猫のモモタ

緒方宗谷

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不幸を見れば幸せ気分な蚊の話

想って満足自分だけ

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 今日の牧場は大忙しです。
 ハムやベーコン、ソーセージを作るために、丸々肥えた美味しそうな豚ちゃんたちを何頭か連れて行きました。
 モモタから見れば、みんな自分より大きな体をしていますし、子供の豚でもモモタくらいあるので、ご飯だとは思えません。
 ですがお肉になった豚ちゃんたちは違います。
 良い匂いがするので、豚ちゃんたちをお肉にするお部屋にの前で行ったり来たり、にゃあにゃあ鳴いておねだりです。
 つられてやって来たのはモモタだけではありません。蚊の親子もやってきました。
 「たくさんご飯が溢れているわ。さあさ坊や、お腹一杯飲むのよ」
 「えぇ!?ヤダよ僕、体の中を流れる新鮮な血が良いな。
  外に流れでた血なんて新鮮じゃないから飲みたくないよ」
 「何言っているの!あの豚ちゃんたちはおねんねしていてもう起きないのよ。
  ここの人達は血のソーセージは作らないから、たっぷり飲んでもおとがめなし、心置きなく飲めるんだから」
 蚊の子供は、モモタを見て言いました。
 「ねえママ、僕は今日もモモタの血をもらうよ、豚の血なんかいやだよ」
 モモタはびっくりして言いました。
 「ヤダよ僕、かゆい思いをするの。君だったんだね、いつも僕を刺してたの」
 2人のやり取りを聞いていたママ蚊が言いました。
 「ほらご覧なさい、こんな猫を刺してごらんなさい、下手をすれば、後ろ足でカイカイした時に誤って潰されてしまうかもしれないわよ」
 「大丈夫だよ、上手く刺すから。
  今までだって大丈夫だったじゃないか、あの猫バカだから大丈夫だよ」
 結構ヒドイことをさらりと言う子蚊です。
 モモタは文句を言おうとしましたが、それを遮ってママ蚊が言いました。
 「捨てられるエサがもったいないでしょ?
  これを捨てなければ、むこうの山の蚊たちは、みんなお腹いっぱいになれるのよ」
 子蚊は言います。
 「そんなに山の蚊たちが可愛そうだと思うのなら、ママが山の子たちに持って行ってあげれば良いじゃないか」
 「そんな事できるわけないでしょう?ママ1匹でこんなに沢山の血をどうやって運ぶの?」
 「ママ友にお願いして手伝ってもらえばいいじゃないか」
 「そんな大変なこと手伝ってもらえません。
  変な事ばかり言っていないで、早く飲んでしまいなさい」
 「頑張って説得するんだよ。
  この牧場は広いんだ、林や池もあってたくさん蚊が住んでるじゃない。蚊以外に血を吸う羽虫は大勢いるよ。
  みんなのお家に行って説得して回りなよ」
 「どうしてそんなに話が大きくなるの?ママはお腹を空かせた山の蚊の不幸を想うことで、あなたがどんなに幸せか知ってほしいの」
 「それじゃあ、このもったいない豚ちゃんたちの血はどうなるの?結局流れてお終いじゃない。
  捨てる血が捨てる血のままなのは、捨てない血にしないからだよ。
  それじゃあいつまで経っても、山の蚊たちは腹ペコのまんまじゃない。
  ママは可愛そう可哀そう言うけれど、山の蚊のために何かしたの?してないでしょ?」
 ぐうの音も出ないママ蚊でした。
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