猫のモモタ

緒方宗谷

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一緒に暮らすの大得意イタチの話

知らない幸せと不幸せ

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 ある春の麗らかな昼下がり、モモタはテクちゃんと遊びに行きました。
 木々の葉は広がり、草は伸び始めて、せっかちさんなお花は蕾をつけています。
 日に日に気温が上がっていくのを肌で感じられました。
 暖かい日差しを避けて、木陰に入って一休みするモモタに、テクちゃんが言いました。
 「真夏は暑すぎてやだなぁ。
  暑いとみんな夏バテじゃない。普通のごはんでは数ばかりで味が落ちるもん
  涼しい夏が良いよね。今度来る夏は涼しそうでよかった」
 モモタは言いました。
 「涼しいとごはんが減るんでしょ?減ったら大変なんじゃないの?
  だってお腹いっぱい食べられないよ」
 「うん。涼しい夏になれば、食べ物が減って食べなきゃ冬になったらやっていけないね。
  そう考えた虫たちは冬眠に備えて、頑張って太ろうとするよ。
  それを食べる虫やお魚やネズミたちも太るじゃない?
  そうしたら、それを食べる僕たちの巣は、美味しいごはんで溢れるよ。
  だからみんな幸せになれる」
 モモタには想像もできませんでしたが、数ヵ月後、本当に涼しい夏がやってきました。
 太陽の日が照る昼間は暖かいのですが、夜は一転してとても寒くなります。
 夜の寒さに耐えようと、昼間の内に野草やお野菜はたっぷり栄養を吸い上げました。
 ですからとても甘くなったのですが、陽がくれるととても寒かったので、一部の野菜は甘くなったものの、ほとんどヒョロヒョロ。
 強い虫やネズミは、甘いのを食べて太れたけれど、大半の動物はガリガリやせっぽちのままです。
 1匹のイタチが、テクちゃんに言いました。
 「ごはんがヒョロヒョロでお腹いっぱいになれないから、貯めているのを食べようよ」
 すると、テクちゃんは言いました。
 「夏がこんなに涼しかったなら、冬はとても寒くなるのは間違いないよ。
  きびしい冬に備えて、今は蓄えておかないと」
 今年生まれた満腹になる幸せを知らない子供たちが可愛そうで、モモタはテクちゃんに言いました。
 「涼しい夏のほうがみんなの生活が良くなるって言っていたけれど、そうはなっていないみたいだよ。
  ほとんどの子供たちがガリガリやせっぽちなんだから、みんなが満腹になれるほど、ごはんが行き届いていないんじゃない?
  美味しい思いが出来るのは、テクちゃんとそのそばの子たちだけじゃない」
 「そんなことないよ、いつも貯めているから、この夏もみんなにご飯をあげられたし、冬が厳しくなっても、みんなで食べていけるんだよ。
  家族がみんな幸せいっぱいにはなれないかもしれないけれど、お腹を空かせて死んじゃう子たちもいないんだ。
  おじいちゃんもおばあちゃんも赤ちゃんもいるこの巣の幸せを見てごらん。
  他の巣は、若い子たちしかいないんだよ」
 でもモモタには、他の巣の若い子たちより、テクちゃんは幸せで、テクちゃん以外の若い子たちは不幸せに見えました。



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