婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai

文字の大きさ
29 / 113

グレーゲル3

しおりを挟む
 
「ロルフ! どうしたの!?」

 大急ぎでここまで走ってきたであろうロルフの額には幾つもの大粒の汗が浮かんでいる。

「母さんが! 母さんが!! 夕方からいつもより具合が悪そうだったんたけど、さっき急にぐったりしてて動けなくなって……。お姉さん! 一昨日、俺とミルルの怪我を魔法で治してくれただろう? お願いします! 母さんを助けてください! 回復魔法がものすごく高いのは知ってる。いっぱい働いて絶対にお金は払うから! だから、だから……う、ヒック、うぅ……」

 あの体の弱いと言っていたお母さんが!?

 ロルフは途中から我慢できなくなったのか、涙を流しながら床に頭がつきそうなほど頭を下げる。

「……家はどこ? 案内して! 急いで向かうわよ!」

「!! ……ありがとう!」

それを聞いたロルフはバッと顔を上げ、また深く頭を下げた。





「ここを曲がればもうすぐだ!」

 ロルフと一緒に宿を出て走り出し15分。
 辺りにはどんどん貧しそうな家が増えてくる。
 貧民街というやつだろうか。
 考えてみればロルフとミルルが一生懸命木の実や薬草の採取をしたところで、子供2人の収入ではロクな家に住めないことなど分かりきっていた。

「着いたよ! この家だ!」

 勢いよくドアを開け中に入っているロルフに続く。

「ミルル、母さんはどうだ!?」

 ボロボロのベッドに青白い顔で横たわる女性。
 この人がロルフとミルルの母親か。
 ロルフとミルルの母親ならそんなに歳はとってないはずだが、痩せ細ってシワができ予想よりかなり歳をとって見える。
ミルルはベットの横に座り込んでおり、ロルフが私を呼びに行っている間に母親の面倒を見ていたようだ。

「ロルフ! お姉さんも! ダメなの、さっきから話すのも辛いみたい。……どうしよう! もしお母さんが死んじゃったらどうしよう!!」

 寝ている女性は呼吸も弱々しく、今にも死んでしまいそうだ。
 ミルルもロルフもそんな母親の状態をわかっているのか、涙を流しながらベッドにいる母親に「母さん! 母さん!」と縋りつく。

 私を連れてきたはいいが、ここまで病状が酷くては私の回復魔法ではどうにもならないと思ったのだろう。
 確かに瀕死の人間を治すほど強い回復魔法を使える人はそういない。いるとすれば教会の上層部だろう。それも王侯貴族が莫大な金を払って順番待ちをしている状況だ。

「診てみるから少し退いててもらえる?」

 2人が母親の頭側へ移動したのでベッドの横に膝立ちになり母親の状態を確認する。

 初めにあった時ロルフとミルルは母親は体が弱いと言っていたけれど、これは体が弱いってレベルじゃない。
 明らかに病気だわ。
 私に医学の知識があれば、悪いところにピンポイントで魔法をかけられるんだけど……。

 「【ヒール】」

 一旦軽くヒールをかけてみると全身から反発のようなものを感じる。
 全身に何か病が広がっているということかしら?特に反発がひどいところが何箇所かあるけど……。
 私に医療の知識があれば効率よく回復をかけることができるのだけど。 
 そんなこと考えてても私は医者でもないし、病気にも詳しくない。

「よし、わかったわ」

 仕方ないけど魔力でゴリ押しするしかなさそうね。

「なんとかなるのか!? 母さん、助かるのか!?」

 2人は私が呟いたのを聞いて祈るようにこちらを見る。

「任せて。すぐに治すわ!【エクストラハイヒール】!」

 魔法をかけると部屋中に柔らかな優しい光が現れる。

「綺麗……」

 光の中には金の粒が舞っておりものすごく幻想的だ。
さすがエクストラハイヒール。最上級の回復魔法なだけある。

 光が落ち着くと先程まで弱々しい呼吸をしていた女性がすやすやと眠っている。

「母さん!!」
「お母さん!!」

 2人の声で目を覚ましたのか、ゆっくりと瞼を上げる。

「……あら? 2人とも、そんな顔をしてどうしたの? そちらの方は? お友達?」

 母親はさっきまで意識がなかったからかどうして2人がこんなに必死な顔をしているのか、私が家にいるのかわかっていないようだ。

「おがあざん、死んじゃうがと、思っだ……」

 もうミルルなんて涙と鼻水で何を言っているのかよくわからない。

 ロルフも泣いてはいるが、さすがお兄ちゃん。
 お母さんへしっかりと説明を始める。

「そう、だったの……」

 なんとなく私の勘だけど、お母さんは自分の状態をわかっているようだった。

「私はロルフとミルルの母親でラウラといいます。貴方のおかげで助かりました。ありがとうございます」

 そう深々と頭を下げた母親は、これまでのことを話し始めた。

 やっぱり私の予想通り体が弱いのではなく病気だった。
 以前は健康体だったがミルルを産んでしばらくしてから体調を崩すことが多くなったという。
 はじめは疲れからだと思っていたがなかなか治らない体調不良におかしいと思い病院へ行くと、体に腫瘍のようなものができていると言われたそうだ。
 腫瘍はどんどんと体に広がっていき、いずれ命を落とすと。
この病は教会で回復魔法をかけてもらわなければ治らないがそれには莫大なお金がかかる。
 それを知った冒険者の父親はお金を貯めようと無理な依頼を繰り返し受け命を落とした。

 病気の自分1人では回復魔法をかけてもらえるほどのお金は稼げない。
 だから割り切って残りの時間を出来るだけ子供達のために使おうと決めていたと言う。

「この病を治すには莫大なお金がかかると知っています。貴方のおかげでこの通り病も治りました。これからたくさん働いて、お金は必ずお支払いします」

 ロルフとミルルは今まで知らなかった事実に呆然としていたが、母親の言葉を聞いてハッとしたように言う。

「俺も! いっぱい働いて絶対お金を払うよ!」

「私もお兄ちゃんと一緒に働いてお金を貯めるよ!」

 そうは言われても私は明日にはこの国を出るし、お金が欲しくてラウラさんを助けたわけじゃない。

「お金はいらないわ。私は医者でも教会で働いているわけでもないし、お金が欲しくて助けたんでもない。それよりもこれからは今までの分、ロルフとミルルといっぱいいろんなことを楽しんで!それで私は充分だわ」

 それを聞いた3人は「ありがとうございます! ありがとうございます!」と何度も何度もお礼を言い頭を下げる。
こんなにお礼を言われたらちょっと照れくさい。

 空気を変えようと、病み上がりのラウラさんにも食べやすいようたっぷりの野菜とお肉がじっくり柔らかく煮込まれたスープをアイテムボックスから鍋ごと出すとロルフに渡す。

「さ、3人ともお腹が空いているでしょ! ラウラさんもしっかり食べて力をつけて!」

 空気を変えようとスープを出したのに3人はさらに何度もお礼を言うが、スープをお皿によそって渡してあげると「おいしいね」、「本当だ! おいしいね」と食べ始めた。

「それじゃ、私はそろそろ宿に帰るわね」

 3人が立ち上がり見送りに出ようとしたが、まだ病み上がりなんだから! と言って断る。
 
 行きは急いでいたため気がつかなかったが、外へ出ると月がとっても綺麗にでている。清々しい夜だ。
 ラウラさんは助けられたし、明日はついに大森林へ向かえるし、良い夜だわ。
 私はスッキリとした気分で宿への道を歩いていった。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...