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第二章
好きなことをすれば良い
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「もう放っておいてよ!私を一人にしてよ!」
マーガレット達が城下町を歩いていると、一人の少女が勢いよく家から飛び出してきた。
「ちょ、ちょっと…何処に行くんですか!」
家の中から若い男が出てきて叫んでいたが、少女はそのまま走り去っていった。
(喧嘩でもしてしまったのかしら…?)
マーガレットは二人を見てそんなことを思っていたが、そのまま散策を続けていたのだった。
暫く歩いていたマーガレットは、一休みしようと人が疎らの公園に入っていった。ベンチに座って休もうと考えていたのだ。
すると、先程の少女が紙を握りしめてベンチに座っているのを見つけた。
(あら…?先程の飛び出して行った子だわ…)
マーガレットは少女の事が気になってしまい、話しかけることにした。
「そこで何をしているのかしら?」
ぱっと顔を上げた少女は、マーガレットの姿を見るなり嫌な顔をした。
「何よ?あなたも私に文句を言いに来たの?」
「文句…?」
「違うなら何の用?」
戸惑うマーガレットに少女は訝しげに尋ねた。
「飛び出した行ったあなたを見つけたから、少し気になってしまっただけよ?あなたに対して不満などあるはずが無いわ」
「そう…なら良いわ」
少女はそう言って、握りしめていた紙を丸めた。
「その用紙は何かしら?」
マーガレットが気になって尋ねると、少女は紙を差し出した。
「要らないからあげるよ」
受け取った紙を広げると文章がたくさん書いてあり、小説の一部のようだった。
「これは物語かしら?あなたが書いたの?」
「そうよ?でも、もう捨てようと思っていたから…」
少女は遠くを見て、少し悲しそうな顔をしていた。
「折角書いたのに捨ててしまうだなんて、勿体ないわ…」
「良いのよ。私には才能もないし、もう書くのは止めたの」
マーガレットが持っている紙には書き直した跡がたくさんあって、少女が一生懸命に書いていた事が伺えた。
「何故止めてしまうのか、私に聞かせて貰えないかしら?」
「知らない人なら良いか…」
少女はそう言って、ぽつりぽつりと話し始めたのだった。
「最初は気まぐれで始めたの…それが楽しくなって、ものは試しと思って印刷店に持って行ったのよ。そしたら本になって、お店に置かれるようになったわ…」
「まぁ、凄いのね!」
褒められた少女は浮かない顔をしていた。
「運が良かったのよ。一定の人達には人気になったわ…でも、良く思わない人もいたのよ…」
少女は深いため息を吐いて続けた。
「こんな展開は嫌だとか、面白くないだとか、そんな手紙が届くようになったの…楽しいと思って書いていたのに、全然楽しくなかった…」
「まぁ、そうなのね…」
「それに、流行りの話を書けって言われても、私には知識も何も無いのに…そんなの私がやりたかった事じゃないわ」
「難しい物なのね…」
マーガレットと少女は、二人揃ってため息を吐いたのだった。
「あなたはどんな物語を書いたのかしら?この用紙には、お姫様のことが書かれていたわね」
マーガレットが尋ねると、少女は自嘲気味に答えた。
「お姫様と騎士の恋物語よ。帝国で流行っているんですって…でもね、私にはお姫様や騎士様に会うこともできないの。知らない人達の話なんて書けるわけ無いじゃない?」
「それもそうね…」
「想像で書いただけなの。それに対して文句を言われたって、私にはどうする事も出来ないわ…」
「想像だけで物語を書けるだけでも、充分に凄いことだと思うわ。応援してくれる人もいるのでしょう?」
マーガレットが尋ねると、少女は小さな声で答えた。
「そうよ。でも、もう嫌になったの…誰にも注目されたくないのよ…馬鹿みたいだと言って笑って良いのよ?」
「そんな事は思わないわ。でも、勿体ないとは思ってしまうわね…私はあなたが書きたいと思った物語を読んでみたいわ」
マーガレットがそう言うと、少女は目を輝かせてマーガレットに話を強請ったのだった。
「それならあなたの話を聞かせてくれないかしら?私は現実の話を元にした物語を書きたいの!」
マーガレットは少女に自分の話を聞かせた。
真実の愛で離縁された話。ケナード領での出来事。シルベスタまでの道中での出来事。
マーガレットにはこの短期間で様々な事が起こっていて、そんな話を少女に伝えた。
「真実の愛…?馬鹿みたい…」
そう言って馬鹿にしたように笑っていた少女も、次第にマーガレットの話に引き込まれ、夢中になって聞いていた。
「あなたってお貴族様だったのね?そんな体験をするなんて、平民では絶対にあり得ないわ!それに、ケナード領って面白そうな所なのね!」
話し終えたマーガレットに、少女は感心したように言った。
「もし良ければ、いつでも遊びにいらして?ケナード領はとても素敵な所ですもの。あなたが欲しい知識も見つかるかも知れないわ」
「考えてみるわ…」
「色んな事に悩んでしまうのなら、好きなことだけをしてみるのも良いと思うわ。あなたが面白いと思えることが一番大切だもの。この小説はあなたにお返しするわ。捨ててしまうのは勿体ないと思うの」
マーガレットは少女に優しく伝え、宿へ戻って行ったのだった。
(あら?私ったら、またお名前を聞き忘れてしまったわ…あの子の書いた物語を読んでみたかったわね)
宿で休んでいたマーガレットは、そんな事を思っていた。そして、最近は読書をしていなかったことを思い出した。
「オリビア、明日は本を買いに行きましょう?」
マーガレット達は翌日に本屋に向かい、シルベスタ帝国でしか売られていない物語を買い漁ったのだった。
「面白いと思えること、か…」
一人公園に残った少女は、綺麗に折りたたまれた紙を見つめていた。
それから一月後…
成人したばかりの少女は、両親の反対を押し切って、ケナード領に来ていた。
手先の器用だった彼女は、菓子職人の仕事をしながら、空いた時間に小説を書いていた。
主人公の男爵令嬢が、政略結婚をしたのにも関わらず、嫁ぎ先の義母や義姉に虐げられていた。夫も主人公には無関心。
愛人との間に子供ができたことで、屋敷から追い出されてしまった主人公。両親からも絶縁されてしまい、実家に帰ることも出来なかった。
自分の居場所を見つける旅に出た心優しい主人公は、旅先で会う人々を幸せにしていく。
最後に助けた老婆が魔法使いで、お礼にとかけられた魔法で城の舞踏会に参加した主人公。
そこで王子に見初められ、幸せになっていくという物語。
後にも先にも、少女がケナード領で書いた物語はこの本だけだった。
流行りの要素を取り入れていない物語は、クラレンス王国では全く売れなかったが、ケナード領では人気になった。
主人公の男爵令嬢の性格が、何処となくマーガレットに似ていたからだ。
「有名にならなくてもそれで良い。変な期待をされない方が気持ちが楽だもん。自分が面白いと思える事をした方が良いよね?」
手先の器用な少女の菓子を作る腕はすぐに上達した。
彼女が作る物語を題材にした菓子は、見る者を魅了し、食べた者はその味が忘れられずに再び購入しに訪れていた。
本人さえも知らなかった特技。少女がケナード領に来なければ、誰も気が付かなかっただろう。
後に、少女は『メグロード』という洋菓子店を開き、クラレンス王家御用達の店になっていくのだった。
マーガレット達が城下町を歩いていると、一人の少女が勢いよく家から飛び出してきた。
「ちょ、ちょっと…何処に行くんですか!」
家の中から若い男が出てきて叫んでいたが、少女はそのまま走り去っていった。
(喧嘩でもしてしまったのかしら…?)
マーガレットは二人を見てそんなことを思っていたが、そのまま散策を続けていたのだった。
暫く歩いていたマーガレットは、一休みしようと人が疎らの公園に入っていった。ベンチに座って休もうと考えていたのだ。
すると、先程の少女が紙を握りしめてベンチに座っているのを見つけた。
(あら…?先程の飛び出して行った子だわ…)
マーガレットは少女の事が気になってしまい、話しかけることにした。
「そこで何をしているのかしら?」
ぱっと顔を上げた少女は、マーガレットの姿を見るなり嫌な顔をした。
「何よ?あなたも私に文句を言いに来たの?」
「文句…?」
「違うなら何の用?」
戸惑うマーガレットに少女は訝しげに尋ねた。
「飛び出した行ったあなたを見つけたから、少し気になってしまっただけよ?あなたに対して不満などあるはずが無いわ」
「そう…なら良いわ」
少女はそう言って、握りしめていた紙を丸めた。
「その用紙は何かしら?」
マーガレットが気になって尋ねると、少女は紙を差し出した。
「要らないからあげるよ」
受け取った紙を広げると文章がたくさん書いてあり、小説の一部のようだった。
「これは物語かしら?あなたが書いたの?」
「そうよ?でも、もう捨てようと思っていたから…」
少女は遠くを見て、少し悲しそうな顔をしていた。
「折角書いたのに捨ててしまうだなんて、勿体ないわ…」
「良いのよ。私には才能もないし、もう書くのは止めたの」
マーガレットが持っている紙には書き直した跡がたくさんあって、少女が一生懸命に書いていた事が伺えた。
「何故止めてしまうのか、私に聞かせて貰えないかしら?」
「知らない人なら良いか…」
少女はそう言って、ぽつりぽつりと話し始めたのだった。
「最初は気まぐれで始めたの…それが楽しくなって、ものは試しと思って印刷店に持って行ったのよ。そしたら本になって、お店に置かれるようになったわ…」
「まぁ、凄いのね!」
褒められた少女は浮かない顔をしていた。
「運が良かったのよ。一定の人達には人気になったわ…でも、良く思わない人もいたのよ…」
少女は深いため息を吐いて続けた。
「こんな展開は嫌だとか、面白くないだとか、そんな手紙が届くようになったの…楽しいと思って書いていたのに、全然楽しくなかった…」
「まぁ、そうなのね…」
「それに、流行りの話を書けって言われても、私には知識も何も無いのに…そんなの私がやりたかった事じゃないわ」
「難しい物なのね…」
マーガレットと少女は、二人揃ってため息を吐いたのだった。
「あなたはどんな物語を書いたのかしら?この用紙には、お姫様のことが書かれていたわね」
マーガレットが尋ねると、少女は自嘲気味に答えた。
「お姫様と騎士の恋物語よ。帝国で流行っているんですって…でもね、私にはお姫様や騎士様に会うこともできないの。知らない人達の話なんて書けるわけ無いじゃない?」
「それもそうね…」
「想像で書いただけなの。それに対して文句を言われたって、私にはどうする事も出来ないわ…」
「想像だけで物語を書けるだけでも、充分に凄いことだと思うわ。応援してくれる人もいるのでしょう?」
マーガレットが尋ねると、少女は小さな声で答えた。
「そうよ。でも、もう嫌になったの…誰にも注目されたくないのよ…馬鹿みたいだと言って笑って良いのよ?」
「そんな事は思わないわ。でも、勿体ないとは思ってしまうわね…私はあなたが書きたいと思った物語を読んでみたいわ」
マーガレットがそう言うと、少女は目を輝かせてマーガレットに話を強請ったのだった。
「それならあなたの話を聞かせてくれないかしら?私は現実の話を元にした物語を書きたいの!」
マーガレットは少女に自分の話を聞かせた。
真実の愛で離縁された話。ケナード領での出来事。シルベスタまでの道中での出来事。
マーガレットにはこの短期間で様々な事が起こっていて、そんな話を少女に伝えた。
「真実の愛…?馬鹿みたい…」
そう言って馬鹿にしたように笑っていた少女も、次第にマーガレットの話に引き込まれ、夢中になって聞いていた。
「あなたってお貴族様だったのね?そんな体験をするなんて、平民では絶対にあり得ないわ!それに、ケナード領って面白そうな所なのね!」
話し終えたマーガレットに、少女は感心したように言った。
「もし良ければ、いつでも遊びにいらして?ケナード領はとても素敵な所ですもの。あなたが欲しい知識も見つかるかも知れないわ」
「考えてみるわ…」
「色んな事に悩んでしまうのなら、好きなことだけをしてみるのも良いと思うわ。あなたが面白いと思えることが一番大切だもの。この小説はあなたにお返しするわ。捨ててしまうのは勿体ないと思うの」
マーガレットは少女に優しく伝え、宿へ戻って行ったのだった。
(あら?私ったら、またお名前を聞き忘れてしまったわ…あの子の書いた物語を読んでみたかったわね)
宿で休んでいたマーガレットは、そんな事を思っていた。そして、最近は読書をしていなかったことを思い出した。
「オリビア、明日は本を買いに行きましょう?」
マーガレット達は翌日に本屋に向かい、シルベスタ帝国でしか売られていない物語を買い漁ったのだった。
「面白いと思えること、か…」
一人公園に残った少女は、綺麗に折りたたまれた紙を見つめていた。
それから一月後…
成人したばかりの少女は、両親の反対を押し切って、ケナード領に来ていた。
手先の器用だった彼女は、菓子職人の仕事をしながら、空いた時間に小説を書いていた。
主人公の男爵令嬢が、政略結婚をしたのにも関わらず、嫁ぎ先の義母や義姉に虐げられていた。夫も主人公には無関心。
愛人との間に子供ができたことで、屋敷から追い出されてしまった主人公。両親からも絶縁されてしまい、実家に帰ることも出来なかった。
自分の居場所を見つける旅に出た心優しい主人公は、旅先で会う人々を幸せにしていく。
最後に助けた老婆が魔法使いで、お礼にとかけられた魔法で城の舞踏会に参加した主人公。
そこで王子に見初められ、幸せになっていくという物語。
後にも先にも、少女がケナード領で書いた物語はこの本だけだった。
流行りの要素を取り入れていない物語は、クラレンス王国では全く売れなかったが、ケナード領では人気になった。
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「有名にならなくてもそれで良い。変な期待をされない方が気持ちが楽だもん。自分が面白いと思える事をした方が良いよね?」
手先の器用な少女の菓子を作る腕はすぐに上達した。
彼女が作る物語を題材にした菓子は、見る者を魅了し、食べた者はその味が忘れられずに再び購入しに訪れていた。
本人さえも知らなかった特技。少女がケナード領に来なければ、誰も気が付かなかっただろう。
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