猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
407 / 514
モモタとママと虹の架け橋

第四十話 もったいないオバケも大忙しだね

しおりを挟む
 太陽はまだ高々と輝いています。おやつ時くらいでしょうか。モモタとキキが、必死に海ガメおばさんに海水をかけ続けています。その横で、アゲハちゃんが気を失っているチュウ太に羽でそよ風を送りながら看病をしていました。

 海水を浴びているにもかかわらず、海ガメおばさんはどんどん衰弱していきます。

 人を呼びに行きたいのですが、ミケたちが仕返しに戻ってくると大変なので、この場祖動けません。

 海ガメおばさんの頭に水をかけたキキが言いました。

 「苦しいのが原因じゃないか? 治せなくても苦しさを和らげれば、少しは楽になるかもしれないぞ」

 そこでモモタは、においを嗅ぎながら海ガメおばさんの苦しがる原因を探します。キキも慎重に海ガメおばさんを観察しながら、周りを歩き回りました。

 モモタは、波打ちぎわを振り向いて考えました。

 (もしキキが言っていることがほんとなら、潮が満ちてきても海ガメおばさんは助からないかも。潮が満ちるまでに、苦しい原因を見つけないと)

 必死に探しますが、一向に見つかりません。今の今まで“早く潮が満ちてくれれば”と思っていましたが、今度は潮が満ちる前に原因を探らなければならなくなりました。時間に追われるようになって、モモタたちは焦り始めます。

 みんなは悩みました。全く原因が分からなかったからです。

 アゲハちゃんは、何度も吐気をもよおす海ガメおばさんを見ていて気がつきました。

 「分かったわ。喉に何かつっかえているのよ。だから息ができなくて苦しくて弱っているんだわ」

 「クラゲじゃないか?」とキキが言いました。

 モモタは、クラゲはぷにゅぷにゅしていて、喉に仕えそうにもないかな? と思いましたが、「もしかしたら、塊で飲み込もうとしてつっかえたのかも」と言いました。

 キキが、半開きになった海ガメおばさんの口を覗き込みます。

 モモタが、右前足を海ガメおばさんの中に入れてみました。モモタが喉仏付近を触ると、海ガメは嘔吐いて苦しみます。口を閉じようとしたので、モモタは慌てて手前足を引っ込めました。大きなくちばしで噛まれては敵いません。

 モモタとキキは、どうしようか、と考えあぐねてしまいました。

 そこに、ようやく目を覚ましたチュウ太が、よろめきながらも立ち上がり、鈍重になった足を引きずってきて言いました。

 「僕が行くよ。僕くらいなら口の中には入れるから」

 アゲハちゃんが心配して止めました。

 「飲みこまれたらどうするの? やめておきなさいよ」

 「大丈夫だよ。体調が悪くて気持ち悪いって言ってるのに、僕を食べたりしないだろ? それに、飲みこまれたら、喉に前足を突っ込んで『げぇ~』ってさせれば、僕は吐き出されてくるはずだよ」

 モモタもチュウ太が心配です。 

 「でも、そんな大怪我で出来ないでしょう?」

 「大怪我ほどの怪我じゃないよ。ちょっと爪先で引っ掻かれたただけさ。どっちかって言うと、肉球で叩かれた痛みと走り回った疲れがほとんどさ。

  もう大丈夫だから、心配しないで。ちょっと行って見てくるだけさ。僕がお腹の中に入って調べてみるよ」

 アゲハちゃんが言いました。

 「危ないわ。万が一うんこになったらどうするの?」そう言って「あっ」気がついて訂正します。「万が一になるというか、ならないほうが万が一?」

 「あはははは」と笑うチュウ太「笑い事じゃないぞ。僕を勝手にうんこにするなよ」

 そう言って、半開きになった海ガメおばさんの口に、身をよじりながら入っていきます。そして、「んじゃ、行ってきまーす」と言って、喉の奥へ行こうと舌の上を這っていきます。

 咽喉に差し掛かって喉仏をかき分けると、不意に海ガメおばさんが嘔吐いて口を閉じました。舌と上あごの収縮に押されて、チュウ太が意に反して喉の奥に引きずりこまれていきます。

※※※

 しばらくすると、海ガメおばさんの頭が不自然に上下に揺さぶられました。

 チュウ太が戻ってきたのだと気がついたモモタが、海ガメおばさんのくちばしに爪を立ててカリカリと引っ掻きました。

 何とか口を開いた海ガメおばさんから、チュウ太が這い出してきます。そして、何やら白い物を引っ張り出そうとしています。見ると、ビニール袋でした。

 みんなで「おーえす、おーえす」と掛け声をかけて、引っ張り出します。

 キキが水汲みに使っていたのとは違うお店のコンビニ袋でした。

 チュウ太の身に、何やら細かい白い雪のような屑がついています。

 アゲハちゃんが、身をはたいたり砂の上で体をよじったりしているチュウ太に訊きました。

 「何それ?」 

 「分かんない。これだけじゃなかったよ。お腹の中には、細かい白い粉もたくさんあったよ」 

 そう言いながらチュウ太は、胃の中でかき集めて袋に入れてきた中の物をみんなに見せました。マイクロプラスチックでいっぱいです。

 キキが言いました。

 「細かい袋のきれっぱしじゃないか?」

 チュウ太が、クタクタとへたり込んで言いました。

 「僕のお家がある人間のお家もそうだけど、なんかたくさん捨てるんだよな。食べれる物だってたくさんあるし、集めれば身を隠すお家や基地になりそうなのもたくさんあるよ。

  おもちゃにだってできそうでもったいない」

 アゲハちゃんが頷きます。

 「ほんとよね。山間の集落でもたくさん捨てていたわね。フルーツ缶詰なんて、とても甘い香りがしたわよ。なんてあんな宝物捨てられるのかしら」

 モモタが、「あれは、もともと中に果物が入っていたんだよ。それを食べて捨てるの。でも、まだ舐めればおいしいのに捨てるなんてもったいないよね。魚だって頭としっぽと骨は捨ててしまうし。お腹なんて栄養満点なのに」

 チュウ太が呆れて言いました。

 「僕たちはうんちしか捨てるものがないってのにな」

 「あら、ウンチだって役に立っているわよ」とアゲハちゃん。「だって、ハエやうんち虫がごはんにするもの」

 「ああ、そうか。そう言えば、僕たちのうんちもゴキちゃんがごはんにしてたっけな」

 みんなして、“人間は変な生き物だなぁ”と思いました。

 本当、迷惑なゴミですねー。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

処理中です...