Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

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最終章 勝負の三年間 三年生編

第十七話 切り替え

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 六月二十七日、山取東高校は仙谷せんごく高校に一対〇で敗れ、準決勝で姿を消した。

 試合終了後、タオルで顔の汗を拭った綾乃の視界は微かにぼやけていた。


 「一点を獲ることは難しい……それを再認識させられました……」


 悔しさを滲ませ、綾乃はベンチに腰掛けた状態で右手を強く握りしめる。

 山取東高校は仙谷高校の堅守の前にシュート一本のみに抑え込まれた。

 唯一のシュートを放ったのは綾乃だった。


 「私が決めていれば、流れは変わっていたかもしれません……」


 綾乃のシュートはGKのファインセーブによって阻まれてしまった。


 悔やんでも過去は戻ってこない。

 綾乃は自身にそう言い聞かせると腰を上げ、ロッカールームに下がった。



 午後二時三十七分。


 「ただいま戻りました」


 玄関のドアを開けた綾乃を晴義が出迎える。


 「おかえりなさいませ」


 晴義の言葉に綾乃は会釈でこたえ、靴を脱ぐ。

 そこに、一人の人物が綾乃の目の前に姿を現す。


 「帰ったか」


 綾乃が顔を上げるとそこには、何かを伝えたそうな表情を浮かべる浩平の姿があった。


 「ただいま戻りました。お父様」


 綾乃の言葉に浩平は頷くと、手招きをする。


 「話がある。書斎に来なさい」


 綾乃は「はい」とこたえると、浩平に続くようにゆっくりと階段を上った。



 「失礼します」


 綾乃はゆっくりとドアを閉めると一言入れ、椅子に腰を下ろす。

 浩平は綾乃と向かい合うと腕を組み、口を開く。


 「一つの大会が終了した。次の大会は冬の選手権予選。その前に、お前の人生を左右する戦いが待っている」


 浩平の言葉をすぐに理解し、綾乃は首を縦に振る。

 綾乃は高校総体終了後、プロクラブでの練習に参加する。


 項垂れている時間はない。

 浩平はそう告げるような眼差しで綾乃を見つめる。

 綾乃は浩平からの無言のメッセージを受け取り、ゆっくりと頷く。

 頷き返した浩平は腕組みを解く。


 「切り替えろ」


 浩平の一声に綾乃は表情を引き締める。

 
 「以上だ」


 浩平はそう言い残し、右手で万年筆を握り、書類に文字を記す。

 その姿を眺めた後、綾乃はゆっくりと腰を上げ、頭を下げる。


 ドア前で改めて頭を下げるとドアノブを右手で握り、廊下に出た。

 ゆっくりとドアを閉めた綾乃は廊下の照明を眺め、小さく頷く。


 「絶対にこのチャンスをモノにします……私の夢のために。応援してくださるお父様のために……!」


 一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は翌月から始まるプロ選手との練習に闘志を燃やし、ゆっくりと自身の寝室に歩みを進めた。
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