Perfume

緒方宗谷

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手紙

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 こんにちは、真一。
 遅くなりましたが、みのるの進級おめでとうございます。みのるは4年生になったのですね、とても格好良く成長しているのではないかと想像する次第です。
 さて今回、そのみのるの学校の事で手紙を書きました。
 先日、みのるの事で、家庭支援センターから職員の方が2人お見えになりました。中学校の先生から、10月に入って以降一度も登校していないので心配していると相談を受けたそうです。
 真一も1月に1カ月間仕事をお休みして、みのるの不登校について色々考えたり行動したりしたと思います。
 みのるのお母さんは東京だし、真一も仕事をしているので、家事や教育についてやりたいことがうまくいかずに悩んでいると思いますし、これからの事に不安を抱いているのではないでしょうか。
 先日にも手紙で伝えしましたが、妻や僕としてはみのるを寮に入れてちゃんとした生活を送れるように教育をしてもらう方が良いと思います。
 父親としては大切な我が子と離れて暮らすのはとても心苦しいことと思うけれども、みのるの将来や真一の将来を考えると早いうちに決断した方が良いです。
 妻も僕もいつもみのるのことは心配していますし、離れて暮らすのはさびしいですが、みのるの義務教育が終わった後の事を考えると、我慢をする時と考えています。
 学校の先生やセンターの方が訪問してくださっているのもみのるが義務教育に守られているからです。
 それに、18歳以降も子育てや教育に関してセンターから支援を受けられるわけではありません。
 年初にみのるを東京に送り出すという話をお母さんから聞いていますので、それまでの間でもいいのですが、東京に行かないのであれば中学卒業まで寮に入れて就職させて自活させるとか、寮生のまま高校に行かせるとかも考えておいた方が良いでしょう。 
 将来の事を考えてみてください。
 もしひきこもった状態のまま中学卒業となれば、高校受験もしないでしょう。バイトも就職もしないでしょう。
 20歳になっても30歳になってもひきこもったままの若者は多くいます。  
 みのるが30代40代の時、真一は50代60代です。その時も真一はひきこもったみのるとの生活の面倒を見なければなりません。
 真一自身が老後の入り口にさしかっているのに、どうなるのでしょうか。僕達も80代90代で自分の老後のまっただ中で四苦八苦でしょうから、余裕はないでしょう。
 昨年、真一は自分の老後を心配していましたね、自分自身の老後のためにも、みのるの自立心を養い、自立した一個の人間として自らの2本の足で立てるように教育を施設でしてもらいましょう。
 度々テレビでひきこもりが起こす事件が報道されています。
 先日も同居家族を殺害し、連絡が取れないことを心配して見に来た兄弟の妻を殺害、さらに訪れた近所の男性を殺害するという事件がありました。
 過去には10代前半の少女を誘拐し、10年くらい自室に監禁していた事件も起きていますし、探せば似たような事件はたくさん見つかると思います。
 ひきこもりがひきこもっていられるのは、衣食住を提供している者がいるからです。具体的に言えば家族、みのるに対しての真一です。
 犯罪の話は極端な例ですが、みのるが中年になっても引きこもっているとか、その生活費の負担のために真一の老後生活が立ち行かないとかと言う想定は、リアルにしておくべきです。
 お母さんもお父さんもみのると遊んでいて、みのるはなんて頭の良い子なのだろうと感心することが度々あしました。
 特にカードゲームを作ることに関してはすごい才能だと思います。無数のキャラクターを描き、いくつもの複雑なルールを考え出したりします。
 僕が12歳の時、僕も友達もそんなことはできませんでした。ほとんどは外で鬼ごっこなどをして走り回っていましたし、ボードゲームやカードゲームは市販のトランプや花札で遊ぶにとどまっていました。
 カードゲーム的なものは何度か作ったことはありますが、みのるのように複雑で高度なものはできませんでした。
 みのるが世に出れば、必ず成功すると思います。どんな夢を描いたとしてもみのるなら現実にできることでしょう。真一も僕達と同じくみのるの成功した将来を思い描いていると思います。
 ですが、今のままではどんな才能も何にもなることなく無くなってしまいます。
 狭く閉ざされた部屋に閉じこもっていては、無限に広がるみのるの可能性を殺してしまいかねません。今が残り少ない決断の時と思います。
 みのるは寮生活など嫌がるでしょうが、親子の情に流されることなく、真一がそれを決断し実行してくれることを願っています。
 
2016年11月27日
正雄

 少し前、父親の正雄からの手紙がポストに入っていた。切手も消印も無いから、わざわざこの家にまで来てくれたのだろう。真一は何度も読み返したが、ピンとこない。
 父親だからだろうか、我が子がニュースで報道されているような行為に及ぶなど、いくら考えても思い浮かばない。
 正雄は、とても気を使って手紙を書いていた。初めに進学のお祝いを述べて成長したみのるを褒め、親心をくすぐる。その上で養育の大変さに理解を示し、真一の努力をねぎらい称賛した。
 持ち上げておいてからまず結論を述べて、重い現実を続ける。不安感と義務感を掻き立て、実例を出して恐怖を植える。落ち込んで拒絶しようと思った矢先に、急にみのるを褒めちぎる。
 前途揚々なみのるの未来を想像させてから、1歩踏み出す勇気を与え、最後に決断を迫った。
 真一の頭に残ったのは、みのるを褒め讃える文のみだ。
 父は、この様な手紙を書くような人ではない。たぶん母に促されて書いたのだろう。真一はそう思った。
 しかし、真一の深層心理の奥では、正雄にかき混ぜられた不安が渦を巻いて、段々と粘りを帯び始める。教育する立場としての無能さに気が付いていた。










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