Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

第三章 勝負の三年間 二年生編

第一話 「あの山東の子、確か…」

　四月十四日。



　「よろしくお願いします！」



　学校のグラウンドから聞こえる声で綾乃は廊下の窓から外を眺める。視線の先には監督の宮城、コーチの長谷川知宏はせがわともひろと向かい合うように一列に並ぶ女子生徒の姿。

　彼女達は女子サッカー部の一年生部員だ。綾乃の後輩でライバルになる存在。

　しばらくグラウンドを眺める綾乃。


　「先発の座は譲りませんよ…？」


　闘争心に満ち溢れた眼差しはグラウンドから階段へと続く廊下へ。目を閉じ、何かを誓うように小さく頷いた綾乃は東山取運動場へと歩を進めた。



　この日の練習が終了し、綾乃は東山取駅のホームで列車を待つ。すると、一人の男性が綾乃へ視線を向ける。視線を感じ取った綾乃はその方向を見る。男性は綾乃の視線に気付くと、右手に持つ携帯電話の画面を眺め、タップ。そして、通話を始めた。

　
　綾乃は特に気にすることなく、電光掲示板を眺める。それから間もなくして、列車接近を知らせるアナウンスが流れた。



　「終点の台府に到着です」


　台府駅のホームへ降り立ち、階段を上る綾乃。階段を上り終え、右へ曲がり、改札口へ向かう。

　その途中、このような言葉が綾乃の耳に届く。


　「あの山東の子、確か…」


　この言葉で綾乃の足は無意識に止まる。そして、声が聞こえた方向を向く。しかし、そこには誰もいない。周囲に綾乃以外の山取東高校の生徒もいない。

　綾乃は首を傾げ、改札口方向を向く。


　「気のせいだったのでしょうか…」


　綾乃は囁くような声で言葉を発し、改札機を通過する。そして、外へと出た。

　綾乃はしばらく進み、立ち止まる。そして振り向き、駅舎を眺める。


　「試合会場を訪れていた方なのでしょうかね…」


　その答えが分かる日は来るのだろうか。


　綾乃は口元を緩め、自宅方向を向く。



　「まあ、気にしても仕方ありませんよね。とにかく、負けないように練習を積み重ねないといけませんね…！」



　綾乃は気を引き締めるように小さく頷き、自宅へと歩を進めていった。