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モモタとママと虹の架け橋
第三十八話 姿かたちは関係ないよ
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遠くの山の上からチュウ太が襲われているとことろを見つけたキキは、急いで飛んできて翼を畳んで突撃してきていたのです。
目にも止まらぬ早業でした。三匹は、一体何が自分の身に起こったのか分かりません。
キキは、そのままの姿勢で黒猫に激突しながら左足でチュウ太を鷹掴みにして、同時に右の爪で、チュウ太に向かって繰り出されたミケの右前足を踏みつけてひっかき、深く跳躍して再び羽を広げて飛び上がったかと思うと、右斜め前にいた茶猫の眉間に嚙みついて急速左横回転。眉間の皮をねじったのです。
そのまま縦螺旋を二回描きながら旋回飛行に移行したのでした。
ゆっくりと羽ばたいて砂浜に下りたキキが言いました。
「お前ら、僕の友達になにしたんだ!」
キキは、今まで見せたことのないような気魄に満ちています。
チュウ太を砂の上に優しく置いたキキは、全身の羽を逆立てました。本気で怒り狂っているようです。翼を大きく広げて前のめりに構え、くちばしを開きました。黒炭色の爪がゆっくりと砂から持ち上がります。
猫たちはたじろぎました。
なんという大きさなのでしょうか。翼を広げたその姿は、猫たちの大きさを優に超えています。それにあのくちばしの大きさといったら、戦慄を覚えざるを得ません。まさに野生の捕食者の象徴です。あんなくちばしで目をつつかれようものなら、丸ごとくり抜かれてしまうでしょう。
そして、あの爪の太さを前にしては、もはや成す術がない、と悟るしかありません。もし、あの爪で捕まえられたらと思うと、全身に悪寒が走ります。肉は貫かれて裂かれてしまうでしょう。
恐れ慄いたミケが、他の二匹に叫びかけました。
「お、お前らやれ、やっちまえ」
ですが、二匹は動きません。ミケは命令を繰り返します。
「なに黙ってんだ。相手は子供だぞ」
黒猫も茶猫もミケの子分でしたが、心の底から付き従っているわけではありません。たまたまミケの方が二匹より強かったので従っているだけでした。
それに、ミケは飼い猫でしたから、ごはんに困りません。簡単に美味しい缶詰やキャットフードが手に入ります。ミケは二匹がそのごはんを羨んでいることを知っていたので、それをエサに言うことを聞かせていたのです。
二匹としても付き従ったほうが美味しい思いができましたから、ミケに従っていました。ですが、状況が一変した今となっては、話しが変わります。
猫すら捕食するオオタカとはいえ、まだ子供。ですから、三匹掛かりなら負けはしないでしょう。それでも、誰かが大怪我することは間違いありません。あのくちばしと爪を持っているのですから。最悪死んでしまうかもしれません。
もはや、ミケの声は二匹には届きませんでした。ここで一番強いのは、オオタカのキキだったからです。
三匹には、キキを襲う勇気が出ないようです。場の空気は、キキが支配していました。ですが、キキにも攻めだせる手だてがありませんでした。もし誰か一匹を襲おうものなら、チュウ太の身が他の二匹の牙に晒されてしまいます。その隙にチュウ太がかじられては大変です。
ヘビに睨まれたカエルとは、正にこのことでした。制空権も制地権もキキの手中にありました。猫たちが攻めかかろうものなら返り討ちに会うでしょうし、逃げようとしても水平飛行で時速80キロを超えるキキの飛行速度から逃れる術はありません。
一方的にキキから睨みつけられている時間は、三匹にとってとても長く感じられたことでしょう。どうしようもできずにいる間に、上空で鳴くキキの警告の鳴き声を聞いて、もしやと思って戻ってきたモモタたちが、砂浜に到着しました。
今さっきまでチュウ太を囲んでいた三匹が、今度は逆に囲まれてしまいました。
「あわわわわ~」と情けない声を出した茶猫が、おもらしをしながらしりもちをつきます。それを見やった黒猫は、恐怖に耐えきれずに「やってられっか」と叫んで逃げだしました。
キキは、モモタにチュウ太を預けて黒猫目掛けて飛んでいくと、その背を鷹掴みにして高々と飛翔し、砂浜に落としてやります。
キキの目力によって金縛り状態にあった茶猫が、睨みから解放されて別の方向に逃げ出しました。あとは、モモタと対峙しているミケだけです。
ふだんはケンカをしないモモタですが、大親友のチュウ太がこんな目に遭わされたとなっては、黙って見過ごすわけにはいきません。背中の毛を逆立てて「フー」と唸っています。
今背を向ければ、確実にモモタに噛まれてしまいます。ミケは動けません。
ミケは、茶猫に向かって大きな声で叫びました。
「おいっ、どこ行くんだ戻ってこい、戻ってこいチャンゴ!」
「やなこったぁ~」と茶猫は叫びながらどこかへ行ってしまいました。
ミケが黒猫の方を見やると、黒猫もいません。探すと、防波堤の方に走っていって、そのまま飛び乗り反対側に下りて消えてしまいました。
散々黒猫を追い立てまわしたキキが、チュウ太の元に戻ってきます。
二対一。もはやミケには勝ち目はありません。
ミケは、柿渋でうがいをしたような顔で苦しそうに言葉を吐いて言いました。
「くそっ、なんてことだ。あいつら、俺を置いて逃げやがった。ネズミだって海ガメの前に残ったのに。あいつら! 同じ猫なのに! 子分のくせして!」
モモタとキキを見やって、ミケが続けます。
「いったいなんだよ、お前ら。ネズミと猫とタカだなんてどうかしてるぞ。ありえないよ。一緒になって海ガメを守ろうだなんて」
ミケには全く信じられない光景でした。
目にも止まらぬ早業でした。三匹は、一体何が自分の身に起こったのか分かりません。
キキは、そのままの姿勢で黒猫に激突しながら左足でチュウ太を鷹掴みにして、同時に右の爪で、チュウ太に向かって繰り出されたミケの右前足を踏みつけてひっかき、深く跳躍して再び羽を広げて飛び上がったかと思うと、右斜め前にいた茶猫の眉間に嚙みついて急速左横回転。眉間の皮をねじったのです。
そのまま縦螺旋を二回描きながら旋回飛行に移行したのでした。
ゆっくりと羽ばたいて砂浜に下りたキキが言いました。
「お前ら、僕の友達になにしたんだ!」
キキは、今まで見せたことのないような気魄に満ちています。
チュウ太を砂の上に優しく置いたキキは、全身の羽を逆立てました。本気で怒り狂っているようです。翼を大きく広げて前のめりに構え、くちばしを開きました。黒炭色の爪がゆっくりと砂から持ち上がります。
猫たちはたじろぎました。
なんという大きさなのでしょうか。翼を広げたその姿は、猫たちの大きさを優に超えています。それにあのくちばしの大きさといったら、戦慄を覚えざるを得ません。まさに野生の捕食者の象徴です。あんなくちばしで目をつつかれようものなら、丸ごとくり抜かれてしまうでしょう。
そして、あの爪の太さを前にしては、もはや成す術がない、と悟るしかありません。もし、あの爪で捕まえられたらと思うと、全身に悪寒が走ります。肉は貫かれて裂かれてしまうでしょう。
恐れ慄いたミケが、他の二匹に叫びかけました。
「お、お前らやれ、やっちまえ」
ですが、二匹は動きません。ミケは命令を繰り返します。
「なに黙ってんだ。相手は子供だぞ」
黒猫も茶猫もミケの子分でしたが、心の底から付き従っているわけではありません。たまたまミケの方が二匹より強かったので従っているだけでした。
それに、ミケは飼い猫でしたから、ごはんに困りません。簡単に美味しい缶詰やキャットフードが手に入ります。ミケは二匹がそのごはんを羨んでいることを知っていたので、それをエサに言うことを聞かせていたのです。
二匹としても付き従ったほうが美味しい思いができましたから、ミケに従っていました。ですが、状況が一変した今となっては、話しが変わります。
猫すら捕食するオオタカとはいえ、まだ子供。ですから、三匹掛かりなら負けはしないでしょう。それでも、誰かが大怪我することは間違いありません。あのくちばしと爪を持っているのですから。最悪死んでしまうかもしれません。
もはや、ミケの声は二匹には届きませんでした。ここで一番強いのは、オオタカのキキだったからです。
三匹には、キキを襲う勇気が出ないようです。場の空気は、キキが支配していました。ですが、キキにも攻めだせる手だてがありませんでした。もし誰か一匹を襲おうものなら、チュウ太の身が他の二匹の牙に晒されてしまいます。その隙にチュウ太がかじられては大変です。
ヘビに睨まれたカエルとは、正にこのことでした。制空権も制地権もキキの手中にありました。猫たちが攻めかかろうものなら返り討ちに会うでしょうし、逃げようとしても水平飛行で時速80キロを超えるキキの飛行速度から逃れる術はありません。
一方的にキキから睨みつけられている時間は、三匹にとってとても長く感じられたことでしょう。どうしようもできずにいる間に、上空で鳴くキキの警告の鳴き声を聞いて、もしやと思って戻ってきたモモタたちが、砂浜に到着しました。
今さっきまでチュウ太を囲んでいた三匹が、今度は逆に囲まれてしまいました。
「あわわわわ~」と情けない声を出した茶猫が、おもらしをしながらしりもちをつきます。それを見やった黒猫は、恐怖に耐えきれずに「やってられっか」と叫んで逃げだしました。
キキは、モモタにチュウ太を預けて黒猫目掛けて飛んでいくと、その背を鷹掴みにして高々と飛翔し、砂浜に落としてやります。
キキの目力によって金縛り状態にあった茶猫が、睨みから解放されて別の方向に逃げ出しました。あとは、モモタと対峙しているミケだけです。
ふだんはケンカをしないモモタですが、大親友のチュウ太がこんな目に遭わされたとなっては、黙って見過ごすわけにはいきません。背中の毛を逆立てて「フー」と唸っています。
今背を向ければ、確実にモモタに噛まれてしまいます。ミケは動けません。
ミケは、茶猫に向かって大きな声で叫びました。
「おいっ、どこ行くんだ戻ってこい、戻ってこいチャンゴ!」
「やなこったぁ~」と茶猫は叫びながらどこかへ行ってしまいました。
ミケが黒猫の方を見やると、黒猫もいません。探すと、防波堤の方に走っていって、そのまま飛び乗り反対側に下りて消えてしまいました。
散々黒猫を追い立てまわしたキキが、チュウ太の元に戻ってきます。
二対一。もはやミケには勝ち目はありません。
ミケは、柿渋でうがいをしたような顔で苦しそうに言葉を吐いて言いました。
「くそっ、なんてことだ。あいつら、俺を置いて逃げやがった。ネズミだって海ガメの前に残ったのに。あいつら! 同じ猫なのに! 子分のくせして!」
モモタとキキを見やって、ミケが続けます。
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