足の動きなどから。ファウルをとられずにシュートを防ぐことができるプレーの選択肢は幾つもありました。その中で、一番安全にシュートを防ぐことができる可能性が高かったのが、あのプレーだったんです。答えが出た瞬間、既に右足がボールに伸びてました」
ピンチの場面で一瞬でも判断が遅れると、失点してしまう。綾乃はその一瞬を逃さず、見事にシュートを防いだ。
一歩間違えれば、PKを与えてしまう場面でだ。
再び水筒を傾ける綾乃。すると、美智恵はグラウンドを見つめ、こう呟く。
「綾乃ちゃんがいれば…」
水筒を口から離し、美智恵の横顔を見つめる綾乃。
「夢じゃないかも…」
美智恵の続く言葉で水筒をベンチへ置く綾乃。
「ど、どうされたんですか?」
戸惑うように尋ねる綾乃。
美智恵は僅かに口元を緩め「ううん」とだけ答える。
「気になっちゃいますよ」
「教えない」
笑ってはぐらかす美智恵。
「教えてくださいよ」
綾乃の表情に笑みが。
宮城は綾乃の横顔を見つめ、口元を緩める。
まるで、ある人物と同じ考えを持っているかのように。
時間はあっという間に経過し、後半。
山取東高校は美智恵と綾乃を中心に攻撃を組み立て、ゴールに迫る。
「いいぞ!」
宮城の声。
グラウンドでは、美智恵が綾乃にボールを繋ぐ。そして、綾乃はゴール前にスルーパスを送る。そのボールに反応した鈴恵が右足で押し込んだ。
ゴールネットが揺れ、山取東高校の選手の声がグラウンドに響く。
ハイタッチを交わす三人。そして、鈴恵が言う。
「綾乃ちゃんがいれば安心だね」
この日の練習試合、山取東高校は五対一で勝利を収めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる