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王宮にて 王太子の決意
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ああ。とうとう王宮へ着いてしまった。
あの後1日で準備を終えた私は、ドナートから資料を受け取り次の日の朝に少数の護衛を連れて領を発った。護衛に連れてきた精鋭達と私だからできたことだが、食事と睡眠以外は馬を走らせ最短で帝都へと到着した。
帝都へ到着してすぐに皇帝陛下へ謁見申込の使いを出し、その間に帝都の屋敷で風呂に入り馬に乗ってついた土埃を落とす。陛下はお忙しい方だから急ぎとはいえ数日は待つかと思ったが、意外にも明日時間をとってくださるとのことだった。
これはグリフォンとフェンリルのいる領を空けたくないという私の気持ちが神に伝わったに違いない。
「皇帝陛下。エッカルト・クレンセシア辺境伯が参りました」
この部屋の扉を守る近衛騎士が外から声をかける。
「入れ」
「失礼いたします。エッカルト・クレンセシアでございます。急な謁見を受けてくださりありがとうございます」
部屋に入り膝をつき挨拶をすると、皇帝は豊かな髭を撫でながらこちらを見る。
「ああ、そんな畏まらずともよい。この部屋には息子と宰相しかおらぬ。それで? お前がこんな急に謁見を申し込むとは珍しいじゃないか。まさか大森林で何か起こったのか?」
急な謁見にもかかわらずすぐにお会いできたのも、謁見の間ではなく応接室で内密な会にしてくれたのも、陛下もドナートに報告を受けた時の私と同じくスタンピードや魔物による事件を想像しているからか。
「報告いたします。先日、クレンセシア領の森林側の門からある冒険者が入国いたしました。その冒険者は非常に強力な魔物を2匹も従魔にしており、私だけでは判断ができずご報告に参りました」
スタンピードを警戒していた陛下はその言葉を聞いて少し気が抜けたような顔をしている。
まぁスタンピードとなったらかなりの人員、物資が必要だしそれなりの犠牲もでるからな。
「ぼ、冒険者とな。その冒険者がなんだというのだ? 強力な魔物を従魔にしている者など他にもいるだろう?」
「他の者とはレベルが違うのです」
「なんだ? まさかドラゴンなどとは言うまいな!ハッハッハッ!」
あぁ、陛下。この流れは私も身に覚えがございます!
「似たようなものです」
「な、なにぃ!?」
陛下の瞳は大きく見開かれ、驚きで腰を浮かせ今にも椅子から立ち上がりそうだ。
横に控えている皇太子殿下と宰相閣下も皇帝陛下が話しているので声は上げないが驚愕の表情で今すぐにでも色々聞き出したい! と言う顔をしている。
「ドラゴンのようなものとは一体何の魔物なのだ!?」
「その冒険者はグリフォンとフェンリルを従魔にしているのです」
「グリフォンとフェンリル……」
陛下はそう呟くと顎髭を撫でながら考え込む。
「……それだけの魔物を2匹も従魔にしているとは、その冒険者はどこかの国の紐付きか? 大森林側の門から来たと言うことはルボワール王国か。いや、あの国は船での交易が盛んだ。他の国ということもありえるか。それよりもそれだけ強力な従魔を連れてきた理由を知りたい。我が国を調べるだけなら密偵を使えば良いはず。その従魔を使い攻撃でもされたら厄介だ。
グリフォンとフェンリルなぞ御伽噺でしか知らんぞ。実際はどの程度の実力なのだ?それを従えている冒険者はどのような意図で動いている?」
さすが陛下だ。
穏やかな方に見えて頭の回転はすこぶる速い。私とドナートが話し合って導き出したことを瞬時に察する能力は流石と言える。
「まだ戦っているところは見ておりませんので実力はなんとも言えません。その冒険者については、調べてみましたが色々な噂があり事実かどうかは……」
ドナートに調べさせた結果、資料に書かれていたのはどれも信じ難いことだった。
「よい。話してみよ」
「はい。まず冒険者の名前はリア。調べた時点ではBランク冒険者ですが、もうすぐAランクに上がる予定だそうです」
「まぁ、それだけの従魔を連れているのだから妥当だな。むしろSランクではないのがおかしいくらいだ」
「そして大森林の奥地に住んでおり、魔物の主、大森林の魔女と呼ばれています」
陛下は「んなぁっ!?」と聞いたことのないような声を上げる。
「だ、大森林に住んでいるだと!? 正気か!!?」
「私もそう思ったのですが、これは冒険者ギルドの酒場で知り合いの冒険者と酒を飲んでいた本人が言ったそうです」
「うぅむ……。グリフォンとフェンリルがいたら、可能なのか? いやだが、あの強力凶暴な魔物の住む大森林の奥地で暮らしているとは、正気とは思えんな。だが大森林側の門から入ってきたことの説明はつくか」
「はい。そして見た目は若い女性ですが、数百年を生きる魔女だとみな口々に言っております」
陛下はポカンと口を開ける。
「……そんなこと、あり得るのか?」
「父上!!」
ずっと大人しく控えていた皇太子殿下が声を上げる。
この方がこのように陛下の話に入ってくるなど珍しい。
「その数百年を生きるという魔女だったら、母上の病を治せるのではないですか!?」
皇妃様はここしばらく公の場に姿を見せていない。
体調を崩していると言っていたが、内密にセフィーロ神聖教国の回復魔法の使える神官を呼んでいると噂があった。
セフィーロ神聖教国は他の国とくらべて回復魔法を使える魔法使いが多く、回復については世界一だと言われている。
それでもまだ皇妃様がお姿を見せないと言うことはセフィーロ神聖教国でもダメだったのだろう。
「……わかった。その魔女へ使者を出そう。どのみちそれほどの魔物を従魔にしているのだったらそのままにはしておけない。意図を探らなければ。その魔女は今クレンセシアにいるのであったか?」
「はい。私が町を出た時はクレンセシアにおりましたが、今はどうかわかりません」
「では使者をクレンセシアに向かわせ、そこで見つからなければ冒険者へ依頼を出し大森林へ。大森林の奥へ向かう可能性も考えればSランクパーティもいたほうが良いな。金色の逆鱗に依頼を出そう」
金色の逆鱗!
竜の獣人がリーダーのラルージュ帝国1のSランクパーティ!
しかし、大森林の魔女がクレンセシアに来るのを待たず大森林の中にまで探しに行かねば間に合わないほど皇妃様の容体は悪いというのか。
広い大森林の中を捜索するということはそれなりの日数もかかる。その期間Sランクパーティを雇うとなるとかなりの報酬を用意しなければならないだろう。
それだけ今回の可能性に賭けている、いや、ここに賭けるしかもう後がないのだろう。
「父上、その使者のメンバーに私も加えていただきたい!」
「なんだと!? お前はこの国皇太子だぞ! そんなこと許可できるわけがないだろう!」
「そうです! 大森林に入るかもしれないのですよ!? 危険すぎます!」
これにはずっと後ろで控えていた宰相も驚いたのか思わずといった表情で口を挟む。
「その魔女がどんな人なのかはわかりませんが、使者だけを送って本人が来ないことで機嫌を損ねてしまったら? 皇太子である私が直接頼みに行けば話を聞いてもらえる確率が上がるかもしれない! もう母上を救うにはここに賭けるしかないのです! 私は今まで騎士団長の指導の元剣を学んできました。いざという時は自分の身を守ることくらいはできるつもりです。
父上、お願いいたします!」
陛下は考え込んでしまった。
この国のことを考えるならば皇太子の安全を優先すべきだろうが、皇帝陛下と皇妃様は王侯貴族では珍しく恋愛結婚でとても仲が良い。
もう助からないと思っていたところに希望が見えたのだ、藁にも縋る思いだろう。
「陛下。私の部下に魔女の町での様子を探らせたところ、冒険者や冒険者ギルドの受付け嬢との交流はしているようです。話しの通じない相手ではないはずです」
陛下は悩みに悩み、なにかを決意した表情で顔を上げる。
「……わかった。許可しよう」
「父上! ありがとうございます!」
「陛下、危険でございます! 無事大森林の中でその魔女を見つけたとしても、その魔女がどんなやつかはわかりません!」
「宰相の心配はよくわかる。だが今回が皇妃を助ける最後の希望なのも確かだ。騎士団長を呼べ。皇太子には騎士団長をつけよう」
騎士団長は平民の出でありながら、圧倒的な剣の腕で功績を上げその地位を掴んだ人物だ。
たしかに皇太子殿下をお守りするのに彼以上の人材はいない。
「失礼いたします。騎士団長ジルヴェスター・フォシュマンが参りました」
「入れ」
「失礼致します。ジルヴェスター・フォシュマンでございます。急ぎの要件だと聞き、駆けつけました」
走ってきた様子にもかかわらず息一つ乱れていない。
高い身長に短く刈り上げた髪。眼光は鋭く、剣を振るっている腕は筋肉で太く丸太のようだ。
私も国境を任せれている身。大森林に何か問題があれば自ら兵を率いて戦うこともあるので普段から鍛えているが、まったく比べ物にならない。
騎士団長は宰相からこれまでの話を聞くと眉を顰める。
「グリフォンとフェンリルですか……」
「どうだ? やれるか?」
「正直大森林の奥地は入ったことがありません。いったいどのレベルの魔物が出るかはわかりませんが、今までの経験から予想すると倒すことは難しいでしょう。私にできることは出来るだけ強い魔物から逃げつつ大森林の中から魔女を探し出し、もしもの場合は全力を尽くして皇太子殿下の逃げる隙を作ることくらいです」
「そうか。だが皇太子が無事戻る確率を少しでも上げたい。よろしく頼む」
「ハッ! かしこまりました!」
「では騎士団から数人、特に腕の良いものを選んでくれ。そして皇太子と共にクレンセシアへ向かい、魔女を探せ。もし魔女がクレンセシアを発った後ならそのまま大森林を捜索。金色の逆鱗には私から依頼を出しクレンセシアに向かうよう伝えよう。クレンセシアなら腕利きの冒険者も多かろう。金色の逆鱗以外にも必要であれば冒険者を雇え。資金は皇太子に渡しておく。くれぐれもよろしく頼むぞ」
「ハッ!私の命に代えても皇太子様をお守りいたします」
皇帝陛下はゆっくりと頷く。
「それではすぐ準備にかかれ。無駄な時間はない。
辺境伯、クレンセシアの町まで同行してくれ」
「かしこましました」
帝都の屋敷に戻りクレンセシアへ帰る準備をする。
領から一緒に来てくれたものには休む時間をあまり与えられず申し訳ないが、皇妃様のためである。
領へ帰る準備をしながら待つこと2日、王宮から準備が完了し明日出発するとの連絡が来た。
皇太子殿下がいるにもかかわらずこの早さ。この早さが皇妃様の容体を物語っている。
なんとか皇妃様の病を治す手が見つかれば良いが……。
悔しいが私には魔女探しの旅の成功を祈るしかない。
あの後1日で準備を終えた私は、ドナートから資料を受け取り次の日の朝に少数の護衛を連れて領を発った。護衛に連れてきた精鋭達と私だからできたことだが、食事と睡眠以外は馬を走らせ最短で帝都へと到着した。
帝都へ到着してすぐに皇帝陛下へ謁見申込の使いを出し、その間に帝都の屋敷で風呂に入り馬に乗ってついた土埃を落とす。陛下はお忙しい方だから急ぎとはいえ数日は待つかと思ったが、意外にも明日時間をとってくださるとのことだった。
これはグリフォンとフェンリルのいる領を空けたくないという私の気持ちが神に伝わったに違いない。
「皇帝陛下。エッカルト・クレンセシア辺境伯が参りました」
この部屋の扉を守る近衛騎士が外から声をかける。
「入れ」
「失礼いたします。エッカルト・クレンセシアでございます。急な謁見を受けてくださりありがとうございます」
部屋に入り膝をつき挨拶をすると、皇帝は豊かな髭を撫でながらこちらを見る。
「ああ、そんな畏まらずともよい。この部屋には息子と宰相しかおらぬ。それで? お前がこんな急に謁見を申し込むとは珍しいじゃないか。まさか大森林で何か起こったのか?」
急な謁見にもかかわらずすぐにお会いできたのも、謁見の間ではなく応接室で内密な会にしてくれたのも、陛下もドナートに報告を受けた時の私と同じくスタンピードや魔物による事件を想像しているからか。
「報告いたします。先日、クレンセシア領の森林側の門からある冒険者が入国いたしました。その冒険者は非常に強力な魔物を2匹も従魔にしており、私だけでは判断ができずご報告に参りました」
スタンピードを警戒していた陛下はその言葉を聞いて少し気が抜けたような顔をしている。
まぁスタンピードとなったらかなりの人員、物資が必要だしそれなりの犠牲もでるからな。
「ぼ、冒険者とな。その冒険者がなんだというのだ? 強力な魔物を従魔にしている者など他にもいるだろう?」
「他の者とはレベルが違うのです」
「なんだ? まさかドラゴンなどとは言うまいな!ハッハッハッ!」
あぁ、陛下。この流れは私も身に覚えがございます!
「似たようなものです」
「な、なにぃ!?」
陛下の瞳は大きく見開かれ、驚きで腰を浮かせ今にも椅子から立ち上がりそうだ。
横に控えている皇太子殿下と宰相閣下も皇帝陛下が話しているので声は上げないが驚愕の表情で今すぐにでも色々聞き出したい! と言う顔をしている。
「ドラゴンのようなものとは一体何の魔物なのだ!?」
「その冒険者はグリフォンとフェンリルを従魔にしているのです」
「グリフォンとフェンリル……」
陛下はそう呟くと顎髭を撫でながら考え込む。
「……それだけの魔物を2匹も従魔にしているとは、その冒険者はどこかの国の紐付きか? 大森林側の門から来たと言うことはルボワール王国か。いや、あの国は船での交易が盛んだ。他の国ということもありえるか。それよりもそれだけ強力な従魔を連れてきた理由を知りたい。我が国を調べるだけなら密偵を使えば良いはず。その従魔を使い攻撃でもされたら厄介だ。
グリフォンとフェンリルなぞ御伽噺でしか知らんぞ。実際はどの程度の実力なのだ?それを従えている冒険者はどのような意図で動いている?」
さすが陛下だ。
穏やかな方に見えて頭の回転はすこぶる速い。私とドナートが話し合って導き出したことを瞬時に察する能力は流石と言える。
「まだ戦っているところは見ておりませんので実力はなんとも言えません。その冒険者については、調べてみましたが色々な噂があり事実かどうかは……」
ドナートに調べさせた結果、資料に書かれていたのはどれも信じ難いことだった。
「よい。話してみよ」
「はい。まず冒険者の名前はリア。調べた時点ではBランク冒険者ですが、もうすぐAランクに上がる予定だそうです」
「まぁ、それだけの従魔を連れているのだから妥当だな。むしろSランクではないのがおかしいくらいだ」
「そして大森林の奥地に住んでおり、魔物の主、大森林の魔女と呼ばれています」
陛下は「んなぁっ!?」と聞いたことのないような声を上げる。
「だ、大森林に住んでいるだと!? 正気か!!?」
「私もそう思ったのですが、これは冒険者ギルドの酒場で知り合いの冒険者と酒を飲んでいた本人が言ったそうです」
「うぅむ……。グリフォンとフェンリルがいたら、可能なのか? いやだが、あの強力凶暴な魔物の住む大森林の奥地で暮らしているとは、正気とは思えんな。だが大森林側の門から入ってきたことの説明はつくか」
「はい。そして見た目は若い女性ですが、数百年を生きる魔女だとみな口々に言っております」
陛下はポカンと口を開ける。
「……そんなこと、あり得るのか?」
「父上!!」
ずっと大人しく控えていた皇太子殿下が声を上げる。
この方がこのように陛下の話に入ってくるなど珍しい。
「その数百年を生きるという魔女だったら、母上の病を治せるのではないですか!?」
皇妃様はここしばらく公の場に姿を見せていない。
体調を崩していると言っていたが、内密にセフィーロ神聖教国の回復魔法の使える神官を呼んでいると噂があった。
セフィーロ神聖教国は他の国とくらべて回復魔法を使える魔法使いが多く、回復については世界一だと言われている。
それでもまだ皇妃様がお姿を見せないと言うことはセフィーロ神聖教国でもダメだったのだろう。
「……わかった。その魔女へ使者を出そう。どのみちそれほどの魔物を従魔にしているのだったらそのままにはしておけない。意図を探らなければ。その魔女は今クレンセシアにいるのであったか?」
「はい。私が町を出た時はクレンセシアにおりましたが、今はどうかわかりません」
「では使者をクレンセシアに向かわせ、そこで見つからなければ冒険者へ依頼を出し大森林へ。大森林の奥へ向かう可能性も考えればSランクパーティもいたほうが良いな。金色の逆鱗に依頼を出そう」
金色の逆鱗!
竜の獣人がリーダーのラルージュ帝国1のSランクパーティ!
しかし、大森林の魔女がクレンセシアに来るのを待たず大森林の中にまで探しに行かねば間に合わないほど皇妃様の容体は悪いというのか。
広い大森林の中を捜索するということはそれなりの日数もかかる。その期間Sランクパーティを雇うとなるとかなりの報酬を用意しなければならないだろう。
それだけ今回の可能性に賭けている、いや、ここに賭けるしかもう後がないのだろう。
「父上、その使者のメンバーに私も加えていただきたい!」
「なんだと!? お前はこの国皇太子だぞ! そんなこと許可できるわけがないだろう!」
「そうです! 大森林に入るかもしれないのですよ!? 危険すぎます!」
これにはずっと後ろで控えていた宰相も驚いたのか思わずといった表情で口を挟む。
「その魔女がどんな人なのかはわかりませんが、使者だけを送って本人が来ないことで機嫌を損ねてしまったら? 皇太子である私が直接頼みに行けば話を聞いてもらえる確率が上がるかもしれない! もう母上を救うにはここに賭けるしかないのです! 私は今まで騎士団長の指導の元剣を学んできました。いざという時は自分の身を守ることくらいはできるつもりです。
父上、お願いいたします!」
陛下は考え込んでしまった。
この国のことを考えるならば皇太子の安全を優先すべきだろうが、皇帝陛下と皇妃様は王侯貴族では珍しく恋愛結婚でとても仲が良い。
もう助からないと思っていたところに希望が見えたのだ、藁にも縋る思いだろう。
「陛下。私の部下に魔女の町での様子を探らせたところ、冒険者や冒険者ギルドの受付け嬢との交流はしているようです。話しの通じない相手ではないはずです」
陛下は悩みに悩み、なにかを決意した表情で顔を上げる。
「……わかった。許可しよう」
「父上! ありがとうございます!」
「陛下、危険でございます! 無事大森林の中でその魔女を見つけたとしても、その魔女がどんなやつかはわかりません!」
「宰相の心配はよくわかる。だが今回が皇妃を助ける最後の希望なのも確かだ。騎士団長を呼べ。皇太子には騎士団長をつけよう」
騎士団長は平民の出でありながら、圧倒的な剣の腕で功績を上げその地位を掴んだ人物だ。
たしかに皇太子殿下をお守りするのに彼以上の人材はいない。
「失礼いたします。騎士団長ジルヴェスター・フォシュマンが参りました」
「入れ」
「失礼致します。ジルヴェスター・フォシュマンでございます。急ぎの要件だと聞き、駆けつけました」
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高い身長に短く刈り上げた髪。眼光は鋭く、剣を振るっている腕は筋肉で太く丸太のようだ。
私も国境を任せれている身。大森林に何か問題があれば自ら兵を率いて戦うこともあるので普段から鍛えているが、まったく比べ物にならない。
騎士団長は宰相からこれまでの話を聞くと眉を顰める。
「グリフォンとフェンリルですか……」
「どうだ? やれるか?」
「正直大森林の奥地は入ったことがありません。いったいどのレベルの魔物が出るかはわかりませんが、今までの経験から予想すると倒すことは難しいでしょう。私にできることは出来るだけ強い魔物から逃げつつ大森林の中から魔女を探し出し、もしもの場合は全力を尽くして皇太子殿下の逃げる隙を作ることくらいです」
「そうか。だが皇太子が無事戻る確率を少しでも上げたい。よろしく頼む」
「ハッ! かしこまりました!」
「では騎士団から数人、特に腕の良いものを選んでくれ。そして皇太子と共にクレンセシアへ向かい、魔女を探せ。もし魔女がクレンセシアを発った後ならそのまま大森林を捜索。金色の逆鱗には私から依頼を出しクレンセシアに向かうよう伝えよう。クレンセシアなら腕利きの冒険者も多かろう。金色の逆鱗以外にも必要であれば冒険者を雇え。資金は皇太子に渡しておく。くれぐれもよろしく頼むぞ」
「ハッ!私の命に代えても皇太子様をお守りいたします」
皇帝陛下はゆっくりと頷く。
「それではすぐ準備にかかれ。無駄な時間はない。
辺境伯、クレンセシアの町まで同行してくれ」
「かしこましました」
帝都の屋敷に戻りクレンセシアへ帰る準備をする。
領から一緒に来てくれたものには休む時間をあまり与えられず申し訳ないが、皇妃様のためである。
領へ帰る準備をしながら待つこと2日、王宮から準備が完了し明日出発するとの連絡が来た。
皇太子殿下がいるにもかかわらずこの早さ。この早さが皇妃様の容体を物語っている。
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