猫のモモタ

緒方宗谷

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夢見がちなシュモクザメの話

夢は希望

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 珊瑚礁の浅瀬に遊びに来たモモタに、今日もシュモちゃんは夢を語っていました。
 小さなシュモちゃんの胸には収まりきれない大きな夢です。
 そこに、捕まえた小魚を食べながらシュモちゃんの夢のお話を聞いていた大きなハサミを持つカニが話しかけてきました。
 「なに言っているんだ。夢を語るのもほどほどにしろよ。
  現実を見なきゃ生きていけないぞ。
  お前どんだけ小さいか分かってんないんだろう。
  なにがマグロやカツオだよ。お前なんか雑魚食うだけで精一杯さ。
  大人になったってそんなに大きい訳じゃないんだから」
 けんもほろろに捲し立てられて、シュモちゃんは言い返せません。
 代わりにモモタが言いました。
 「決めつけるのはよくないよ。たくさん食べて一生懸命泳いでいれば、いつか海の向こうに泳いでいけるかもしれないじゃない」
 すると、カニは笑います。
 「泳ぐのも遅い、力も弱い、牙も小さい。それでどうやって外海に出るって言うのさ。
  すぐに食べられちゃうのがオチだよ」
 カニは、鋭いハサミを見せつけます。
 「見ろよ、このハサミ。この僕に勝てると思うかい?
  君なんか、僕にとってはただのごはんさ」
 そう言って、小魚を食べ終わったカニは、海の底へと帰っていきました。
 「シュモちゃん・・・」
 モモタは声をかけようとしますが、シュモちゃんのあまりの落ち込みように、かける言葉が見つかりません。
 シュモちゃんが嘆くように言いました。
 「僕だって分かってるさ!
  そこに沈んでいるシャコガイだって、あっちのおうちに住んでる伊勢海老だって、僕のことをごはんにしようとしているも知ってるさ。
  あのカニだって、もし僕を捕らえられたら食べようと思っているよ。
  もし捕まったら、僕はなにもできない。
  でも僕はだんだん大きくなっていく。
  その内この浅瀬では泳げなくなってしまうのは、分かってるんだ。
  僕が生まれた時、お母さんはもう死んでいたけど、おぼろげに覚えてる。
  とても小さかった。だから死んだんだ。僕だってあのくらいにしかなれない。
  僕もああなってしまうと思うと怖くて怖くて仕方ないんだよ。
  見てごらんよ、外海の青の深さを。飲み込まれたら、サメの僕でさえ溺れてしまいそうだよ
  夢くらい見たって良いじゃないか、希望くらい見たって良いじゃないか。
  そうでなければ、怖くて怖くて生きていけないよ」
 溢れる涙を押さえきれないシュモちゃんのおでこをなめながら、モモタが言いました。
 「外海だけが海じゃないよ。珊瑚礁の鮮やかな色を見つめてごらんよ。
  見慣れた風景かもしれないけど、ここはどこも敵わないほどのきれいな海なんだよ」
 シュモちゃんが、ぐすりと鼻をすすってモモタを見上げます。
 モモタが微笑みました。
 「今は夢を見ようよ、今は希望をいだこうよ。
  成長ってそういうものだから」
 その日モモタは、潮が満ちる直前まで一緒にいました。



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