真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN

文字の大きさ
56 / 100
第二章

好きなことをすれば良い

しおりを挟む
「もう放っておいてよ!私を一人にしてよ!」

マーガレット達が城下町を歩いていると、一人の少女が勢いよく家から飛び出してきた。

「ちょ、ちょっと…何処に行くんですか!」

家の中から若い男が出てきて叫んでいたが、少女はそのまま走り去っていった。

(喧嘩でもしてしまったのかしら…?)

マーガレットは二人を見てそんなことを思っていたが、そのまま散策を続けていたのだった。


暫く歩いていたマーガレットは、一休みしようと人が疎らの公園に入っていった。ベンチに座って休もうと考えていたのだ。

すると、先程の少女が紙を握りしめてベンチに座っているのを見つけた。

(あら…?先程の飛び出して行った子だわ…)

マーガレットは少女の事が気になってしまい、話しかけることにした。


「そこで何をしているのかしら?」

ぱっと顔を上げた少女は、マーガレットの姿を見るなり嫌な顔をした。

「何よ?あなたも私に文句を言いに来たの?」

「文句…?」

「違うなら何の用?」

戸惑うマーガレットに少女は訝しげに尋ねた。

「飛び出した行ったあなたを見つけたから、少し気になってしまっただけよ?あなたに対して不満などあるはずが無いわ」

「そう…なら良いわ」

少女はそう言って、握りしめていた紙を丸めた。

「その用紙は何かしら?」

マーガレットが気になって尋ねると、少女は紙を差し出した。

「要らないからあげるよ」

受け取った紙を広げると文章がたくさん書いてあり、小説の一部のようだった。


「これは物語かしら?あなたが書いたの?」

「そうよ?でも、もう捨てようと思っていたから…」

少女は遠くを見て、少し悲しそうな顔をしていた。

「折角書いたのに捨ててしまうだなんて、勿体ないわ…」

「良いのよ。私には才能もないし、もう書くのは止めたの」

マーガレットが持っている紙には書き直した跡がたくさんあって、少女が一生懸命に書いていた事が伺えた。

「何故止めてしまうのか、私に聞かせて貰えないかしら?」

「知らない人なら良いか…」

少女はそう言って、ぽつりぽつりと話し始めたのだった。


「最初は気まぐれで始めたの…それが楽しくなって、ものは試しと思って印刷店に持って行ったのよ。そしたら本になって、お店に置かれるようになったわ…」

「まぁ、凄いのね!」

褒められた少女は浮かない顔をしていた。

「運が良かったのよ。一定の人達には人気になったわ…でも、良く思わない人もいたのよ…」

少女は深いため息を吐いて続けた。

「こんな展開は嫌だとか、面白くないだとか、そんな手紙が届くようになったの…楽しいと思って書いていたのに、全然楽しくなかった…」

「まぁ、そうなのね…」

「それに、流行りの話を書けって言われても、私には知識も何も無いのに…そんなの私がやりたかった事じゃないわ」

「難しい物なのね…」

マーガレットと少女は、二人揃ってため息を吐いたのだった。


「あなたはどんな物語を書いたのかしら?この用紙には、お姫様のことが書かれていたわね」

マーガレットが尋ねると、少女は自嘲気味に答えた。

「お姫様と騎士の恋物語よ。帝国で流行っているんですって…でもね、私にはお姫様や騎士様に会うこともできないの。知らない人達の話なんて書けるわけ無いじゃない?」

「それもそうね…」

「想像で書いただけなの。それに対して文句を言われたって、私にはどうする事も出来ないわ…」

「想像だけで物語を書けるだけでも、充分に凄いことだと思うわ。応援してくれる人もいるのでしょう?」

マーガレットが尋ねると、少女は小さな声で答えた。

「そうよ。でも、もう嫌になったの…誰にも注目されたくないのよ…馬鹿みたいだと言って笑って良いのよ?」

「そんな事は思わないわ。でも、勿体ないとは思ってしまうわね…私はあなたが書きたいと思った物語を読んでみたいわ」

マーガレットがそう言うと、少女は目を輝かせてマーガレットに話を強請ったのだった。

「それならあなたの話を聞かせてくれないかしら?私は現実の話を元にした物語を書きたいの!」


マーガレットは少女に自分の話を聞かせた。

真実の愛で離縁された話。ケナード領での出来事。シルベスタまでの道中での出来事。

マーガレットにはこの短期間で様々な事が起こっていて、そんな話を少女に伝えた。

「真実の愛…?馬鹿みたい…」

そう言って馬鹿にしたように笑っていた少女も、次第にマーガレットの話に引き込まれ、夢中になって聞いていた。


「あなたってお貴族様だったのね?そんな体験をするなんて、平民では絶対にあり得ないわ!それに、ケナード領って面白そうな所なのね!」

話し終えたマーガレットに、少女は感心したように言った。

「もし良ければ、いつでも遊びにいらして?ケナード領はとても素敵な所ですもの。あなたが欲しい知識も見つかるかも知れないわ」

「考えてみるわ…」

「色んな事に悩んでしまうのなら、好きなことだけをしてみるのも良いと思うわ。あなたが面白いと思えることが一番大切だもの。この小説はあなたにお返しするわ。捨ててしまうのは勿体ないと思うの」

マーガレットは少女に優しく伝え、宿へ戻って行ったのだった。


(あら?私ったら、またお名前を聞き忘れてしまったわ…あの子の書いた物語を読んでみたかったわね)

宿で休んでいたマーガレットは、そんな事を思っていた。そして、最近は読書をしていなかったことを思い出した。

「オリビア、明日は本を買いに行きましょう?」

マーガレット達は翌日に本屋に向かい、シルベスタ帝国でしか売られていない物語を買い漁ったのだった。



「面白いと思えること、か…」

一人公園に残った少女は、綺麗に折りたたまれた紙を見つめていた。


それから一月後…

成人したばかりの少女は、両親の反対を押し切って、ケナード領に来ていた。

手先の器用だった彼女は、菓子職人の仕事をしながら、空いた時間に小説を書いていた。


主人公の男爵令嬢が、政略結婚をしたのにも関わらず、嫁ぎ先の義母や義姉に虐げられていた。夫も主人公には無関心。

愛人との間に子供ができたことで、屋敷から追い出されてしまった主人公。両親からも絶縁されてしまい、実家に帰ることも出来なかった。

自分の居場所を見つける旅に出た心優しい主人公は、旅先で会う人々を幸せにしていく。

最後に助けた老婆が魔法使いで、お礼にとかけられた魔法で城の舞踏会に参加した主人公。

そこで王子に見初められ、幸せになっていくという物語。


後にも先にも、少女がケナード領で書いた物語はこの本だけだった。

流行りの要素を取り入れていない物語は、クラレンス王国では全く売れなかったが、ケナード領では人気になった。

主人公の男爵令嬢の性格が、何処となくマーガレットに似ていたからだ。

「有名にならなくてもそれで良い。変な期待をされない方が気持ちが楽だもん。自分が面白いと思える事をした方が良いよね?」


手先の器用な少女の菓子を作る腕はすぐに上達した。

彼女が作る物語を題材にした菓子は、見る者を魅了し、食べた者はその味が忘れられずに再び購入しに訪れていた。


本人さえも知らなかった特技。少女がケナード領に来なければ、誰も気が付かなかっただろう。


後に、少女は『メグロード』という洋菓子店を開き、クラレンス王家御用達の店になっていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。 けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。 「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。 ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。 そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。 学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。 けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。 暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。 ※10万文字超えそうなので長編に変更します。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...