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王城にて2 アールグレーン公爵
しおりを挟む3人が真剣に王の言葉に耳を傾ける。
「アールグレーン嬢が、私の息子である第二王子アンドレとの結婚を望んでいなかったとしたら?」
そう王が言うと皆ハッとしたように口を噤む。
確かに。オレリアの結婚は王と私が決めた政略結婚だ。王族との結婚ほど良いものはないと私は思ったが、オレリアはどうだっただろうか?
「オレリア喜べ! 第二王子とオレリアの婚約が決まったぞ。これ以上ない良い相手だ!」
婚約が決まった幼い頃、そう伝えた時オレリアは「良いお相手を見つけてくださりありがとうございます。お父様に従います」と言っていた。
喜んでいたか? と言われると、喜んではいなかったような気がする。
妃教育も真面目に行い、舞踏会などで殿下のパートナーを務める時は王子の隣に立って恥ずかしくないようめかし込んでいたが、はしゃいだり恥じらったりしているのは見たことがない。
それに王子との婚約を破棄するためという理由なら、家族にも魔法が使えることを秘密にするというのもありえる。
この婚約を決めてきたのはこの私だからだ。
オレリアには当主の私と王の決めた婚約を第二王子が嫌だという理由で破棄することはできなかったあろう。
それで魔法が使えないなどと嘘をついたのではないだろうか?
考え始めるともう、それしか理由がないような気がしてしまう。
オレリアがこの話を聞いたら、「違う! 全然違うよ! 婚約破棄のショックで前世で伝説の魔法使いアデライト・アールグレーンだった頃の記憶を思い出して魔法が使えるようになっただけ!」と言いたいだろうが、残念ながらオレリアは何も知らず今頃はノアに乗って空の上だ。
「どうだ? 父のそなたから見て、アールグレーン嬢はアンドレとの結婚を望んでいたか?」
そう王に聞かれ、王子本人の前で伝えるのも気まずいが「そう言われてみると、殿下との婚約を喜んでいる姿は見たことがございません」とハッキリ伝える。
王子は「そ、そんな……」とショックを隠せず、口をパクパクとさせるが言葉にならないようだ。
魔法も使えず王子である自分に媚びてこない婚約者と婚約破棄し魔法の得意な新しい婚約者との今後のため冤罪を着せ国外追放にしたと思ったら、その相手が実は新しい婚約者よりも強い魔法使いで自分との結婚が嫌だったから魔法を使えることを隠していたのだとわかったらショックも受けるだろう。
正直オレリアを国中の貴族が集まる舞踏会であんな目に合わせた相手だと思うとザマァみろと思ってしまう。
「アールグレーン嬢がそこまで強力な魔法を使えるとなると話は違う。今回のことは申し訳なかった。一応追手をかけてはいるが、グリフォンに乗ったアールグレーン嬢に追いつける可能性は低い。もし今後アールグレーン嬢から連絡が来たら知らせてほしい」
そう王は頭を下げて言うが、何を今更。
オレリアが力のある魔法使いだと知り、隣国に力のある魔法使いをタダで渡すと思い惜しくなったのだろう。
オレリアが実は魔法を使えるという話になったから助かったものを!
もしもオレリアが本当に魔法を使えなかったら、船も使えず護衛も付けられず大森林で死んでいたのだぞ!
それに追手をかけたということは、ここまでしておいてまたオレリアをこの王子の婚約者に戻そうというのか!?
アールグレーン公爵は心の中でオレリアから連絡が来ても誰が知らせてやるものか。と思いながら「承知いたしました」とニッコリ笑って言う。
横目で妻を見ると、妻も私と同じ気持ちのようで黒い笑顔で優雅に微笑んでいる。
このバカ王子も「オレリア嬢なら公爵令嬢と身分も高い。そんなに強力な魔法使いなら私の婚約者に相応しいだろう」などとほざきながら、グリフォンが従魔というのも良いな! などと言っている。
このトリ頭はさっきオレリアが王子との結婚が嫌で魔法を使えることを黙っていたという話をしていたのを忘れたのだろうか?
隣国に行こうと、連絡が取れ無かろうと、オレリアが生きて幸せになってくれればそれでいい。
どうか、どうか。
追手に捕まらずに隣国まで逃げ切って欲しい。
アールグレーン公爵夫妻は娘が生きていたことを神に感謝し、娘の幸せを願って祈りを捧げるのだった。
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