111 / 113
氾濫
しおりを挟む……と思っていたのに、なぜか私はクレンセシアに来ている。
結局あれからレオンハルト王子ともウィルフレッド様ともまともに話せず旅立つことになってしまった。
あの日の夜に、皇帝陛下から緊急の呼び出しがあった。皇帝陛下の元へと急ぐと、ウィルフレッド様やレオンハルト王子はもちろん、帝国の重鎮たちが集まっていた。
「大森林で氾濫がおきた」
皇帝陛下のこの一言で、室内に動揺が走る。
大森林は奥に行くほど強い魔物が住んでおり、岩壁を越えると竜種などの桁違いの魔物が住んでいる。
その奥地や岩壁の向こうで何かが起きて強力な魔物が浅い場所まで移動してくると、それから逃げるように浅い場所の魔物が森から出てくることが稀にあるのだ。
浅い場所とはいえ、大森林の魔物はそもそもが強力。他の地では奥地にいるような魔物がゴロゴロいるため、大森林の氾濫は特に危険度が高い。
「今はまだクランセシアの兵たちが食い止めているが、そう長くは保たない。急いで軍を向かわせる必要がある」
皇帝陛下の指示を受け、騎士団長や軍務大臣、財務大臣たちがバタバタと軍を出す準備に走る。
「レオンハルト王子には、申し訳ないがもうしばらくここにいてもらう必要があるな。今はまだ詳しい状況もわからないが、幸いここから大森林までは距離もある。万が一はないようにするが、魔物がここまで来るようなことがあればその時は守りを固めて獣国へ脱出してもらう」
レオンハルト王子の性格から自分も戦いに出ると言うかと思ったが、予想外に大人しく言うことをきいていた。
「風竜1匹相手に戦うことすら出来なかったんだ。大森林の奥地の魔物をどうにかできる自信があれば自分も出ると言ったが、そんな自信はこの間の狩りで砕け散ったさ」、とのこと。
「私はノアとネージュと共に出ます」
「アールグレーン嬢! いくらアールグレーン嬢が強いとはいえそれは危険すぎる!」
レオンハルト様に止められようと、私の意思は固い。
ウィルフレッド様は私の強さを知っているからか強く止めることはないが、それでも不安そうにこちらを見る。
「アールグレーン嬢。これはいつものように狩りに行くのとは訳が違う。大勢の魔物が一斉に襲ってくるだろう。それも奥地の強力な魔物も含まれる。町や人を守りながらという制限もあるだろう」
そう話す皇帝陛下はいつのもの飄々とした雰囲気とは違う。
「今更だが、アールグレーン嬢はまだ婚約者であって、この国で何かをしなければならない義務など何一つない。ましてや最前線に出るなんて……」
そんなの、皇太子妃になってもないよ。と皇帝陛下は言う。
「それでも私は参ります。ウィルフレッド様の婚約者としての義務がないというならば、冒険者リアとして」
それに、クランセシアの家だってまだ一度も見れてないんだから!! 住む前に魔物に壊されるなんてあってたまるもんですか!
「冒険者として……か。それでは私には何も言えないね。冒険者は、自由だ」
皇帝陛下の許可は降りた。レオンハルト様はやめるよう何度も言うが、レオンハルト様に私を止める権利はない。
「……オレリア」
そう言ってこちらを見るウィルフレッド様の瞳は不安で揺れている。
ウィルフレッド様も私を止めるのだろうか。
「……私も、すぐに軍を連れて向かおう。それまで耐えてくれ」
私の肩を抱き寄せグッと言葉を飲み込み、そう絞り出すように言ったウィルフレッド様の唇は微かに震えていた。
食料など必要なものは常にアイテムボックスに山程入っている。
私はすぐにノアとネージュの元へと向かい、クレンセシアへと飛び立つ。
「もうあんなに魔物が……!!」
上空から見るとより分かる、クレンセシアの現状。町を囲む壁にびっちりと魔物がへばりつき、倒され魔物が山になっている。
「指揮をしているのは……、あそこね!」
壁にへばりついている奴らをどうにかしないと……! とりあえず危なそうなところに数発の魔法を落とし、指揮をする領主の元へ向かう。
「お久しぶりでございます! Aランク冒険者のリアです!」
辺境伯とは皇太子殿下の婚約者として参加したパーティでも会っているが、今日ここには冒険者として来ているから冒険者として挨拶をする。
辺境伯も戦いに参加しているのか、ところどころ擦り切れ血が滲んでいる。
「お、おぉ!! よく来てくださった! 助かった! 兵たちとここまで耐えたが……、ご覧の通り、もうそろそろ限界です」
辺境伯は悔しげにギリリと奥歯を噛み締める。
戦っている兵士たちをみても、怪我のないものは1人もいない。
本当に崩壊寸でのところでなんとか間に合ったようだ。
「私が出ます」
そう言うと、辺境伯は何かを言おうと口を開き、飲み込んだ。
「……、本来ならこんなことをたった1人に背負わせるなど、あってはならないことだ。だが、もうこの町の兵には余力がない。すでに一杯一杯だ。……どうか、この町を頼む……!!」
私は深く頷き、ノアと共に空へと飛び立った。
63
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる