猫のモモタ

海辺のお友達

特技が自信、自信が特技

　岩場にあった水たまりに、不思議なカニがいます。体はとても小さいのに、とても大きなハサミを持っていました。
　「なぜ右手ばっかり鍛えてるの？左手も鍛えたら？」
　「僕は右手で戦うのが得意なんだ。　
　　だから、右手ばかり鍛えているんだよ」
　「極端すぎない？左手はとても弱そう。
　　僕だったら左手も一生懸命鍛えるよ、左右が大きい方が戦えるじゃない？」
　モモタは、小さな左手は何も役に立たないと思いました。
　「ははは、そう思う？じゃあ、君が僕を食べる鳥だとしたら、僕を見てどう思う？」
　モモタは想像しました。一口サイズのカニです。ですから、お口でパクっとすれば、ムシャムシャできるでしょう。でも、モモタは出来ません。
　「そのハサミが大きすぎて怖いなぁ。
　　だって、お鼻をはさまれたら、無くなっちゃいそう」
　「そうだろう、そうだろう」
　カニは自慢げに続けます。
　「もし、左右均等に鍛えたら、確かに左のハサミも大きかったろうけど、右のハサミは今の半分の大きさだっただろうね。
　　そうしたら、僕は他のカニや鳥と戦えないよ。
　　それに、左は左で、ご飯を食べるのが得意なんだ」
　見ると、岩に空いた小さな穴の中にハサミを入れて、器用にご飯をつまんで食べています。
　確かに、大きなはさみでは無理です。ご飯を食べるのに適したハサミでした。
　「得意なことって、みんな違うもんね。
　　得意じゃない事を無理にしても上手になれないし、好きになれないかもしれない。
　　それに、見た目はだいぶ違うけれど、左のハサミも鍛えられてたんだ」
　港で見たカニや海岸で見たヤドカリと比べて、とても堂々としていました。