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大脱出
しおりを挟む地下室の一室にその婚約者の部屋はあった。
「ディック!!」
「クラーラ! どうしてここに……!?」
「ディック! 怪我はない?」
クラーラはディックの頬に触り、彼の無事を確認する。
「大丈夫だよ」
ディックは痩せて薄汚れてはいるが、大きな怪我はなかった。
「ここに来るなんて一体どうしたんだ? この人は誰?」
「彼女は新しく任命された聖女様よ。私は……、聖女様にとんでもないことをしてしまったの……!」
そう言って今まで何があったのか、何をしてしまったのかをクラーラはディックに話した。
「聖女様、申し訳ございません! 彼女がこのようなことをしたのはすべて私のせいなのです。私が病気になんてならなければこんなことにはならなかった。償いは私がします!」
クラーラもディックも、お互いがお互いを庇い合っている。愛するということはこういうことなんだろう。
「2人とも、落ち着いてください。償いなど必要ありません」
そう言った時、入口の方でカチャリととびらが開く音がした。
「おやおや、どうやってあの部屋を出たのですか聖女様」
償いをするべきなのはこの男なのだから。
「んん?」
ダルトンは、汚い、臭い、なぜこんなところに私が来なくてはならん。と言いながら部屋を見回すと、クラーラもいることに気がついた。
「お前か。余計なことを」
私はダルトンの視線を遮るようにクラーラの前に出る。
「ダルトン卿。彼の首元、これは隷属の首輪ですよね? 隷属の首輪はもう随分と前から禁止されているはずです」
隷属の首輪を使っていることがバレたらいくら枢機卿といえどタダでは済まないが、ダルトンは焦るそぶりすら見せない。それどころか笑みを浮かべている。
「聖女様、これは必要なことなのですよ。人間の中には彼女達のように、私達高位者が導かなければまともな判断もできない人もいるのです」
「何を言っているんですか。皆自分のことは自分で判断するべきです。意見を求められたならまだしも、隷属の首輪を使って無理矢理いうことをきかせるなんてしていいことではありません」
「聖女様。彼女達はこの私が病を治すと言ったにも関わらず、断ったのですよ。それもセフィーロ教の枢機卿である私の側に置いてやるといったのにです。これはセフィーロ教に反するのと同義です。なので、私は彼女達を思い正しいセフィーロ教徒として矯正しているのです」
頭がおかしい。でも、ダルトンは本気でそう思い言っている。
「さあ聖女様。上へ戻りましょう。聖女様もすぐに何が正しいのかわかりますよ」
そう言ったダルトンがこちらに手を伸ばしてくるのを避ける。
「聖女様これはあなたを正すためなのですよ。聖女様を上に連れて行きなさい」
ダルトンがそういうと、後ろから屈強な男が2人出てきてこちらへ向かってくる。
このままではまずい。連れて行かれても私がどうこうされることはないが、残される2人は違うだろう。
逃げなければ。
2人も一緒に逃げるにしても隷属の首輪をつけているとディックはダルトンに逆らえないので、とりあえずディックの隷属の首輪を外すことにする。
えいっ。
「【解錠】」
錠の外れた首輪がゴトリと音をたて床に落ちる。
「んなぁ!?」
「えっ!?」
「ディック! あなた、首輪が……!」
隷属の首輪はつけた本人にしか取れないといわれているが実はそんなこともないのだ。
首輪をつける時に流した魔力をそれ以上の魔力で捩じ伏せ、堰き止め、解錠をかければあっさり取れる。
私がアデライトだった頃はちょうど隷属の首輪が禁止される前で、反対運動が盛んだった時なので取り方もマスターしている。
「くっ! どうやって首輪を……!!」
「【エアカッター】」
ドアの前にはダルトン達がいるので、ダルトン達を避けて廊下に向けて壁をくり抜いて穴を開けた。
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