BLACK LOTUS ーー寄生植物ーー

こだま。

文字の大きさ
上 下
1 / 2

発芽

しおりを挟む
「おい、大丈夫かよ」

 体育の授業の見学をしている明彦あきひこのもとへ、洋二ようじたけるが駆け寄ってきた。ベンチにうずくまっている様子が気になってのことだ。

「そこの二人、サボるな! 準備運動のスクワットを追加するぞー」

 体育教師の吉田がマッチョな身体をいからせて、こちらに近づいてきた。こいつは外見どおり、脳筋熱血教師。なにかと言えば、筋トレ筋トレとうるさい。

「サボってねーよ。明彦が具合悪そうなんだよっ」

「センセー、こいつ限界っぽいよ。朝もフラフラしてたし」

 どれどれ、と明彦の様子を見にきた。

「顔色悪いな。冷や汗もかいてるじゃないか。
おまえら、指示通りにチームに別れてサッカーを続けていろ。
先生は岡崎を保健室に連れていく」

 二人に授業に戻るように指示し、急いで保健室に運んだ。途中、明彦に声を何度かかけるが返事はない。意識も朦朧としているようだ。

「先生、生徒が体調悪いのでベッドをお願いします」

 保健室の校医に状況を話しベッドに寝かせるが、問いかけにやはり返答はない。時おり漏れる細いうめき声は、痛みのためなのだろうか。

「......だぃ...じょうぶ......です......」

 やっとのこと喋れるようになったのか、途切れ途切れに答える。

「どこが痛いの? 言える?」

 意識がハッキリしているかの確認もあるのだろう。病状を聞かれる。

「......お腹...頭......全身...の関節......が...だる痛い」

 病状を伝えると、しばらく安静にして良くならなければ救急車を呼ぶということで、生理食塩水のドリンクを渡された。校医の判断では熱中症のようだ、ということだった。

「担任の青島先生には連絡をしておきます。じゃあ、あとはお願いします」

 校医に明彦を委ね、吉田は残りの授業のため足早にグラウンドに戻った。
 吉田の遠ざかる足音が、静かな保健室に微かに響く。明彦は身体を縮めて痛みと言い知れぬ不安に震えていた。

(まさか......、あれが俺の中で増殖しているのか?)

 身体の中を得体の知れないモノが、じわじわと浸食していく。

(こ、こんなに短い時間で......)

 その、得体の知れないモノは、自分の肉体を尋常じゃないものに変えてしまうだろう。
 更に激痛が、津波のように腹部を襲う。

「いってえ、いてえよぉぉーーーーっ」

 腹部を押さえてベッドの上を転げ回った。

「岡崎君、どうしたの! お腹痛いの? どの辺が痛むの?
すごい汗だわ。ちょっと、お腹触るわよ?」

 校医が痛む部分を触診しようとすると、腹部の異変に気がついた。
 お臍の辺りが赤黒く腫れて盛り上がっているように見える。腹痛の原因は、明らかにこれだろう。炎症を起こしているのだろうか。それにしても、こんな腫れ方は見たことがない。
 近くの救急病院に搬送する手配を慌ただしく始める。

(死にたくない......。俺、まだ死にたくない......)

 激痛で遠退いていく意識がわずかに捉えたのは、救急車のサイレンだった。それは、あの男が笑う不気味な声と似ていた。
しおりを挟む

処理中です...