パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
5 / 79
例えどんな理不尽な世界だとしても

だる絡みなんだが?

しおりを挟む
「お待たせしました。バジリスクとエコーイノセントの討伐報酬九万三千ガロとなります。そこから今回のクエスト違約金の五千ガロを引いて、こちらが八万八千ガロとなります」

 ギルドの受付嬢が差し出した袋を恐る恐る開けてみると、中には金銀のコインがたんまりと入っていた。
 思わずにやけそうになる口元を手で覆い隠し、最低限の挨拶を交わして足早にその場を去る。
 八万八千ガロなんて、今のハルトたちにはとんでもない大金だ。
 駆け出しのEランクパーティーが一週間に稼ぐ金額は平均二万ガロ程度。既に三年冒険者をやっているハルトたちでも、今回の金額分を稼ぐには一週間以上は有しただろう。

「おーい、こっち、こっち! もう料理来ちゃってるよ!」

 ギルドに併設されている酒場に向かうと三人は既に席を取り、宴の準備を整えていた。

 テーブルに立ち並ぶ色とりどりな料理としゅわしゅわと陽気な音を立てる酒に、都合の良い腹の虫が早くしろと急かす。
 冒険者の習わしに、新規のパーティーで初めてクエストを遂行した日はパーティーメンバー全員で大なり小なり宴を開くというものがある。
 今回はクエスト自体は失敗という形に終わったが、それ以上の成果をあげたのだ。いわゆる御都合主義的宴というわけだ。

「お待たせ。じゃあ、まあ色々と積もる話もあるけど、とりあえずは……」

 今回の報酬の入った袋を卓の真ん中にドサっと置いて、ハルトは酒樽型のジョッキを手にする。

「「「「かんぱーい!」」」」

 四人はジョッキを勢いよく打ち鳴らす。勢いに押されて飛び出した少量の泡が宙を舞う。
 豪快に酒を流し込む三人とチビチビ口に運ぶ一人。そして豪快に料理を貪る三人と、ゆっくり自分のペースで食べる一人。知らない人が見れば、モミジがとても浮いているように見えるかもしれない。しかし、モミジもいつもより口数が多い。心配ではあったが、彼女もそれなりに楽しめているようだ。

「それにしても、まさか結成したての初ディザスターでCランクの魔物と出会うなんて思いもしなかったよ。僕、バジリスク見た時生きた心地がしなかった」

「いやいや私! 昨日の夜とか心底心配だったし、なんたって魔剣士しかいないんだもん」

 結局、暗躍の森からの帰り道は魔剣士によるパーティーバフについての話題で持ちきりだった。しかし、街に戻りギルドに立ち寄って受付嬢を含め、数人の職員にパーティーバフと適正区画外の魔物が二頭発見されたことを話したが、信じてもらえたのは後者のみだった。前者に関しては軽くあしらわれ、魔物の討伐成果報酬こそ出たものの、それに関しても仕方なくといった具合であった。

「魔剣士に限定せず、同じ印を持った者同士でパーティーを組んだら、俺たちみたいにパーティーバフが乗るんじゃないのか?」

 ハルトは左手にぼんやりと光を放って浮かび上がる痣を見る。

「それはないと思います。以前、魔法嫌いの重タンクパーティーをお見かけしましたが、ただの火力が出ないドM集団でした」

 またしてもさらりと毒舌を吐くモミジに三人は思わず吹き出す。しかし、本人に自覚は無いのか、モミジは不思議そうに首を傾げている。

「モミジってやっぱり良い性格だね。変に気取ってなくて私は好きだよ!」

「私、なんか変なこと言いましたか?」

 昨日はどこか他人行儀な感じであったが、今日の難儀な出来事の連続でみんなかなり打ち解けたように思える。パーティーにおいて信頼関係というのはとても重要だ。時に背中を任せ、支え合う。それなりに信頼し合っていないと連携に支障をきたしてしまう。

 初クエストを完了した日は宴という習わしも、おそらくはパーティーメンバーによる打ち解け合いが主の目的なのだろう。

「あれー? マナツじゃーん。どうしたん? 賑わってるじゃーん!」

 談話に華を咲かせていると、脳裏にうっすら残るチャラチャラした声が聞こえて来た。
 あからさまに卓を囲む四人の雰囲気が変わった。皆、声の主から目をそらす。マナツに関しては既に眉間にシワを寄せ、拳を震わせている。

「何の用なの、スミノ」

 昨日と同じくジャラジャラと多くの装飾品をつけているスミノは、卓に置かれた肉を一掴みして口に放り込んだ。

「今日もバッチリ稼いだから、これから朝まで飲みまくるのよーん。あ、そうだマナツも一緒にどう? パーティーでは役に立たないけど、女ってだけで夜の方は役に立つからさぁ」

「あ、あんたねぇ……!」

「あのさ、今は僕たち四人で楽しんでるからさ。マナツさんは連れて行かないで欲しいかな」

 今にも飛びかかりそうなマナツをなだめながら、ユキオは穏便に断る。こういう時、とっさに動くことのできるユキオにハルトは関心した。
 
 スミノは一瞬、豆鉄砲を食らったように素っ頓狂な顔をしたが、すぐに吹き出して笑い転がる。

「うげー、こんな不遇職の集まりとか悲しくない? テンプルナイトの俺が、せっかく誘ってあげてんのに」

 テンプルナイトは高火力職の一つで、自身の身体能力を大きく強化するパッシブを備えており、現冒険者職の中ではトップクラスに入る有能職だ。

「でも、Dランクじゃん。俺とここにいるモミジの元ランクよりも低いけど」

 めんどくせ、と内心思いながらもハルトは気がつくと口を開いていた。
 その発言に対して、スミノは鼻で笑って見せた。

「Cランクだろうが所詮魔剣士なんでしょ? ならテンプルナイトの俺の方が強いに決まってんじゃん。君とそこのお嬢ちゃんがCランクに行けたのは、元パーティーメンバーが強かったからでしょ」

 確かにテトラのパーティーに所属していた時は、前衛も後衛も中途半端にこなしていた。邪魔にはなっていなかったかもしれないが、やはり他のメンバーにくらべると活躍の幅は狭かった。
 しかし、ここまで煽られては流石にハルトも黙ってはいられない。しばらく沈黙が続き、ハルトとスミノの間に火花が散る。

 その沈黙は、テーブルを勢いよく叩く音によって破られた。おもむろに立ち上がるマナツ。

「あーもういい加減にしてスミノ! ちょっと表に出てよ!」

 一連の流れをオロオロしながら見ていたモミジは、この後起こる一抹の不安を感じるのであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

処理中です...