もう1度だけ

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もう1度だけ

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 もう1度。

 もう1度だけでいいから君と…。

 それだけでいい。

 君のきれいでやわらかいその…。

 でも、それはもう叶わない。

 なぜなら…。

 君はあいつと。

 そう、クラスの人気者のあいつと。

 ずっと仲良くしてたもんね。

 僕以上に。

 僕じゃ敵わなかった。

 あいつには。

 今日も君はあいつと。

 どこへ遊びに行くか楽しそうに予定を立てている。

 どこに行くんだろう…。

 まるで、僕の手の届かないところに…。

 もう諦めよう…。

 

 数年後。

 君は僕の目の前に現れた。

 隣には誰もいない。

 君は笑顔で僕の元へ駆け寄り、抱きついた。

 僕は君を受け止めた。

 「最後にもう1度だけ…」

 君は泣きながらそう言った。

 そして、僕の頬に…。

 それが君との最後だった。
 

 数か月後。

 君は旅に出た。

 僕の手の届かないところに…。

 遠い遠いところに…。

 誰のものにもならずに…。

 
 その数日後、青空の下を僕は歩いた。

 すると、誰かが僕の右肩に手を置いた。

 そんな気がした。

 立ち止まり、振り向いた僕。

 だが、誰もいない。

 僕は再び歩いた。

 すると、背後から誰かの気配を感じた。

 だが、振り向かずに歩いた。

 しばらくすると、その気配は消えた。
 
 その瞬間、僕は立ち止まり、空を見上げた。

 すると、あの子が眩しいほどの笑顔を見せていた。

 僕は笑みを浮かべた。

 目を潤ませながら…。

 もしかしたら。
 
 あの子がもう1度だけ会いに来てくれたのかもしれない…。
 
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