Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

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第二章 勝負の三年間 一年生編

第四十二話 「私はまだまだですよ、仙田先輩には…」

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 八月二十八日。



 「いいぞ、一ノ瀬!」


 
 宮城の声とともに、綾乃はドリブルで進む。彼女の背後では、美幸が悔しそうな表情を浮かべながら綾乃を追う。

 綾乃の目の前に瑞穂が立ちはだかる。

 綾乃は瑞穂の動きを注視。そして、視線を一瞬だけ舞子へ。

 その瞬間、舞子はペナルティーエリア内へ回り込む。彼女の動きを見て、綾乃は前線へふわりとしたボールを上げる。

 混戦のゴール前で先のボールに触れたのは舞子。高い打点で額に当てる。ボールはゴール左上隅。健実が右手を伸ばすと、人差し指を僅かにかすめる。そして、そのままゴールネットへ。

 
 舞子とハイタッチを交わす綾乃。


 「ナイスパス!」

 「吉川先輩がいてこそです!」


 笑顔の二人。


 
 綾乃がディフェンスへ回ろうと歩を進めると、練習場の外に一人の男子生徒の姿が目に映る。

 彼は潤ではない。男子サッカー部の二年生部員だった。

 綾乃も知る部員。


 それからすぐ、彼の元に一人の男子サッカー部員が歩み寄り、声を掛ける。二人は綾乃を見つめながら言葉を交わしていた。

 二人を少し離れた位置から見つめる綾乃。


 「どうされたんでしょう…」


 そう言葉を発し、ポジションに立った綾乃は駆け出し、見事に美幸のシュートを防いだ。


 
 三十分後、休憩に入り、ベンチで水筒を傾ける綾乃。水筒をバッグへしまうと同時に、舞子が右隣へ腰掛ける。


 「男子にも注目されてるよ、綾乃ちゃん。私のクラスメイトにも」


 笑顔で言葉を掛ける舞子。



 「嬉しいですけど…」


 照れ笑いを浮かべる綾乃。
 
 舞子は微笑みながら綾乃の横顔を見つめる。それからすぐに、視線を練習場の外へ。

 視線の先に映るのは二人の人物。舞子は彼らへ視線を向けながらこう話す。


 「あの人も注目してるよ、綾乃ちゃんのこと。私が綾乃ちゃんについて話したら共感するように頷いてた。『確かに凄いよな。思わずプレーを目で追っちゃうんだよね』ってね。でも、綾乃ちゃんは褒められることがあまり好きじゃないのかもしれない。それは、あの人も同じ。ポジションは違うけど、どこか似てるんだよね、綾乃ちゃんとあの人」


 舞子は視線を綾乃へ。


 「度肝を抜くようなプレーを見せてくれそうな雰囲気があるんだよね、二人には」


 そう言い残し、舞子は瑞穂の元へ。

 綾乃はしばらく舞子の背中を見つめる。


 「私はまだまだ及ばないですよ、仙田先輩には…」


 綾乃は視線を練習場の外へ移す。目に映ったのは潤と言葉を交わす男子サッカー部二年、仙田与太の姿だった。
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