Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

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最終章 勝負の三年間 三年生編

第十九話 「山取東高校から参りました、一ノ瀬綾乃です」

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 七月四日、午前七時ちょうど。

 朝食を済ませた綾乃は食堂で浩平と向かい合う。

「今日からプロ選手に混じっての練習。プロで生き抜くためには過酷な競争に勝たなくてはならない。どんなに優れた技術があっても、それをしっかりと発揮できなければ意味がない。今日からの練習に対しての緊張はもちろんあるだろう。だが、緊張することは悪いことではない。緊張があることで気がより引き締まり、高いパフォーマンスを発揮できると私は思っている。緊張することはプラスと捉えろ」

 浩平の言葉に、綾乃はゆっくりと頷く。

 
 いよいよ、綾乃はプロ選手に混じって練習する。綾乃はプロ選手との先週に心を躍らせている反面、緊張に襲われていた。

 綾乃は緊張することを悪いことだと捉えていたが、浩平の言葉でその考えは変わった。

「数ヶ月後、吉報が届くことを祈っている」

 浩平はそう告げ、腰を上げる。

 少し遅れて綾乃は腰を上げると浩平に頭を下げる。ドアが閉まる音が聞こえると綾乃は顔をゆっくりと上げる。

 その表情からは並々ならぬ覚悟が窺えた。

「かならず、プロ契約を掴んでみせます。見守っていてくださいね、お父様」

 浩平に向けて言葉を届け、綾乃はゆっくりとした足取りで食堂を出た。


 
 午前八時四十分。

 綾乃は二十を超える人数の前で緑の上に立っていた。

「山取東高校から参りました、一ノ瀬綾乃です。このような機会をいただけたこと、とても光栄に思います。右も左も分からない若輩者の私ですが、よろしくお願いいたします」

 綾乃は自己紹介を終え、頭を下げる。それからすぐ、選手から拍手が起こる。

 綾乃はゆっくりと頭を上げ、正面を見据える。

 そこに映るのはこの日からともに練習するプロ選手の姿。

 
 歓迎の言葉はない。

 いや、綾乃には必要ない。


 なぜなら、綾乃にとっては彼女達から起こされる拍手が歓迎の仕草なのだから。


 綾乃は静かに息をつき、心でそっと闘志を燃やす。

 その姿にお嬢様の面影はまったくなかった。
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