猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
4 / 514
大好きな家族の話

相手の気持ちになって想えるということ

しおりを挟む
 とてもお天気のいい朝でした。
 モモタは、祐ちゃんママが作ってくれたほぐし鮭の猫まんまを朝ごはんに食べてすぐに、お外へと遊びに行きました。
 マンションがたくさん並んだところにやってくると、何やら心に不安が湧いてくる何かが、一本道路の真ん中に落ちています。
 モモタは悲しい気持ちになりながら、それがなにか確かめようと近づきました。
 猫でした。夜の内に車にひかれたのでしょうか。牙を出して唸るように顔をしかめた、薄茶の猫でした。
 モモタは、少し離れたところの十字路のすみの歩道にお座りをして、見ていました。
 まだ朝早いので、沢山のサラリーマンが行き来しています。
 あの死んだ猫のことを、誰かが助けてくれるだろう、とモモタは思いましたが、誰も助けてくれません。
 ブレザー姿の女の子はよけて、離れたところを歩いていきます。
 少し後に来た同じ制服の女の子は、顔を背けました。
 学ランの男の子は、気にも留めない様子です。
 モモタはつらくて、その場を後にしました。
 お昼ご飯の時間も終わってしばらくした後、再びモモタはやってきました。そして、空を見上げました。
 突然お目目が握られたようになって、中の水がしみ出してきたような感覚がしたからです。
 みんなお仕事に行っている時間でしたから、誰も通りません。
 死んだ猫は1匹ぽっちで、冷たいアスファルトの上に横たわっています。
 モモタの後ろから、車が走ってきました。
 ひき潰される、とモモタは心配しましたが、車はスピードを落として、猫をひかないように走っていきます。
 何人かのサラリーマンや私服のおばさんが通りましたが、やはり知らんぷり。
 あたかも死んだ猫が、その場にいないかの様でした。
 あの猫を助けてあげたい、と思ったモモタですが、自分よりも大きな大人の猫のようでしたから、どうすることも出来ません。
 モモタは、その場にいるのがつらくて、遊びに行きました。
 このつらい気持ちを忘れてしまいたかったからです。
 陽が暮れてくると、モモタはもう一度あの場所に行きました。
 死んだ猫は、朝と同じ場所で同じ格好のまま横たわっています。
 たくさんのサラリーマンが、前から後ろからぞろぞろ歩いていきます。お仕事が終わったのでしょう。
 通る人通る人、みんな気がついているようでした。ですが、誰も死んだ猫を助けてくれません。
 ランドセルを背負った子供たちが、むこうからやってきました。
 でも期待できません。だってみんなは朝も死んだ猫を見たはずですから。
 子供たちは、「まだいるー、まだ落ちてるー」と騒いで、気持ち悪がります。
 モモタは、自分のことじゃないのに、言葉が心に刺さりました。
 陽が沈んでからだいぶ時間が経ちました。
 モモタは、もう長いこと道路と歩道をへだてる植え込みに座っています。
 たくさんの人が通りましたが、誰一人として、死んだ猫を見て悲しんではくれません。
 モモタは、諦めて帰ろうとしました。
 背を向けて、十字路を左に曲がろうとしたその時です。
 気配がしました。自転車に乗った男の子が、スイーと走ってやってきました。
 モモタは、瞳を見開いて、もう一度、死んだ猫のほうに向きなおります。
 なぜかそうせずにはいられませんでした。
 男の子は、急にスピードを落としていきます。
 右足で後ろのタイヤをまたいで、左のサドルの上に片足立ち。
 姿が見える距離になって、その男の子が誰だか分かりました。モモタはとても期待が湧いてきました。
 格好良いマウンテンバイクからおりた男の子は、ご主人様の祐ちゃんでした。
 祐ちゃんは、マウンテンバイクをおりてしゃがみ、死んだ猫を見ています。
 そして辺りを見渡して、マンションの植え込みに生えていた、人間の顔ほどもある大きな葉っぱを2枚ちぎって、手のひらに添えて、猫を抱き上げました。
 そして、歩道の植え込みに生えていた木の根元に寝かせます。そして、手のひらに添えた葉っぱを猫にかけました。
 モモタは、とても救われた気分になって、「にゃあにゃあ」鳴きながら、祐ちゃんのもとに駆けていきます。
 「モモタぁ」祐ちゃんは優しく答えてくれました。そして、モモタの脇に両手を添えて抱き上げて、続けて言いました。
 「この猫かわいそうにね。車にひかれて死んだのかな。
  本当は埋めてやりたいけれど、手じゃ硬い土を掘れないし・・・。
  でも土の上に寝かせてあげたからいいよね?だってかたい地面じゃないんだもん。それに、いつか土に帰っていけるから」
 モモタには難しくて、何を言っているか分かりません。ですが、祐ちゃんの猫への優しさが伝わってきます。
 モモタは、とっても幸せ者です。祐ちゃんに抱き上げられる時が一番大好きです。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

処理中です...