真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN

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第一章

逃げ出したキャシー

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夜会後のテイラー家では…

「もう嫌!こんなに大変だなんて聞いてないわ!」

叫んだキャシーは自室に閉じ籠もっていた。

ドンドンッ

「キャシー、私達の為に頑張ってくれ。私も出来る限り協力するから!」

ジェラルドがドアを叩いてキャシーに呼び掛けた。

「そんなこと言ったって騙されないんだから!いつも口先だけじゃない!一人にしてよ!」


(お貴族様ってもっと贅沢して楽しい生活だと思っていたのに…)

その日の夜、キャシーはテイラー家の屋敷から姿を消した。

キャシーの寝室には、一枚の置き手紙が残っていた。


― 探さないで下さい ―


ーーーーー


それから数日経ったある日、マーガレットはケナード領の端にある町に来ていた。

いつものように散策をしていると、見知った女性を見つけた。

(あら…?あそこに居るのはお相手様だわ。ケナード領で何をしているのかしら?)

マーガレットは暫く様子を見ていたが、キャシーがいつまで経っても一人でいる事を不思議に思い、声を掛けたのだった。


「そこで何をしているのかしら?テイラー次期伯爵様は一緒ではないの?」

「え…?あぁ、奥様…もう元奥様だったわね。あなたには関係ないでしょ?放って置いてよ!」

キャシーは「あっちに行って!」と、シッシッと手を降った。


「それもそうなのだけれど…」

(あらまぁ…お相手様はご機嫌が優れないのね。お相手様は身重なお体ですし…どうしましょう…?そうだわ!)

「ケナード家の屋敷にいらっしゃらない?とても美味しいお茶菓子があるの。どうかしら?」

マーガレットに尋ねられ、キャシーは考えた。

(元奥様のお世話になるのは尺だけど、ここに居ても仕方がないわね…)

「良いわよ!行ってやろうじゃない!」

こうして二人はケナード家の屋敷に向かった。


(彼女はマーガレット様を追いやった愛人なのに、どうしてそんなにお人好しなの…?)

マーガレットを止めようとしたが止められなかったオリビア達は、黙って二人の後をついて歩いたのだった。


ティールームのソファにドカッと座ったキャシーは、室内や使用人達を観察した。

(大きな屋敷を見せつけてるのね?嫌味ったらしいわ!)

侍女達の準備を待って、マーガレットはキャシーに話しかけた。

「それで…あなたは何故お一人でいたのかしら?」

「何よ、馬鹿にして!令嬢教育が嫌になったのよ!悪い?大体何よ!『平民だと次期伯爵夫人にはなれないんだよ…』とか言っちゃってさ!だったら初めから言っておけって感じよ!なんで私だけが頑張らなきゃいけないのよ!意味わかんない!私は悪くないわ!悪いのはそんな事を決めた奴らよ!ジェラルド様だって『愛しているよ』しか言わないし、愛しているなら私の為に法律くらい変えなさいよ!」

キャシーが怒り出し、最後は開き直っていた。

(あらまぁ、お相手様はやっぱり凄いのね…一体いつ息継ぎをしているのかしら?)

マーガレットは止まることなく話し続けるキャシーに感心していた。

「淑女教育が嫌になってしまったのね?大変ですものね…」

「そうなの!わかってくれるの?なぁんだ!元奥様って嫌味な奴かと思ったら、いいトコもあるんじゃない!」

キャシーはそう言って今迄の鬱憤をはらすかのように延々と喋り続けた。


「―という訳なの。酷いと思わない?はぁはぁ…」

(まぁ、流石のお相手様も疲れてしまったのね。笑ってはいけないのでしょうけど、とても可笑しいわ)

喋り続けて息を切らしたキャシーを見て、マーガレットはそんな事を考えていたのだった。


「何とか言ったらどうなの?元奥様…そう言えば元奥様の名前ってなんだっけ?」

「私はケナード伯爵家が長女マーガレットですわ」

キャシーの質問にマーガレットは素直に答えた。

「そう。マーガレット様は、私を憎んでるんでしょ?私の名前を一度も呼ばないし…ジェラルド様からは聞いてるんでしょ?」

「えぇ。でも…あなたから教えて頂いていないもの。勝手に呼べないわ。それに、憎んでもいないわ。真実の愛とは尊いものですもの」

「はぁ…本当に貴族って面倒くさいのね。私はキャシーよ」

(キャシー様はとても素直なお方なのね)

文句を言いながらも名乗ったキャシーを見て、マーガレットはそう思った。


そして、何かを考えるようにキャシーはマーガレットに聞いた。

「ねぇ、マーガレット様。暫くここに泊めてくれない…?」

「私は構わないのだけれど、次期伯爵様が心配してしまうわ…」

「ちょっとくらい困らせてやればいいのよ!そりゃ、最初はお金目当てだったわよ?でも、気付いたらジェラルド様が好きになったの…本当よ?私だって頑張ってるのに、ああでもないこうでもないばっかりで、嫌になるのも仕方ないじゃない!だから暫く帰りたくないの!」

「そうなのね。でも、お手紙だけは出してもらえないかしら?それなら屋敷に滞在してもいいわよ」


マーガレットに言われ、キャシーはジェラルド宛に手紙を書いた。

こうして恋敵?であったキャシーが、ケナード家に滞在することとなった。


「君達は何をしているんだ!彼女はメグを追いやった女性だよ?」

その日の夜、セバスとオリビアはクロードだけではなく、ビクトールやスザンヌにまで叱責されたのだった。


ーーーーー


「何故なんだ…やっと居場所がわかったというのに、何故あの冷酷なマーガレットの屋敷にキャシーはいるのだ…?」

キャシーからの手紙を受け取ったジェラルドは、すぐさまケナード家に向かった。

しかし、何の先触れも出さずに訪れたジェラルドはケナード家に入れなかった。

門の前で喚いていた所にキャシーが来たのだが

「話したくない。その内に帰るから今は帰って!」

取り付く島もなくキャシーに言われてしまい、項垂れて帰って行ったのだった。


「折角迎えにいらっしゃったのに、良かったのかしら…?」

「良いのよ!ねぇ、マーガレット様…私に令嬢を教えてくれない?私はちゃんと令嬢になってからジェラルド様の所に帰りたいの」

キャシーの願いを聞いたマーガレットは嬉しくなった。

(まぁ、私に真実の愛で結ばれたお二人のお手伝いが出来るのね。なんて素敵なんでしょう)

「もちろんよ。キャシー様、淑女教育を一緒に頑張りましょう?」

マーガレットは快く承諾した。

「私のことはキャシーで良いわよ」

「では、私のこともマーガレットと呼んでくれるかしら?キャシー、頑張りましょうね」


仲良く屋敷に戻っていく二人を見て、セバス達は狼狽えるのだった。

(何故そうなるんだ…)


この日の夜もセバス達がビクトールに叱責されたのは、言うまでもない…
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