愛するということ

緒方宗谷

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8.家庭味ラーメン 

1.孝行

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 ひいちゃん(曾祖母)が施設に入る前、もう足が弱くて杖を突いていたのに、里美を誘って旅行に出かけた。里美には特別思い入れのない思い出だったので、すっかり忘れていた。
 陸は、弱者に対して優しい。里美は、弱者は強者に対してもっと意見を言うべきだとか、そんなだから立場が弱いんだと考えていた。バカにしていたわけではない。自分達がちゃんとしないから、そんな情けない感じになるのだと思っている。
 里美としては、もっと頑張って自分を主張すべきだと応援しているつもりでいた。だが、それは強者の論理だ。陸と話していて、自分が少し強引だった、と思うようになった。
 陸は、自分の独立した自我を自分のために発揮することが無い。彼を見ていて、里美はそう思うようになった。弱い立場の生徒に仕事が押しつけられたり、少数意見が正しいにも関わらず、ディベートが不得意なばっかりに意見を言えない生徒達に援護射撃の様な補足的意見を述べる。
 里美は思った。
(そうか、ひいちゃんが言いたかったのは、こういうことなのかも)
 日曜日のお昼前。今日は、いつもと違う道を歩いていた。数日前に曾祖母の話を聞いた陸は、「曾おばあちゃんにあってみたい」と里美に言った。それで里美は陸を連れて介護施設に向かっているのだ。
 ひいちゃんが入所する前に自分とした最後の旅行を、里美は思い出していた。
 いつも家にいて、ちょっと歩くだけでも膝が痛いとぼやいていたから、里美の両親は心配した。2人はやめさせようとしたが、ひいちゃんは頑なに聞かない。
 教育熱心な両親よりも優しいひいちゃんの方が好きだったから、里美は「いいよいいよ」と笑って、ひいちゃんの希望を叶えてあげた。
 中2の時は、アメリカでヘイトに晒されて間もなく、里美は少しねじれていた。一時は、噴出する憤りをひいちゃんに吐露していたが、学年が変わって旅行の話が出た頃には、ひいちゃんの家に電話することもなくなっていた。旅行の日程は、中学を卒業してから高校が始まるまでの春休みの間と決まった。
 プランは全てひいちゃん任せだ。里美は旅行当日になってもどこに行くか知らない。この年代の女の子にとって、家族旅行はそれほど重要ではない。いくらひいちゃんっ子だからといっても、それほど気分は盛り上がらなかった。
 千葉なのに東京を名乗るお城や大阪の普遍的な所じゃあるまい。どうせ温泉だろう。昔からある名所旧跡をタクシーで回ったり、神社仏閣へお参りに行くのだろう。
 自分が楽しむというよりも、ひいちゃん孝行のために行くのだ。里美は、とても軽く、その程度に考えていた。

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