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第二章

信用の対価

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「よろしかったんでしょうか…?差し出がましい事ではございますが、薬は高額の物です。盗人にあげるには、些か大きすぎると思うのですが…」

セバスは走っていく少年を見ながら、マーガレットに尋ねた。

「妹は大切にしなければならないわ。私もプラムが熱を出してしまったら必死になるもの」

マーガレットは笑ってセバスに答えたのだった。


(それに、泥棒さんを辞めるって約束してくれたわ。妹さんに優しいお兄さんですもの。人にも優しくできるわ。あら、どうしましょう?急にプラムに会いたくなってしまったわ…)

マーガレットは少年の妹を思う姿を見て、可愛い妹分のプラムを思い出し、プラムを助けた様な気持ちになっていただけだった。


「信用の対価、か…」

少年は家に帰ってすぐに妹に薬を飲ませた。

すると、今までずっと息苦しそうにしていた妹が少しだけ笑った。

「お兄ちゃん、ありがとう」

少年の家の屋根にユースが留まっていたが、誰一人気付くことは無かった。


(あら…?そう言えば、ユースは何処へ行ってしまったのかしら?追いかけて行ったのだけれど、すっかり忘れていたわ…でも、お利口さんですもの。明日までには戻って来てくれるわよね)

何処までも呑気なマーガレットだった。


それからの少年は、マーガレットと約束した通りに、盗みも止めて人に優しく接した。

村人達に信頼して貰うのに時間は掛かったが、すっかりと真面目に変わった少年に、人々は次第に絆されていった。

そして仕事も見つかり、一生懸命に働いていた。


後に、少年は王都で金貸し屋を開いた。

新しく事業を始めたい者には高金利で出資をし、貧しい者には低金利で金を貸した。


これまでは金に余裕のある者にしか店を構えることが出来ず、貧しい者達は飢えに耐え忍ぶ事しかできないクラレンス王国だったが、多くの者に希望と夢を与えることになる。

「信用して金を貸すかわりに、新しく仕事を始めて成功して欲しい。諦めないで欲しい。それがあなた達の払うべき対価だ」

成人した少年は、人々にそう言って金を貸していたという。


ある日、記者の取材でこう言っていた。

「あのお方に会えていなかったら、今の私は居なかっただろう。妹が笑顔で居られることもあのお方のお陰だ」

― あのお方とはどなたでしょうか?

「名前も知らないお貴族様だよ。ふらっと現れて、ふらっといなくなってしまった。もしかしたら、女神様だったのかも知れないね…」
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