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第二章

国境沿いにある集落

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マーガレット達は国境付近の集落に辿り着いていた。

国を跨ぐのには二つの門がある。一つは多くの商人や貴族の使う栄えた都市にあり、もう一つはマーガレット達が訪れた集落の近くにあった。

ケナード領からの最短ルートであり、治安の良い道のりであったため、クロードがこの道のりを組んでいたのだ。


貴族の立派な馬車がやって来たことに驚いた集落の人々だったが、久しぶりの訪問者を歓迎した。

「ようこそおいでくださいました。お貴族様にとっては小汚い部屋ではございますが、この集落で一番大きな私の家です。旅の疲れを癒やしてくだされ」

集落の長トニーが、マーガレット達を家に迎え入れた。

(まぁ、とても可愛らしい造りの建物だわ。カーテンの刺繍もとても綺麗。見たことのない不思議で複雑な図案だわ。とても素敵ね)

独特の民族文化を持つ集落の長の家は、大きくは無かったが色とりどりの刺繍や飾り付けがしてあり、可愛らしい家だった。


マーガレット達が一息ついているとトニーがやって来て、今夜は集落の祭りがあると教えてくれた。

「お貴族様は運がよろしいようですな。今夜はこの集落の祭りの日でございます。お疲れでなければ是非参加してくだされ。皆も喜ぶことでしょう」

(まぁ!お祭りが行われるのね。なんて運が良いのでしょう。楽しみだわ)

マーガレットは目をキラキラと輝かせていた。

そんなマーガレットを見てスザンヌは優しく微笑み、セバスは緊張していた。

(喜ばしい事だが…何事も起こらないように祈るしかないな…)


祭りが始まるまでは時間があったので、マーガレット達は集落を散策することにした。

「お母様もご一緒して頂けるなんて、光栄だわ!」

「メグの楽しそうなお顔を見たら一緒に行きたくなってしまったのよ」

マーガレット達が歩いていると、人々が皆同じ様な衣装を身に纏っていることに気が付いた。

(まぁ、なんて素敵な衣装なんでしょう!)


「少しお伺いしたいのだけれど、何故集落の人々は同じ様な飾りの付いたお洋服を着ているのかしら?」

マーガレットは近くにいた少女に話しかけた。

「今日は精霊様に感謝をするお祭りなの。この刺繍は精霊様を表していて、この飾りはそれぞれ精霊様のお力を表しているんだよ」

「まぁ、精霊様への感謝のお祭りなのね?だからこんなに綺麗なのね。あなたもとても素敵よ」

褒められて気を良くした少女は、嬉しくなってマーガレットに提案した。

「そうだ!お姉ちゃんも着ればいいよ!今日はお祭りだもん。私のお母さんはいっぱい服を持っているの」

(私も素敵な衣装を着て参加させて貰えるのかしら?)

マーガレットがスザンヌに視線を向けるとスザンヌはニコニコと笑顔で頷いたので、マーガレット達は少女の母の元へ向かうことにした。



少女の名前はアンと言って、八歳の女の子だった。アンにとっては初めて見る訪問者で、マーガレット達に集落のいろんな話を聞かせながら、ぴょんぴょんと体を弾ませて歩いていた。

(なんて可愛らしい子。まるでウサギさんのようね)


マーガレット一行を見たアンの母は、目を見開き驚いた。

「先程アンが素敵な提案をしてくれて、お伺いしたのだけれど、ご迷惑ではないかしら…?」

「とんでもないよ!私の作った物で良ければ是非。どうぞ、好きな物を選んで良いよ」

アンの母は快くマーガレット達を室内に招き、たくさん並べられた衣装を見せた。

(どれも綺麗だわ。アンのお母様はとても腕が良いのね。どうしましょう?迷ってしまうわ…)

マーガレットが衣装を選んでいると、アンの母は後ろで見ていたスザンヌ達にも声をかけた。

「そっちの人達も遠慮しなさんな」

「あら、私も良いのかしら?」

嬉しそうにマーガレットと衣装を選び始めたスザンヌ。

「素敵な衣装ですが、申し訳ないですし…」

綺麗な衣装を着たい気持ちが隠しきれないオリビアと侍女達。

「いえ、私は結構です!」

頑なに断るセバスとハリーだった。


「あなた達も遠慮しないで、ご厚意に甘えましょう?こんなに素敵な衣装は他には無いもの」

「そうだよ。今日は集落の祭りなんだ。この衣装を着ないと始まらないよ!」

マーガレットとアンの母の言葉に、オリビア達は衣装選びに参加した。

「いえ、私はこの服が気に入っていますので」と、セバス。

「私は護衛の任務がありますので」と、ハリー。

「何言ってんだい。この集落には盗っ人一人さえいやしないよ!」

バンバンとハリーの肩を叩き、セバスにも指示を出して、アンの母はハリーを引き連れて行った。

「良いから来な!あんたは図体がデカいから、こっちの衣装を選びな。そこのあんたは、壁に掛かってるやつが男物だよ。つべこべ言わずにさっさと選びな!」

「「え…いや、ちょっと…」」

そんな三人のやり取りを見て、マーガレットは楽しそうに笑った。

「まぁ、二人もお揃いで衣装を着てくれるのね?楽しみだわ!」

そんな嬉しそうな顔をするマーガレットを見てしまった二人は、言われるがままに衣装を選んだのだった。


マーガレットとスザンヌは色違いで同じ刺繍が刺してある衣装を選び、オリビア達もそれぞれ互いに選び合って決めた。

「お母様とお揃いだなんて嬉しいわ。あなた達もとても素敵ね」

きゃっきゃと互いに褒め合い浮かれる女性陣のすぐ横で、項垂れて立っているセバスとハリーだった。

((何故この様な綺羅びやかな衣装なんだ…一番簡素な物を頼んだのに…とてつもなく恥ずかしい…))


「セバス達も素敵よ。とても良く似合ってるわ」

「………こ、光栄です…」

(マーガレット様が喜んでくださるのなら、仕方がない…のか…?)

セバスはハリーと顔を見合わせ、頷きあった。

(まぁまぁ、セバス達ったら照れてしまって…オリビア達のように、はしゃげないのね。でも、皆で衣装を合わせる事が出来て嬉しいわ。あら…?そうだわ!)

「アンのお母様。もし宜しければ、この子達にも合うものは何かないかしら?」


「どうだい?可愛くなっただろう?」

色違いのスカーフを巻いたスコッグ達を連れて、アンの母が戻って来た。

(まぁまぁまぁ!なんて可愛らしい子達なの!これで皆お揃いね!)


マーガレット達は祭りの時間まで、お揃いの衣装を着て集落の散策を続けた。

色とりどりの衣装を着て歩く集落の人々は圧巻だった。

気の良い人達で、見知らぬマーガレット達にも笑顔で挨拶をしていた。

「ようこそ!」

「素敵な衣裳ね。似合ってるわ!」

「兄ちゃん達も格好良いぞ!」

(なんて素敵な所なんでしょう。ここに来られて良かったわ)

マーガレットは嬉しくなって皆に挨拶を返していたのだった。
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