Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

第二章 勝負の三年間 一年生編

第二十八話 インパクト

　後半三分、瑞穂から綾乃へパスが通った。綾乃は右足でボールを収め、周囲を見渡す。

　中町商業高校はプレッシャーをかける。その動きを見て、綾乃は素早く瑞穂へボールを戻す。

　瑞穂はワンタッチで最終ラインへと下げる。そして、ボールを受けると、ドリブルでピッチ中央を進む。

　ゾーンを敷き、パスコースを塞ぐ中町商業高校。瑞穂はサポートを要求しようと、周囲を見渡す。そのサインに反応した綾乃は相手ディフェンスを上手く抜け出し、ボールを受けに走る。

　綾乃の動きを見て、小さく頷く瑞穂。ボールは瑞穂の右足から押し出され、綾乃の右足に収まった。


　綾乃にマークがつく。その瞬間、綾乃はドリブルを仕掛け、マークをかわす。

　山取東高校の応援スタンドが沸く。


　綾乃は左サイドを駆け上がり、深い位置まで攻め込む。並走するように中町商業高校の二人の選手が綾乃をマーク。タッチラインの外へボールを流そうとする中町商業高校のディフェンス。

　しかし、綾乃は動じない。


　瑞穂はサポートへ回るように綾乃の後ろを走る。そして、舞子がマークを引き付けようと走る。

　周囲を見渡す綾乃の目に瑞穂と舞子の動きが映る。その瞬間、一度右足でボールを収める。綾乃のマークについた選手はボールに右足を出す。

　同時に、綾乃はノールックで瑞穂にヒールパスを送る。

　瑞穂の周りはフリー。ボールは繋がり、瑞穂が右足でボールを収める。そして、左サイドから中央へドリブルで進む。

　瑞穂に二人のマークがつく。綾乃はペナルティーエリア手前にポジションをとる。一人の選手が綾乃をマーク。

　綾乃はその選手を引き付けるように、ペナルティーエリア内へ。同時に、瑞穂はサポートへ回った舞子へパスを出す。そして再び受けた瑞穂は視線の先に映った選手へパスを出した。

　
　その選手は。


　「十八番！」


　中町商業高校の監督の声がピッチに響く。

　山取東高校の十八番。

　一ノ瀬綾乃にボールが渡った。


　ペナルティーエリア内左でボールを受けた綾乃は細かくボールを動かし、相手選手を揺さぶる。

　左へ僅かに動く綾乃。すると、綾乃と同じ方向に相手選手が動いた。


　よし…！


　綾乃の心が声を上げる。そして、素早いドリブルで相手選手を抜き去る。

　するとすぐに一人の選手が綾乃のマークにつく。

　しかし、綾乃にとっては予想通りだった。


　相手選手が右足を動かす。それと同時に、右足でふわりとしたボールを上げる綾乃。

　ゴールほぼ中央。

　そのボールに反応したのは。


　それから数秒後、山取東高校の応援スタンドから歓声が沸き起こる。


　「舞子！」


　瑞穂が舞子の元へ。そして次々と舞子の元へ山取東高校のフィールドプレーヤー七人が集まる。

　手荒い祝福を受け、笑顔で応える舞子。

　それからしばらくし、もう一人のフィールドプレーヤーが舞子の元へ。

　二人はハイタッチを交わす。

　
　「ナイスアシスト！いきなりインパクト残したね」


　笑顔の舞子。

　彼女の言葉に綾乃は。


　「皆さんがいてこそです」


　照れた笑顔を浮かべ、そう応えていた。