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16.好きな人の血
この人が自分のことを「おれ」と呼ぶのを、はじめて聞いた。
もしかしたら、普段はそう言っているのかもしれない。
「まだ、告白してない」
泣き出しそうな声が言った。
「へっ?」
一瞬何かの聞き間違いかと思った。
手首に触れる田上さんの手がぎゅっと強くなる。
「おれはいつか、すっごい好きになった女の子に告白して、両思いになって、それからその血を飲ませてもらうのが夢なんだ」
それは零れ落ちた本音の一端。
長い指がかすめるように素肌に触れる。私が外したボタンを、おぼつかない指先がゆっくりとはめ直していく。
「こんな、生きるために飲むんじゃ意味がない」
笑い飛ばしたくなるような純情だ。今時中学二年生の男の子だって、こんな夢は見ない。
でもできなかった。
うらやましいなと思ってしまったから。
ちゃんと好きになって、好きを返してもらって。
その人に自分の一部を捧げることができるのなら、それは多分幸せなことだ。多分、私には少し遠い。ずっとそう思っていた。
だから、田上さんが続けた言葉に私は心底固まった。
「こんな時に好きな人の血を飲むなんて、いやだ」
「ひえっ」
この文脈でいうと、田上さんの「好きな人」は私ということになってしまうわけで。
「田上さん……?」
聞き返したら、田上さんの体ががくりと傾いだ。慌てて支えるように手を伸ばした。
ことん、と田上さんの頭が鎖骨の辺りに落ちる。シャツ越しに熱い額が当たる。きっともう体力の限界だったのだろう。
私は多分、聞いてはいけないことを聞いてしまった。
熱に物を言わせて、本心を暴き出してしまった。
荒い息が首筋にかかる。吸血鬼特有の特殊な回復能力のなせる業かと思ったけれど、具合が悪いのは、相変わらずだ。
「ばかじゃないですか」
諦めたら多分、もっと楽に生きられるのに。
こんな時でもまだ、人間でありたいと願った人。
私を家畜に、しなかった人。
「大丈夫ですよ」
乱れた後頭部の髪をそっと撫でる。子犬みたいな、やわらかな髪だった。
だから、私がすべきことは多分、自分を投げ捨てることじゃない。
「私があなたを、化け物にはさせない」
そっと田上さんを横たえて、私は隣の自分の部屋に戻った。
もしかしたら、普段はそう言っているのかもしれない。
「まだ、告白してない」
泣き出しそうな声が言った。
「へっ?」
一瞬何かの聞き間違いかと思った。
手首に触れる田上さんの手がぎゅっと強くなる。
「おれはいつか、すっごい好きになった女の子に告白して、両思いになって、それからその血を飲ませてもらうのが夢なんだ」
それは零れ落ちた本音の一端。
長い指がかすめるように素肌に触れる。私が外したボタンを、おぼつかない指先がゆっくりとはめ直していく。
「こんな、生きるために飲むんじゃ意味がない」
笑い飛ばしたくなるような純情だ。今時中学二年生の男の子だって、こんな夢は見ない。
でもできなかった。
うらやましいなと思ってしまったから。
ちゃんと好きになって、好きを返してもらって。
その人に自分の一部を捧げることができるのなら、それは多分幸せなことだ。多分、私には少し遠い。ずっとそう思っていた。
だから、田上さんが続けた言葉に私は心底固まった。
「こんな時に好きな人の血を飲むなんて、いやだ」
「ひえっ」
この文脈でいうと、田上さんの「好きな人」は私ということになってしまうわけで。
「田上さん……?」
聞き返したら、田上さんの体ががくりと傾いだ。慌てて支えるように手を伸ばした。
ことん、と田上さんの頭が鎖骨の辺りに落ちる。シャツ越しに熱い額が当たる。きっともう体力の限界だったのだろう。
私は多分、聞いてはいけないことを聞いてしまった。
熱に物を言わせて、本心を暴き出してしまった。
荒い息が首筋にかかる。吸血鬼特有の特殊な回復能力のなせる業かと思ったけれど、具合が悪いのは、相変わらずだ。
「ばかじゃないですか」
諦めたら多分、もっと楽に生きられるのに。
こんな時でもまだ、人間でありたいと願った人。
私を家畜に、しなかった人。
「大丈夫ですよ」
乱れた後頭部の髪をそっと撫でる。子犬みたいな、やわらかな髪だった。
だから、私がすべきことは多分、自分を投げ捨てることじゃない。
「私があなたを、化け物にはさせない」
そっと田上さんを横たえて、私は隣の自分の部屋に戻った。
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