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オレとタンスの住人達

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「ここは閉鎖空間?」
まず 肉の壁がせまってくるぞ!

トシユキは腸のような迷路の世界をひた走りミミズのような怪物にレーザー銃げ攻撃をして逃げ道を切り開く。
「こっちだ!」

トシユキの後ろからはネズミの顔をしたモブたちが右往左往しながら付いてくる。
不安になることもあるだろう。
でも大丈夫。
リーダーのトシユキに付いて行けば、きっと、、きっと天国までいけるのだから。。

「そろそろ バイトの時間かな」

汗の付いたゴーグルをテーブルの上に置きっぱなしのタオルで拭いて、エナジードリンクを飲み干してから今日の達成感を味わう。
トシユキの座るソファーだけは柔らかく、これはトシユキがこだわって選び抜いたソファーだ。
だって このソファーの感触を味わっているときだけ自分は「ゆるされている」そんな気がしたから。

突然 ガサガサと音が鳴ったがベテランニートのオレは慌てない。

ガサガサ ガサガサ

慌てない。。あわ? ガサガサ

タンスの一段目の引き出しに何かがいるようだった。
これは心霊現象ではなく、おそらく生物学的に立証できる現象がタンスの一段目の中で発生している。
でも、オレは科学者じゃない。
両親には大学への進学を進められたが、日本のアホ大学に進学をしてもどうしても何かが得られるとは思えなかった。
だから アルバイトを始めた。
初めは若かったからみんなチヤホヤしてくれてよかったんだけど年を取った今となっては 「あはははは」っだ。

ベーシックインカム制度って言うのも始まったから 制度上、両親から離れて一人暮らしになったけど、
「ワナだったのか?」実際にベーシックインカム制度が始まってみたら肩身がこれほど狭くなるとは思わなかった。


ガチャ!

ボロアパートのカギが解除されてドアが勝手に開いた。
でも そう言う条件でここに入居しているから仕方がない。
そしてもうすぐ おっさんの低い声で「店にこい!」って言われるんだろう。

トシユキはそう思ったが、しばらく経ってもそんな怒号は飛んでこない。
目を凝らして夕日が差し込むアパートのドアを見ると
ダラリと長い髪のようなものが下がっている人が立っていた。

「あの、、」

彼女は黒い影であったがモジモジとした様子が伝わってきた。
戸惑ったのはこちらの方だ、今まで女性との交流経験のないオレの家に女性が入ってきたのだから、しかもモジモジしながら、、

期待をしてしまう童貞トシユキであったが、それはコンビニのアルバイトの女性でトシユキが住んでいるアパートの1階で働く女性である。
名前はハルカといい、今日からの新人でありベテランのトシユキが世話係をすることになったのだが、彼女の仕事ぶりは内気な性格の分だけ周りに気配りができる子だった。

「お疲れ様です。。。あの。。コレ」
彼女が手渡してきたのはドングリのキーホルダーだった。
手作りらしく、いつの時代の人なのかとも思ったが人の温かみというものは案外昔の時代の方があったのかもしれない。トシユキは受け取ると胸に付けた。
「今日はお疲れ様。 AIガジェットは使いこなせた?」
「はい」

笑顔でガジェットを外すハルカからトシユキは 彼女の分のAIガジェットを預かるとヘッドフォンスタンドに戻して充電をした。
今の時代は AIガジェットが支持や相談に対応してくれるので働き方で困ることはない。
一時期はロボットと戦争になるのかもしれないなんてまじめに議論されていた時期もあったがオレたちはロボットに勝利し仕事を守ったのだ。
「ニート最強」
「え? 何か言いました?」
「いいや なんでもない それより廃品のお弁当選んでいいよ」
「やったぁ~ あ? 私ったら。。」

ハルカも空腹だったのか、ニンニクたっぷりのすき焼き弁当を選ぶと先に帰っていった。
AIに使われるというのは、怒鳴られないだけ気楽だけど人に使われるよりも疲れる。。
トシユキも 廃品のお弁当と「ゴキブリボンバー」という商品を購入して部屋にもだどった。

部屋に戻ってソファーに腰を掛けて少し休むと「ゴソゴソ」という音がまた聞こえ始めた。
よく耳を澄ませてみたら、タンスの一段目の引き出しにいるらしくまだ逃げていないようだった。
そこでトシユキは ゴキブリボンバーを手に握ってアサシンのように忍び足でタンスに近づくと
ゆっくりと引き出しに手をかけて 素早く引き抜き、そして「ゴキブリボンバー」を投下して素早くしめた。

「くらえ! ゴキブリボンバー!!!!」

ゴキブリボンバーとは 氷結タイプの駆除剤である。
部屋に有害な殺虫剤が広がることもなく、しかも 相手がネズミであったったとしても凍らせてしまえるほどの強力なタイプだ。
一段目の引き出しの音が静かになり、トシユキはお弁当を食べてお風呂に入った。
時間が経過して頃合いもいい頃に、タンスの引き出しを開けるとそこから飛びさしてきた物はゴキブリでもネズミでもない。
吹雪と雪だった。
動揺するトシユキであったが目を凝らしてタンスの中を見るとそこはタンスの境界線がないどこまでも続く白い雪の世界だった。

「何だこれは?」

手を入れてみると冷たい感覚があり、握った白い物は確かに雪だった。
色々と考えたが理解できるはずもなく取り合えず、冷蔵庫のコンセントを抜いて代わりにタンスの一段目に冷凍の肉やおやつのアイスクリームを入れておくことにした。

トシユキは ゴーグルを被るとまた VRゲームの世界に没頭した。
彼はネズミたちの魂を天国に連れていくために派遣されたエンジェル戦士なのである。
ネズミたちというのは 元ロープレイヤーたち。
ハイプレーヤーたちは、ワナを仕掛けてオレたちを地獄に落とそうとする。
落とそうとするために課金をしてワナを買う、ハイプレーヤーたちは金持ちが多いのだ。
ムチになぜかホーミング機能が搭載されているワナをかいくぐり無事にトシユキは天国にネズミたちを届け終えた。

「ふう。。アイスでも食べるか?え!」

トシユキがタンスの一番下の引き出しを開けるとそこにはさっき入れたはずの冷凍肉や食品が無くなっている。
「オレのアイス!!」
奇麗に無くなっているようだがよく見ると足跡のようなものが続いていた。
トシユキは タンスに顔を突っ込んで奥の方をみるとなんと アイスのカップが逆さまになっている。
よく見ればその周辺にも鳥の巣のようにゴミが集まっていた。
「はぁ。。」

アリに食べられてしまったのかもしれないと手を入れてカップを引っ張り上げるとカップの下にはなんと人がいた。
トシユキは驚いてのけぞってしまったが、よく見るとカップを持ち上げられて小さな人たちは困っているようだった。
小さな声でこちらに抗議をしているのがよくわかる。
それもそのはずで 小人たちは凍えているようだった。
「家なのか?このカップが?」

トシユキは カップを再び戻すとアイスの家から人が出てきた。
何かを訴えているようだったので「そうだ!」胸についていたドングリを彼らにあげることにした。
ドングリを受け取ると 驚いたようだ。
それもそうだろう。大きな種なんだから 気っと見たことがないに違いない。
彼らは喜んで飛び跳ねていた。
トシユキは タンスを閉めて寄りかかると深呼吸を一度してた。
彼は 電話をするわけでもなくSNSに投稿するわけでもない。
ただ ニヤリと笑うのであった。
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