Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green

文字の大きさ
66 / 100
第三章 勝負の三年間 二年生編

第八話 一ノ瀬ゾーン

しおりを挟む
 十時二分。


 「ピーッ!」


 前半開始のホイッスルが鳴り響く。岩浜南高校ボールでキックオフ。

 山取東高校はゾーンを敷く。

 
 岩浜南高校は細かくパスを繋ぐ。そしてやがて、四人の選手が横一列に並ぶような陣形をとる。

 この瞬間、綾乃は口元を緩める。そして、タッチライン側のレーンを走る選手についた。

 その選手はボールを持っていない。


 これは、綾乃の考えによるディフェンスだった。



 試合開始前、宮城はあの言葉に続けて、綾乃にこう話した。


 
 「一ノ瀬には自由に動いてもらおうと思ってる。この試合だけでなく、今後の試合も。その方が相手を翻弄できると思ってな。攻撃でも守備でも。要注意選手がいたらその選手につくように指示を出すが、どうマークするかは一ノ瀬次第だ。失点してしまっても責任を感じることはない。俺が責任を背負う。思い切りプレーしてくれればそれでいい。じゃ、頼んだぞ」



 選手のマークにつきながら試合前の宮城の言葉を思い出していた綾乃。

 視線の先では、岩浜南高校の選手が横へ横へパスを送っている。綾乃はマークにつきながらボールを動きを目で追う。


 得点に動きがないまま、前半は十五分を過ぎた頃。


 岩浜南高校は再び四つのレーンを作り、ボールを回す。綾乃は同じ選手につく。

 すると、マークについた選手へボールが渡る。そして、その選手は綾乃のディフェンスを突破しようとドリブルを仕掛ける。

 それから間もなくして、岩浜南高校の男性監督の声が。



 「ゴール前を固めろ!」


 彼の声で岩浜南高校の選手がゴール前へ走り出す。

 彼女達の視線の先には、ドリブルで左サイドを駆け上がる山取東高校の選手。


 「綾乃ちゃん!」


 舞子の声。

 左サイド深くまでドリブルで持ち上がった綾乃はゴール前へ長いボールを供給。

 そのボールにピッチ中央を駆け上がった舞子が右足で合わせると、ゴールネットが揺れた。


 舞子の元に笑顔で駆け寄る綾乃。ハイタッチを交わすと、舞子は笑顔で綾乃にこう言葉を掛ける。


 「一ノ瀬ゾーンだね」


 
 その言葉に綾乃は照れ笑いを浮かべ、大石、長谷川、そして、山取東高校の選手を見つめる。



 「皆さんがいてこそです。本当にありがとうございます」



 そして舞子へ頭を下げ、ポジションへ戻っていった。

 謙虚で心に熱い魂を持った一人のサッカー少女はその後もピッチを駆け回り、四対〇の勝利に貢献した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

処理中です...