婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai

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野営

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『今日はここで野営をしましょう』

 街道沿いで何組か野営をしている開けた場所を見つけ、時間もちょうど良いし今日はここで野営をすることにする。
 いつも通りできるだけ目立たないように端に向かい、マジックバッグから出しているふりをしながらアイテムボックスから野営道具を出す。
 とは言ってもアイテムボックス持ちほどではないとはいえ、マジックバッグを持っている人も少ないんだけれどね。

 今日の夕食のメインはノアが狩ってきたルートホーンディアのステーキだ。まずルートホーンディアの血を魔法で吸い出し、血の臭いが広がらないように血を乾燥させ土に返す。
 少し前までこのやり方を忘れていて必死に木に吊るして血抜きをしたのが懐かしい。
 血抜きってこんなに大変だったっけ!? と思い前世ではどうしてたかしら? と考えてみたら、全て魔法で済ませていたのを思い出した。
 魔物を狩ったらアイテムボックスに入れればいいとはいえ大型の魔物だと狩ってすぐは血がドバドバ出てるので、冒険者ギルドに持っていくことを考えてある程度まで自分で血抜きをしていたのだ。
 前世の血抜き方法を思い出してすぐは今までの私の苦労はなんだったの……! とショックを受けたが、気にしても過去は戻らないので木に吊るして血抜きをしていたのは忘れることにする。

 夕食までに全て解体するには時間が足りないので、とりあえずルートホーンディアの足を魔法で落とし皮を剥いでステーキサイズに肉を切り分ける。

『リア、早く焼こう!!』

 ノアはさっきからお肉に目が釘付けで涎を垂らしそうな顔をしながらお肉を見つめている。

 リアはしかたないなぁ、と言いながらフライパンに脂を引くとフライパンに入るギリギリサイズの大きなお肉を選び焼き始める。
 お肉を入れると、ジュッという音とともにお肉の焼ける良い匂いが漂い始める。

 周りで野営している人からチラチラと視線を感じて少し申し訳ない気がしてしまう。
 野営と言ったら干し肉と焼き固めたパンが主流だからね。
 アイテムボックスやマジックバッグがあれば新鮮な食料を持ち運んで食べられるかもしれないが、もしアイテムボックスやマジックバッグがあったとしても商隊ならその分荷物を増やすだろう。
 そんな中こんな美味しそうなステーキの香りを嗅ぎながら干し肉を食べるのはもはや修行のようなものだろう。

『さ、できたわよ』

 ノアが待てなそうなので食べやすいように一口サイズにカットしてお皿にのせて先にだす。
 先に食べてもいいの? とでもい言うようなつぶらな瞳で見つめてきたので、笑いながらいいよ、と言うとものすごい勢いで食べ始めた。

 明らかに今のノアのサイズでは食べきれない量なんだけれど、なぜかノアはいつも完食してしまうのだ。
 物理的におかしいが、きっと本当の姿はグリフォンだからいっぱい食べるのね! と無理やり自分を納得させる。

 ノアにお肉を出し終わったので自分の分も焼いて食べてみると程よく脂がのっていて柔らかく、噛むと肉汁がジュワッと出てきてとても美味しい。
 さすが鑑定でお肉が美味しいと出ただけあるわ!

「すみません、もしお肉に余りがあれば購入させていただけませんか?」

 お肉の美味しそうな香りに耐えきれなくなったのか、売って欲しいという人が1人声をかけてくるとそれを見た人が次々に来たので切り分けてあったお肉を分けてあげた。
 大きなルートホーンディアの脚を丸々一本解体して肉にしたけど私とノアだけじゃそんなに食べられないからね。
 なんだかお肉を売っただけなのにものすごく感謝されてしまった。

 食事が終わるといつも通りノアと一緒に布団に入り、「今日食べたルートホーンディアのお肉、美味かったね」とノアに伝えると「そうだろう! また私が狩ってこよう!」と嬉しそうにしていたが、今日は門に行ったり狩りやお肉にはしゃぎ過ぎたのか涎を垂らしながらむにゃむにゃ言って寝ている。
 こんなに涎を垂らして、お肉を食べる夢でも見ているのだろうか。

 今世は公爵家に生まれて、家族仲は良かったけれどこんなふうに誰かと一緒に寝た記憶がない。
 小さな頃から豪華な個室を与えられ大きくてふかふかなベッドで1人で寝ていた。
 それも幸せだったけれど、こういう風にテントでノアと一緒に布団に包まるのも気持ちがいいわ。 

 今頃家族は何をしているのかしら。
 お父様とお兄様はお仕事を頑張り過ぎてないかしら。 
 お母様は心配して泣いてはいないかしら。
 みんな、いつも通り仲良く幸せに暮らしているといいなぁ。

 いつの間にか瞼が下がってきて目が閉じそうだ。
 今日は色々あったから、ノアだけじゃなく私も結構疲れていたみたいね。明日もあることだしもう寝ましょう。

 既に夢の中にいるノアに「ノア、おやすみなさい」と声をかけ、私も眠りについた。
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