隣に住んでいる年上のお姉さん

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隣に住んでいる年上のお姉さん

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 十年前のこと。「これでよし…と」彼女は遊んでいる時に膝を擦りむいた僕の怪我の手当てをしてくれた。手当てが終わると彼女は公園のベンチに座った。あれが恋の始まりだった。

 彼女の名前はユキ。当時十六歳。ショートヘアーが特徴の女の子だ。僕が遊びに通った公園でよく見かける高校生だった。僕達が公園で遊んでいる時にいつもお菓子を分けてくれた優しい女の子で、ユキは毎日のように公園に足を運んでくれた。日を重ねるごとに仲良くなった。

 聞くと、ユキは僕の家の隣に住んでいた。僕はその時初めて知った。「ユキちゃんの家に遊びに行きたいな」と少し冗談交じりで聞いた。すると、「いいよ、おいで」ユキは快く家に迎え入れてくれた。一緒にゲームをしたりお菓子を作ってくれたりしてもらった。

 そんなある日、僕はいつもの公園で友達と遊んでいた。その時、僕は転んでしまい、膝を擦りむいてしまった。僕は公園の水道で汚れを落とした。だが、絆創膏を持っていなかった。僕はたまたま持っていたティッシュで傷を押さえていた。

 「ちょっと待っててね」ユキは僕の元へ歩み寄り、ガーゼとテープを取り出した。ユキは慣れた手つきで処置をしてくれた。僕はその優しさにさらに惚れた。ユキは座っていたベンチに戻り、僕たちのことを見守っていた。

 「ありがとう、ユキちゃん」「どういたしまして」ユキは笑顔でそう返した。その日以降、僕はユキに夢中になった。それ以降、ユキの家にも頻繁に出入りするようになった。すっかり家族ぐるみの付き合いになった。

 三年後、僕が中学生に、ユキは大学生になった。お互い会う機会が減ったが、ユキは時々僕の家に食べ物をおすそ分けしてくれたり、家族間での交流が続いた。「ユキちゃん、ほんといい子ね」両親からも評判が良かった。

 僕はバスケットボール部に所属していた。練習を積み、二年生の後半にレギュラーの座を掴んだ。そして、三年生になり、最後の総体が近づくにつれ「ユキちゃん、来ないかな」そんな淡い期待を抱いていた。

 総体の地区予選当日。会場に僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。ユキの声だった。ユキは僕の家族と一緒に応援に来てくれた。より気合が入った。この地区予選で僕の学校は優勝し、県大会でもベストエイトに入ることができた。

 試合後の会場の外でユキが待っていた。「頑張ったね…」そう言ってユキは僕を胸へ引き寄せた。ユキの労いの言葉とやわらかい胸の感触が忘れられなかった。

 僕が高校二年生になり、ユキはOLとして就職した。そこから会う機会がばったり減ってしまった。心の中にぽっかり穴があいたような感覚になった。「ユキちゃん、どうしてるんだろ…」そんなことをたまに考えながら高校生活を過ごした。

 高校卒業から二年後の九月。僕が夜自宅に帰ると、聞き覚えのある声が居間から聞こえてきた。ユキの声だった。ユキ会えるのは嬉しい半面、恥ずかしさもあってかなかなか挨拶に行くことが出来なかった。

 数分後、意を決して居間の戸を開け、ユキに顔を見せた。「ユキちゃん…」「ケイスケくん、久しぶりだね。元気だった?」ユキは笑顔で返した。だが、僕は「うん…」と恥ずかしさのあまり、そっけない感じの挨拶になってしまった。

 あの時と変わらずユキはショートヘアーだった。大人になり、さらにきれいになっていた。

 「今日ね、手作りケーキ持ってきたの。よかったら食べてね」「ありがとう」とても美味しそうなショートケーキだった。ユキは本当に料理が上手だ。僕は両親とユキに交じってしばらく雑談をした。

 ユキはしばらくしてお手洗いに立った。僕は台所へ行き、冷蔵庫に入っていたジュースを飲んだ。しばらくしてユキが戻ってきた。すると、僕を見たユキが外へ誘い出した。僕達は家の前の石段に座った。夕方の風が気持ちよかった。

 「そうか、もう大学生になったんだね。早いね、この前まで小学生だと思ってたのに」昔を思い出すようにユキが話した。「あの時はユキちゃんによく面倒見てもらったよね」「そうだね。ケイスケがまた怪我しないか心配しながら見てたよ」お互いに笑いがこぼれた。

 僕はユキを目を合わせることができなかった。照れてしまったからだ。昔はそんなことなかったのに…。

 「学校生活はどう?」「うん。仲の良い友達もいるし、大学でもバスケを続けてるし、充実してるよ」「そう。よかった」笑顔でユキは返した。

 「ガールフレンドはできたの?」「えっ、い、いないよそんな人…」僕はユキに好きという思いを伝えたかった。だが、勇気が出ず、僕は思わず下を向いてしまった。「どうしたの?」ユキは笑いながら僕の頭を撫でた。

 「ユキちゃんはボーイフレンドいるの?」僕は聞き返した。「大学生の頃まではいたんだけどね。結局別れちゃって。今は誰とも付き合ってないんだ」「ユキちゃんならすぐできそうなのに」「そんなことないって。ちゃんとお付き合いして。結婚もしたいって思ってるけどなかなかうまくいかなくてさ」前髪を触りながらユキはそう話した。

 その後しばらく昔の思い出などを話し、時間が過ぎていった。

 外は暗くなってきた。家の灯りも点いた。「暗くなっちゃったね。中に入ろうか」ユキが立ち上がった。その時、僕は無意識にユキの背中に抱きついた。「えっ…」そう言いながらユキは僕の方を振り向いた。

 「俺、小学生の頃からユキちゃんのこと好きだった。でも俺なんか男として見てもらえないだろうなと思ってずっと言えなかった。でも今ここで言う。ユキちゃん、俺が大学卒業するまで待っててくれる?」思わず出た言葉だった。仮に断られても後悔はない。思いを伝えることができたのだから。

 ユキは少しの間下を向いた。1分後、ユキが顔を上げ、閉じていた口を開いた。

 「私なんかでいいの?昔みたいにお世話焼いて鬱陶しく感じちゃうかもよ」「これからは世話焼かせないようにもっといい男になるから」ユキは僕の肩に手を置き、目線を合わせた。「…ふふ。期待して待ってるね。ちゃんと迎えに来てよ?」「約束する」

 僕たちは居間に戻った。

 三年後、「ユキちゃん、こっちこっち」「ごめーん。遅くなっちゃった」「じゃあ、行こうか」「今日はどこ行く?」「ここ行こうと思ってて」「いいね!行こう」

 僕はユキと交際を始めた。長年の夢が叶った。隣に住んでいる年上のお姉さんと年下の男の子から恋人の関係になった。僕はとても幸せな時間を過ごしている。

 「ケイスケ、シャツのボタン外れかけてるよ」「あ、本当だ。気付かなかった」「もう。後で私が縫い直してあげる」

 あの時と同じくユキはショートカットだった。心地よい風がユキの髪を揺らす。

 「夢じゃないんだよなあ」

 僕はこの数年後、さらに大きな幸せを手に入れた。

 そう、この先もずっとユキと一緒にいる未来を…。
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