田舎町のモルモット召喚士になる前に

モルモット

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9話 幼い勇者と両想い

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俺は墓地へ逃げた。
アンデットが出ると言われている場所なら 追ってもすぐには来ないだろう。
この場所は 日中なのにもかかわらず 切がかかっていて不気味な感覚が肌を針で刺すようだ。

「麻袋のロープをほどくね。 ジェニーよく我慢しね」

袋の中からはどんなジェニーが出てくるだろう。
笑顔かな?
ぼさぼさの髪型の 落ち込んじゃったジェニーかな?
何の心配もいらないよ。もう一人じゃないから・・。

でも 袋を下に下げると寝間着姿のジェニーは 涙を流した顔で出てきた。
きっと これは何かの間違いだ。 
そうだ 俺だってことがわからないよね? 安心させてあげなくちゃ。

「トシユキだよ。安心してジェニー・・」

涙で前が見えないジェニーに 俺の声で安心をさせてあげるんだ。
声が通じると「トシユキ?」と聞き返してきて やっぱり 気が付いていなかっただけだったんだと思った。
でも 「トシユキ どうして?帰りたいよ うわぁぁぁん」と鳴き始めてしまった。

どうして?

君の腕を つかむと君は振りほどいた。。なんで?

「見てくれよ! このブルーのブレスレッドは ジェニーがくれたものだろ?大事にしてるんだ。俺の宝物なんだ!」

ジェニーに腕輪を見せつけた。
15歳のあの日の 君の気持ちを忘れたとは言わせない!
ブレスレッドを見せると 泣き止んで安心した表情になってくれた。
もしろ ほくそ笑むような。よくわからない感情に取り付かれるように、余裕の笑みを浮かべているけど
どうしたんだろう?

「ふふふ それね。「しずくの糸」と言われる珍しい糸なの。女の子の間で想いを伝えたい相手に贈るもので毎日少しずつ作っていくものなの。そんなに嬉しかった?」

「ジェニーは忙しいのに 俺のために作ってくれたんだね。大切にするよ。ありがとう」

「違うわ。わからないの?今のあなたならそうねぇ・・3本。。いいえ10本でも手に入れられるわよ。試しに私のバザーの向かえにお店を出していた子。それから・・の子。それから・・あの子も。頼んでごらんなさい。あなたのために作ってくれるはずよ」

「1本で十分さ。気持ちの重さが違うから」

「あ~ら そんなに気に入ってくれたの?ふふふ はははぁ!!」と大笑いを始めたジェニーは何が可笑しいのかな。お腹が痛いのかな?

「勝ったわ。あの子にも・・あの子にも。。ふふふ。私ってすごいのね。涙が出ちゃうわ。ふふふ。
でもね トシユキ、もうやめましょう。私はお姫様になりたかったし、あなたは本当は勇者様のような存在になりたかったのよね?でも 商人のジョブの私を幸せにするなんて簡単な事だし、あなただってすぐ手の届くところに幸せは眠っているはずよ。」

ジェニーは 俺の両肩に手を置いてうつむく俺の瞳を見つめると「大人になりましょ?」と言って諭してきた。
「うん 君の気持ちはわかったよ ジェニー」

プイプイ??

プイプイ??

ボン!

「あら? 可愛いモルモットちゃんが消えちゃったわよ。どうしちゃったの?」
「ああ 可愛いけど召喚獣だからね。俺の魔力の関係で消えちゃったんだと思うよ」
「相当 落ち込んじゃったのね? そうねぇ・・ 実は私、近いうちにこの街を出るの。だから今晩一晩だけ、トシユキと一緒にいてあげるわ」

ジェニーは優しかった。
だから 好きになったんだと思う。
そうだ 明日 15歳の贈り物をしよう。そのためにも眠らなくっちゃ。

さすがに 墓場で眠るわけには行かないので 墓場の監視小屋へ移動してモルモットたちを墓場に放った。
仲間意識の強いモルモットならアンデットが出てきたらすぐに 知らせてくれるだろうし
俺のレベルなら 物理攻撃がどうこうという以前にアンデットも怖がって寄り付いてこないだろうし
朝日が出るまで 殴り合ったっていい。

さて そろそろ 眠ろうかな。
「ローソクの明かりを消してもいいかな?」
「ええ いいわよ」

真っ暗な部屋の中で 俺とジェニーは子供の頃の話をした。
「じゃぁ ダンジョンで生活できると本当に思ってたの?ははは」
「だって 絵本ではお菓子で出来た階層にたどり着くのよ ふふふ」
・・・
ああ なんて幸せなんだ。
・・
俺がジェニーに求めていた物は いったい何だったんだろう?

慣れない事をしたせいか、深い眠りについた・・・
・・・・
「トシユキ・・寝ちゃったのね。召喚士になれておめでとう。愛してるわ。だけど、明日で、さようなら・・」

チュ!

・・・・
コケコッコー!!
ニワトリの声がした。
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