57 / 79
召喚される者、召喚した者
ルールですか?
しおりを挟む
低速な突進をしてくるスライムをわざと体で受け止めて、勢いを殺す。スライムは子供が全力でボールを投げた程度の速度ではあるが、粘着な性質の体は意外と重量があり、いくら良い防具を使っているとはいえ、体で受け止めるとなると、ずっしりとした重たさがのしかかる。
両手でスライムを引きはがし、空中に放り投げる。
「シェリー行ったぞ!」
宙を舞うスライムの落下点はシェリーの目の前だ。ボトンッと落下したスライムはすぐさま体を起こす。
「は、はいっ!」
シェリーは剣を地面に突き立て、自由になった両手を前に出す。依然、腰は引けている。後で注意しておこう。
シェリーは事前に詠唱しておいた魔法を発動する。小さな魔方陣が彼女の目の前に浮かび上がり、そこから拳サイズの氷塊が飛び出した。
有詠唱でこのサイズは正直、かなり小さいが、魔法が発動したという点では成功だ。
スライムと同じような速度で射出された氷塊はそのぬめっとした体に直撃し、吹き飛ばす。
「や、やった!」
「まだだ! 剣、抜いて!」
肩で息をする彼女を軽く叱責し、ハルトもまた、念には念を入れて彼女の横につく。
シェリーは両手で剣を引き抜き、スライムに向かって駆け出す。シェリーがスライムに剣を振りかぶろうとした瞬間、今まで気絶したようにピクリともしなかったスライムが突然身を起こし、彼女の顔面目掛けて体を飛ばした。
「――えっ!?」
避けられないと判断し、ハルトは剣を突き出した。鋭くとがった切っ先がスライムを貫通して日の光を反射する。
シェリーは腰を抜かしたようにストンっと地面に座り込んだ。
「はぅぅ……ごめんなさい」
「いや、よく魔法を使えたよ。ただ、やっぱりシェリーは優先して反射神経を鍛えたほうがいいね」
空を見上げると、太陽は既にハルトたちのてっぺんを超えて、西向きに下がりかけている。
「シェリー、昼飯にしようか」
「は、はい!」
シェリーと共に暮らし始めて三日。毎日、暴君の草原に通い詰めているが、未だに成果は芳しくない。それでも、彼女は最初に比べて魔物から目を背けることはなくなったし、今日はこうしてあと一歩というところまで来れた。
少しずつでいい。それでも、彼女との契約期間は限られているわけで、正直あと三週間弱でどこまで彼女を成長させてあげられるかはわからない。なるべく、彼女が王宮に戻ることになり、他の勇者たちとパーティーを組んだときに、遜色ないくらいには育てきってあげたい。少なくとも、魔剣士だからしょうがないと言われないくらいには……。
基本的にはシェリーの面倒はハルトが見ることにした。マナツ、モミジ、ユキオの三人には、他のクエストに出てもらっている。パーティーバフがないとはいえ、三人も立派な冒険者だ。簡単な護衛等ならば問題はないだろうと判断し、時間を余してしまうのももったいないため、現状は三人とは別行動をとっている。
しかし、最近は魔物の突然出現などもあり、この世界には絶対に安心という場所は存在しない。そのため、なるべく日帰りでこなせるクエストを重点的に行ってもらっている。むろん、ハルトたちも少し街からは遠いが、毎日暴君の草原から帰るようにしていた。
朝、来る前に街で買ってきたパンを荷物から二つ取り出し、一つを彼女に渡す。シェリーは受け取ったはいいものの、手を付けようとしない。
ハルトは少しだけ疑問に思ったものの、先に食べ始める。堅めのパンに濃いめの味付けをした肉と、青野菜を詰めた簡易的なものだが、割と美味しい。
「あ、あの……!」
シェリーが顔をあげる。おずおずとしているのが見て取れる。
「どした?」
「その、この世界では貴族の方以外も一日三食取っているのでしょうか……?」
ハルトは頭にはてなを浮かべながらうなずいた。
「そうだけど、シェリーのいた世界では違ったの?」
「わ、私の育った村では基本的には一日二食で、朝はスープ、夜は芋と木の実が主流でした。お肉は村の感謝祭の時にしか口にしていなかったです。それなのに、ハルトさんたちは毎日三食、しっかりと十分すぎるくらいくださるので……」
「申し訳ない……と?」
「は、はい……」
どうやらシェリーのいた世界――少なくともシェリーの育った村は、ハルトたちの暮らしとはずいぶんかけ離れた、質素な暮らしを強いられていたようだ。
だとしても、この世界で彼女が質素な生活をする必要はない。普通に冒険者として暮らし、年相応の栄養は取るべきだ。
「まぁ、この世界では三食が普通だし、肉とか野菜だってしっかり毎日食べる。その様子だと、風呂とかも数日に一回とか言い出しそうだけど、家に帰れる日は毎日風呂に入って、ちゃんとしたベッドで寝る。これは当たり前のことだから、シェリーもしっかり慣れておいたほうがいいね」
「当たり前……ですか。わ、わかりました。頑張って慣れます」
そう明言すると、彼女は大袈裟なくらい息を呑み、パンにかぶりついた。
日が傾き、空が焼け始める。頃合いを見て、今日はソーサルに引き返すことにした。
馬車に揺られながらも、周囲に警戒は怠らない。ただ、そこまで気を張り詰めている必要もないため、ぼんやりと沈みゆく太陽を眺める。
ふいに、肩の少し下に何かが倒れてくる。目を向けると、赤毛の少女が小さく寝息を立てて寄りかかってきていた。
今日は魔法を繰り返し練習した。魔力を大量に消費すると、疲労もその分増える。疲れてしまったのだろう。
起きているときはやはりまだ少しだけ遠慮があるように見えるが、眠っているときの彼女はハルトから見れば、ずいぶんと幼く見える。十五歳には見えないくらいに彼女は背が小さく、童顔だ。彼女だけなのか、異世界人がみな、年よりも幼くみえるのか。
まだ成人にもなっていない彼女には、大きな使命が課せられている。大きすぎて、彼女をつぶそうとしているようにさえ思える使命。
理不尽な世界だ。
それでも、冒険者は生きるために戦い続けるしかない。勇者はいわば冒険者の派生形のようなもの。彼女もまた、この世界では戦い続けるしかない。
今はとにかく、彼女の先の未来が心配でならない。さながら、保護者にでもなった気分だ。
西日がやけにまぶしい。
「シェリー……。おーい」
シェリーの肩を軽くゆする。彼女は一瞬、びくりと体を揺らすと、脱兎のごとく身を起こした。
「ふぁ……すいません。寝てしまってました」
「いや、俺的には可愛い寝顔も見れたし、いいんだけど。街に着いたからさ」
ちょうど、馬車の動きが止まった。
シェリーは顔を赤面させて、これまた脱兎のごとく馬車を降りた。
いや、可愛いかよ。おっと、心の声が漏れた。
門をくぐる。なんとなく、空気が変わった気がした。この中は人であふれている。ちゃんと、帰ってきたと思わせてくれる何とも言えない心地よいものだ。
ふいに視線を感じた。最後に感じたのは、いつだっただろうか。確か四日前とか。
すぐさま視線を周囲に巡らすと、やはりいた。街路樹の後ろでジーっとこちらを見つめる存在。
「……はぁー」
シェリーが不思議そうに見上げてくる。
「どうかしましたか?」
「いや、すぐにわかる。先に言っておくけど、俺には恋人も結婚相手もいないからね」
シェリーは余計意味がわからない、というように首を大きく傾げた。
街路樹から彼女が飛び出す。バレたと分かった途端、これだ。
「ハールートさぁぁぁぁぁんッ!」
彼女はシェリーと同じくらいの背丈で、確か年齢は一個上。しかし、落ち着きのない仕草と、破天荒っぷりのせいか、シェリーよりも年下に思える。
リリーはハルトたちの前で急停止、シェリーにいきなり指を突きつけた。
「誰ですか! この女は! リリーという身がありながら、女性に手を出すとはどういうことですか! しかも、パーティーメンバーのあのお二方ならまだしも、それに飽き足らずに女性を侍らせるとは、リリーは悲しいです!」
「いや、意味わからないし……。落ち着けよ」
「これが落ち着いていられますか! 浮気ですよ! 不倫! 密通! エロがっぱ!」
「よーし、良い度胸だ。俺の知り合いリストからお前を除外してやる」
ハルトとリリーが息を荒立てて見合っていると、シェリーがハルトの服の裾を軽く引いた。
「あ、あの、ハルトさんのお知合いですか?」
「ん? ああ、いやなんて言うか、ストーカー?」
「失礼な! 今、こうして目の前で堂々としているではありませんか」
リリーはハルトをわざとらしい上目遣いで見つめると、今度はシェリーに向き直る。
「リリーといいます。ハルトさんの未来のお嫁さんです。あなたには負けませんよ!」
「お、およっ……! えっと、シェリーと言います。ハルトさんには冒険者の先輩として、いろんなことを教えてもらってて、その……」
「リリーの思うような関係じゃない。ちょっと野暮用で彼女を住み込みで教えているだけだ」
流石にリリーにシェリーが異世界人だと明かすわけにはいかない。それとなく言葉を濁す。
リリーはひとまずハルトとシェリーの関係性を理解したらしく、逆立てていた肩を降ろす。
「そうでしたか。住み込みっていうのがやはり引っかかりますが、まあマナツさんにユキオさん、それとモミジさんもいれば、ハルトさんも獣になることはないでしょう。シェリーさん、よろしくお願いします」
「は、はいっ!」
よし、人のことを獣呼ばわりしたこいつは、今度から無視しよう。というか、獣ってなんだ、おい。
とにかく、リリーがシェリーの良き仲になるのは悪いことではない。知り合いだって、冒険者にとっては立派な武器になる。伝手はあってなんぼだ。
「ほら、帰ったらマナツたちに色々教えてもらうんだろ。さっさと帰ろう」
シェリーの冒険者としての一日はまだ終わっていない。彼女は寝る前にマナツ、ユキオ、モミジの三人から座学を教わる。冒険者として覚えておくべきことから、この世界の基本的な生活ルールなど、全般だ。
ハルトが歩き出すと、シェリーも慌ててついてくる。しかし、彼女は急に立ち止まり、振り返った。
「リ、リリーちゃん! ば、ばいばい!」
砕けた笑みだ。やはり、歳が近いというのは大きいらしく、シェリーは早くもリリーに心を許したようだ。
「ばいばーいです! ハルトさんもー!」
不本意ながら、軽く手を挙げる。
無視しよう、と先ほど言い聞かせたばかりなのに、どうしても無視できないこの性格は、良いのか悪いのか、ハルトには判別がつかない。
両手でスライムを引きはがし、空中に放り投げる。
「シェリー行ったぞ!」
宙を舞うスライムの落下点はシェリーの目の前だ。ボトンッと落下したスライムはすぐさま体を起こす。
「は、はいっ!」
シェリーは剣を地面に突き立て、自由になった両手を前に出す。依然、腰は引けている。後で注意しておこう。
シェリーは事前に詠唱しておいた魔法を発動する。小さな魔方陣が彼女の目の前に浮かび上がり、そこから拳サイズの氷塊が飛び出した。
有詠唱でこのサイズは正直、かなり小さいが、魔法が発動したという点では成功だ。
スライムと同じような速度で射出された氷塊はそのぬめっとした体に直撃し、吹き飛ばす。
「や、やった!」
「まだだ! 剣、抜いて!」
肩で息をする彼女を軽く叱責し、ハルトもまた、念には念を入れて彼女の横につく。
シェリーは両手で剣を引き抜き、スライムに向かって駆け出す。シェリーがスライムに剣を振りかぶろうとした瞬間、今まで気絶したようにピクリともしなかったスライムが突然身を起こし、彼女の顔面目掛けて体を飛ばした。
「――えっ!?」
避けられないと判断し、ハルトは剣を突き出した。鋭くとがった切っ先がスライムを貫通して日の光を反射する。
シェリーは腰を抜かしたようにストンっと地面に座り込んだ。
「はぅぅ……ごめんなさい」
「いや、よく魔法を使えたよ。ただ、やっぱりシェリーは優先して反射神経を鍛えたほうがいいね」
空を見上げると、太陽は既にハルトたちのてっぺんを超えて、西向きに下がりかけている。
「シェリー、昼飯にしようか」
「は、はい!」
シェリーと共に暮らし始めて三日。毎日、暴君の草原に通い詰めているが、未だに成果は芳しくない。それでも、彼女は最初に比べて魔物から目を背けることはなくなったし、今日はこうしてあと一歩というところまで来れた。
少しずつでいい。それでも、彼女との契約期間は限られているわけで、正直あと三週間弱でどこまで彼女を成長させてあげられるかはわからない。なるべく、彼女が王宮に戻ることになり、他の勇者たちとパーティーを組んだときに、遜色ないくらいには育てきってあげたい。少なくとも、魔剣士だからしょうがないと言われないくらいには……。
基本的にはシェリーの面倒はハルトが見ることにした。マナツ、モミジ、ユキオの三人には、他のクエストに出てもらっている。パーティーバフがないとはいえ、三人も立派な冒険者だ。簡単な護衛等ならば問題はないだろうと判断し、時間を余してしまうのももったいないため、現状は三人とは別行動をとっている。
しかし、最近は魔物の突然出現などもあり、この世界には絶対に安心という場所は存在しない。そのため、なるべく日帰りでこなせるクエストを重点的に行ってもらっている。むろん、ハルトたちも少し街からは遠いが、毎日暴君の草原から帰るようにしていた。
朝、来る前に街で買ってきたパンを荷物から二つ取り出し、一つを彼女に渡す。シェリーは受け取ったはいいものの、手を付けようとしない。
ハルトは少しだけ疑問に思ったものの、先に食べ始める。堅めのパンに濃いめの味付けをした肉と、青野菜を詰めた簡易的なものだが、割と美味しい。
「あ、あの……!」
シェリーが顔をあげる。おずおずとしているのが見て取れる。
「どした?」
「その、この世界では貴族の方以外も一日三食取っているのでしょうか……?」
ハルトは頭にはてなを浮かべながらうなずいた。
「そうだけど、シェリーのいた世界では違ったの?」
「わ、私の育った村では基本的には一日二食で、朝はスープ、夜は芋と木の実が主流でした。お肉は村の感謝祭の時にしか口にしていなかったです。それなのに、ハルトさんたちは毎日三食、しっかりと十分すぎるくらいくださるので……」
「申し訳ない……と?」
「は、はい……」
どうやらシェリーのいた世界――少なくともシェリーの育った村は、ハルトたちの暮らしとはずいぶんかけ離れた、質素な暮らしを強いられていたようだ。
だとしても、この世界で彼女が質素な生活をする必要はない。普通に冒険者として暮らし、年相応の栄養は取るべきだ。
「まぁ、この世界では三食が普通だし、肉とか野菜だってしっかり毎日食べる。その様子だと、風呂とかも数日に一回とか言い出しそうだけど、家に帰れる日は毎日風呂に入って、ちゃんとしたベッドで寝る。これは当たり前のことだから、シェリーもしっかり慣れておいたほうがいいね」
「当たり前……ですか。わ、わかりました。頑張って慣れます」
そう明言すると、彼女は大袈裟なくらい息を呑み、パンにかぶりついた。
日が傾き、空が焼け始める。頃合いを見て、今日はソーサルに引き返すことにした。
馬車に揺られながらも、周囲に警戒は怠らない。ただ、そこまで気を張り詰めている必要もないため、ぼんやりと沈みゆく太陽を眺める。
ふいに、肩の少し下に何かが倒れてくる。目を向けると、赤毛の少女が小さく寝息を立てて寄りかかってきていた。
今日は魔法を繰り返し練習した。魔力を大量に消費すると、疲労もその分増える。疲れてしまったのだろう。
起きているときはやはりまだ少しだけ遠慮があるように見えるが、眠っているときの彼女はハルトから見れば、ずいぶんと幼く見える。十五歳には見えないくらいに彼女は背が小さく、童顔だ。彼女だけなのか、異世界人がみな、年よりも幼くみえるのか。
まだ成人にもなっていない彼女には、大きな使命が課せられている。大きすぎて、彼女をつぶそうとしているようにさえ思える使命。
理不尽な世界だ。
それでも、冒険者は生きるために戦い続けるしかない。勇者はいわば冒険者の派生形のようなもの。彼女もまた、この世界では戦い続けるしかない。
今はとにかく、彼女の先の未来が心配でならない。さながら、保護者にでもなった気分だ。
西日がやけにまぶしい。
「シェリー……。おーい」
シェリーの肩を軽くゆする。彼女は一瞬、びくりと体を揺らすと、脱兎のごとく身を起こした。
「ふぁ……すいません。寝てしまってました」
「いや、俺的には可愛い寝顔も見れたし、いいんだけど。街に着いたからさ」
ちょうど、馬車の動きが止まった。
シェリーは顔を赤面させて、これまた脱兎のごとく馬車を降りた。
いや、可愛いかよ。おっと、心の声が漏れた。
門をくぐる。なんとなく、空気が変わった気がした。この中は人であふれている。ちゃんと、帰ってきたと思わせてくれる何とも言えない心地よいものだ。
ふいに視線を感じた。最後に感じたのは、いつだっただろうか。確か四日前とか。
すぐさま視線を周囲に巡らすと、やはりいた。街路樹の後ろでジーっとこちらを見つめる存在。
「……はぁー」
シェリーが不思議そうに見上げてくる。
「どうかしましたか?」
「いや、すぐにわかる。先に言っておくけど、俺には恋人も結婚相手もいないからね」
シェリーは余計意味がわからない、というように首を大きく傾げた。
街路樹から彼女が飛び出す。バレたと分かった途端、これだ。
「ハールートさぁぁぁぁぁんッ!」
彼女はシェリーと同じくらいの背丈で、確か年齢は一個上。しかし、落ち着きのない仕草と、破天荒っぷりのせいか、シェリーよりも年下に思える。
リリーはハルトたちの前で急停止、シェリーにいきなり指を突きつけた。
「誰ですか! この女は! リリーという身がありながら、女性に手を出すとはどういうことですか! しかも、パーティーメンバーのあのお二方ならまだしも、それに飽き足らずに女性を侍らせるとは、リリーは悲しいです!」
「いや、意味わからないし……。落ち着けよ」
「これが落ち着いていられますか! 浮気ですよ! 不倫! 密通! エロがっぱ!」
「よーし、良い度胸だ。俺の知り合いリストからお前を除外してやる」
ハルトとリリーが息を荒立てて見合っていると、シェリーがハルトの服の裾を軽く引いた。
「あ、あの、ハルトさんのお知合いですか?」
「ん? ああ、いやなんて言うか、ストーカー?」
「失礼な! 今、こうして目の前で堂々としているではありませんか」
リリーはハルトをわざとらしい上目遣いで見つめると、今度はシェリーに向き直る。
「リリーといいます。ハルトさんの未来のお嫁さんです。あなたには負けませんよ!」
「お、およっ……! えっと、シェリーと言います。ハルトさんには冒険者の先輩として、いろんなことを教えてもらってて、その……」
「リリーの思うような関係じゃない。ちょっと野暮用で彼女を住み込みで教えているだけだ」
流石にリリーにシェリーが異世界人だと明かすわけにはいかない。それとなく言葉を濁す。
リリーはひとまずハルトとシェリーの関係性を理解したらしく、逆立てていた肩を降ろす。
「そうでしたか。住み込みっていうのがやはり引っかかりますが、まあマナツさんにユキオさん、それとモミジさんもいれば、ハルトさんも獣になることはないでしょう。シェリーさん、よろしくお願いします」
「は、はいっ!」
よし、人のことを獣呼ばわりしたこいつは、今度から無視しよう。というか、獣ってなんだ、おい。
とにかく、リリーがシェリーの良き仲になるのは悪いことではない。知り合いだって、冒険者にとっては立派な武器になる。伝手はあってなんぼだ。
「ほら、帰ったらマナツたちに色々教えてもらうんだろ。さっさと帰ろう」
シェリーの冒険者としての一日はまだ終わっていない。彼女は寝る前にマナツ、ユキオ、モミジの三人から座学を教わる。冒険者として覚えておくべきことから、この世界の基本的な生活ルールなど、全般だ。
ハルトが歩き出すと、シェリーも慌ててついてくる。しかし、彼女は急に立ち止まり、振り返った。
「リ、リリーちゃん! ば、ばいばい!」
砕けた笑みだ。やはり、歳が近いというのは大きいらしく、シェリーは早くもリリーに心を許したようだ。
「ばいばーいです! ハルトさんもー!」
不本意ながら、軽く手を挙げる。
無視しよう、と先ほど言い聞かせたばかりなのに、どうしても無視できないこの性格は、良いのか悪いのか、ハルトには判別がつかない。
2
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる