103 / 113
セサル
しおりを挟む
この人は……。
ホールの入り口から車椅子を押され入ってきた女性は、私が回復魔法の力の証明で治療した女性だった
「聖女様……」
「聖女様だ……!」
「あぁ、こんなにも元気になられて……!!」
皆感動したような顔で、中には涙ぐむ神官もいる。
元気になったと言っても車椅子にのる女性は痩せ細って力もなく、まだしばらくは寝ていたほうが良いような状態だ。
「聖女様……?」
「……はじめまして、新しい聖女を歓迎します。このような姿で申し訳ございません。私も聖女に任命されております、シャナネットと申します」
聖女……。そういえば、教国にはもう1人聖女がいたはずだ。歳をとって活動を少なくしていると言われていたが、本当は病気だったのか。
「ダルトン卿。あなたは神に誓って、隷属の首輪を使っていないと、自分のものではないと誓えますか」
「もちろんです! オレリア様はなにか勘違いをしているようでして……」
そう言ったダルトンをじっと見つめるシャナネット様の瞳は、この弱り切った体からは考えられないほど鋭い。
「では、聖騎士団の調査を受けすべてを明らかになさい」
「なっ、なぜ私がそのようなものを受けねばならないのですか! 私はなにもしていないし、なんの証拠もない!!」
「確かにあなたが隷属の首輪を使ったという証拠はありません。でも、教国が、教皇聖下が任命した聖女をかどわしたのは事実です。それについて、あなたは調査を受けなければならない」
「ち、違います! 私は聖女様を保護したのです! 我が国の聖女が帝国に連れ去られるのを防ぐために……!! 私はっ! 私はっ!! 私はっ!!! 取られるくらい、なら……、取られるくらいならっ!!」
目を血走らせブツブツと何かを呟いたと思うと、懐から銀色に輝く何かを取り出しこちらに駆け出した。
「っ、【障壁】っ!」
「聖女様危ないっ!!」
咄嗟に障壁を展開したが、その私をウィルフレッド様が抱きしめ、さらにその前に私を庇うようにセサルさんが飛び出してきた。
「セサルさんっ!!」
「セサルッ!」
「ぐっ……!!!」
セサルさんは胸元を刺され、真っ白な祭服に真っ赤な血が広がっていく。
枢機卿が持つ高価な美しく磨がれた刃物なのが良くなかったのだろう。
刃物は根元まで胸に吸い込まれていた。
「オレリアっ! 早くっ!!」
ウィルフレッド様の呼びかけでハッと気がつくと、セサルさんの元へ駆け寄って膝をつき、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。
「【パーフェクトヒール】!!」
目を開けられない程の光が落ち着くと、セサルさんの胸元に突き刺さっていた刃がカランッ、と大理石の床に抜け落ちる。
間に、あった……?
傷は消え、赤く染まった胸元と避けた服以外は元通りだ。
「セサルさん……、セサルさんっ?」
「……っ、連れて行け」
教皇聖下のその一言で、ダルトンは聖騎士団に左右を押さえられ引きずられるように部屋を出て行く。
「セサルさんっ! 目を開けてください……!」
どうしよう……! 私を庇ったせいで、セサルさんが……!!
焦る私の肩に手を置き、私を落ち着かせるようにウィルフレッド様が声をかける。
「オレリア、落ち着いて。ほら」
ウィルフレッド様が指した先に目を向ける。
「……あぁ、聖女様の……でん、せつの、パーフェクトヒール、を、この身に受け、る、ことが……できるなんて……。横か、ら、みる、パ……フェクト、ヒールよりも格別に素晴らしく、美し……。この身……が、洗われる、ようで……」
セサルさんは、こんな時までいつも通りだった。
でも、いつもは気持ちわるく感じるこのセサルさんの語りも、この時ばかりは嬉しかった。
ダルトンは結局こんなことになっても弁明し続けていたようだが、調査が入れば明らかになる。
これでダルトンは終わりだ。
なぜなら、地下室に向かうため探知をかけた時、反応はディックのものだけじゃなかったのだ。そしてダルトンの私室がある最上階も、ダルトンとクラーラの反応だけではなかった。
これら全てが自ら望んでダルトン邸にいるわけではないだろう。
あとは調査が終わるのを待つだけだ。
ホールの入り口から車椅子を押され入ってきた女性は、私が回復魔法の力の証明で治療した女性だった
「聖女様……」
「聖女様だ……!」
「あぁ、こんなにも元気になられて……!!」
皆感動したような顔で、中には涙ぐむ神官もいる。
元気になったと言っても車椅子にのる女性は痩せ細って力もなく、まだしばらくは寝ていたほうが良いような状態だ。
「聖女様……?」
「……はじめまして、新しい聖女を歓迎します。このような姿で申し訳ございません。私も聖女に任命されております、シャナネットと申します」
聖女……。そういえば、教国にはもう1人聖女がいたはずだ。歳をとって活動を少なくしていると言われていたが、本当は病気だったのか。
「ダルトン卿。あなたは神に誓って、隷属の首輪を使っていないと、自分のものではないと誓えますか」
「もちろんです! オレリア様はなにか勘違いをしているようでして……」
そう言ったダルトンをじっと見つめるシャナネット様の瞳は、この弱り切った体からは考えられないほど鋭い。
「では、聖騎士団の調査を受けすべてを明らかになさい」
「なっ、なぜ私がそのようなものを受けねばならないのですか! 私はなにもしていないし、なんの証拠もない!!」
「確かにあなたが隷属の首輪を使ったという証拠はありません。でも、教国が、教皇聖下が任命した聖女をかどわしたのは事実です。それについて、あなたは調査を受けなければならない」
「ち、違います! 私は聖女様を保護したのです! 我が国の聖女が帝国に連れ去られるのを防ぐために……!! 私はっ! 私はっ!! 私はっ!!! 取られるくらい、なら……、取られるくらいならっ!!」
目を血走らせブツブツと何かを呟いたと思うと、懐から銀色に輝く何かを取り出しこちらに駆け出した。
「っ、【障壁】っ!」
「聖女様危ないっ!!」
咄嗟に障壁を展開したが、その私をウィルフレッド様が抱きしめ、さらにその前に私を庇うようにセサルさんが飛び出してきた。
「セサルさんっ!!」
「セサルッ!」
「ぐっ……!!!」
セサルさんは胸元を刺され、真っ白な祭服に真っ赤な血が広がっていく。
枢機卿が持つ高価な美しく磨がれた刃物なのが良くなかったのだろう。
刃物は根元まで胸に吸い込まれていた。
「オレリアっ! 早くっ!!」
ウィルフレッド様の呼びかけでハッと気がつくと、セサルさんの元へ駆け寄って膝をつき、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。
「【パーフェクトヒール】!!」
目を開けられない程の光が落ち着くと、セサルさんの胸元に突き刺さっていた刃がカランッ、と大理石の床に抜け落ちる。
間に、あった……?
傷は消え、赤く染まった胸元と避けた服以外は元通りだ。
「セサルさん……、セサルさんっ?」
「……っ、連れて行け」
教皇聖下のその一言で、ダルトンは聖騎士団に左右を押さえられ引きずられるように部屋を出て行く。
「セサルさんっ! 目を開けてください……!」
どうしよう……! 私を庇ったせいで、セサルさんが……!!
焦る私の肩に手を置き、私を落ち着かせるようにウィルフレッド様が声をかける。
「オレリア、落ち着いて。ほら」
ウィルフレッド様が指した先に目を向ける。
「……あぁ、聖女様の……でん、せつの、パーフェクトヒール、を、この身に受け、る、ことが……できるなんて……。横か、ら、みる、パ……フェクト、ヒールよりも格別に素晴らしく、美し……。この身……が、洗われる、ようで……」
セサルさんは、こんな時までいつも通りだった。
でも、いつもは気持ちわるく感じるこのセサルさんの語りも、この時ばかりは嬉しかった。
ダルトンは結局こんなことになっても弁明し続けていたようだが、調査が入れば明らかになる。
これでダルトンは終わりだ。
なぜなら、地下室に向かうため探知をかけた時、反応はディックのものだけじゃなかったのだ。そしてダルトンの私室がある最上階も、ダルトンとクラーラの反応だけではなかった。
これら全てが自ら望んでダルトン邸にいるわけではないだろう。
あとは調査が終わるのを待つだけだ。
64
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる