猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第四十四話 厳しさは優しさの裏返し

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 随分と変わった形の海岸です。モモタが以前お世話になっていたお家のある岬を遥かに超える崖がそびえ立ち、しかもそれがずっと遠くまで続いています。

 海ガメおばさんは、飛べないモモタとチュウ太のために、陸地に上りやすい浜辺を探して上陸しれくれました。 

 波打ち際に下りて振り返ったチュウ太に、海ガメおばさんが言いました。

 「本当にありがとうね、チュウ太さん。わたし、とても体調が悪くって朦朧(もうろう)としていたけれど、あなたがわたしのために頑張って猫たちと闘ってくれていたのをちゃんと覚えているわ。

  わたしは、もう死んでしまうのねって、とうに諦めていたけれど、あなたは違ったわ。死にかけているわたしを見捨てることなく、頑張って猫たちと闘ってくれたわね。

  わたしは死んでしまって、生まれてこなかった最後の子供にもう会えないのだわって思って死にゆくのを待っていたけれど、あなたのおかげで虹の結晶になったわたしの赤ちゃんを見ることができたわ。

  もし諦めて死んでいたら、わたしの赤ちゃんがきれいな宝石に生まれ変わったことにも気がつけずにいたでしょうね。とても素敵だわ。いつかモモタさんの夢を叶えたり、太陽の悲しみを癒したりできる存在に生まれ変わったのですもの」

 チュウ太は少し照れながら、海ガメおばさんの話を聞いています。

 「わたし、ここに来るまでの間に考えたの。もし、最後の子が海ガメとして生まれていたとしたら、こんなふうにして海を泳いだと思うのよ。小さな赤ちゃんは潜っていけないから。

  そう考えたら、もしかしたら、わたしの赤ちゃんは、虹の結晶になったのではなくて、あなたに生まれ変わったのかもしれないって思うようになったの。いいえ、そうとしか考えられないわ。あなたがわたしの赤ちゃんだって思えてならないのよ」

 チュウ太は、はにかみながら言いました。

 「僕もそう思うよ。見ず知らずのお友達を命がけで助けるなんて、普通おかしいからね。モモタたちとの友情もあるけど、それだけじゃないかも」

 「その考えも素敵だわ」とアゲハちゃんが言いました。「死んだらお終いって、なんか悲しいもの。それに死ぬ側はつまらないわ。もし生まれ変われるのなら、次は何になれるだろうって楽しみになれるし、いろいろ経験できるわ。それに、死んだらお星さまになれるんですもの。逆に星が死んだ時に命に戻ったっておかしくないものね」

 チュウ太は、海ガメおばさんの目元によって言いました。

 「海ガメおばさんがそんなふうに思ってくれてたから、僕全然海が怖くなかったんだ。絶対海ガメおばさんが守ってくれるって感じていたからね」

 「嬉しいわ。わたしもあなたが安心してわたしの背中に身を預けてくれているって感じられていたの」

 海ガメおばさんが一筋の涙を流したので、チュウ太も涙を浮かべます。とても名残惜しそうに、二匹は寄りそっていました。

 しばらくして、ゆっくりとまぶたを閉じてほほ笑んだ海ガメおばさんが、またゆっくりとまぶたを開けて言いました。

 「ここは寒いから、わたしは黒潮に戻るわ。チュウ太さんも気をつけてね。わたしの可愛い坊や。旅の無事を祈っているわ」

 そう言って、海へと引き換えしていきます。

 「ありがとー元気でねー」みんなは海カメおばさんをお見送りしました。

 しばらくしてから海を離れたモモタたちは、のんびりと流れる時間の中で、海ガメおばさんの話を思い出していました。 

 アゲハちゃんが言いました。

 「わたし、死んだらどうなるかなんて考えてみたことなかったわ」

 「僕もだよ」とチュウ太が言います。

 キキが、「僕は食べられたら痛いだろうな、怖いだろうな、とは思っていたかな」と言いました。

 チュウ太が、「食べられたら、お腹の中でどうなるんだろうとは思ったな。今考えても、うんちになって出てくるだけかなって思えちゃうよ。あれ、生きてんのかな」

 「なにをバカなことを」とキキがぽつり。

 モモタが笑いました。

 「うんちが生きているなら、木や土や石や水も生きてるかもね」

 アゲハちゃんも笑います。

 「そうかもしれないわ。だって木は伸びるし、花を咲かせたり実を生らせたりするものね。石だって気がついたらいなくなってたり、増えてたりするもの」

 キキが言いました。

 「そうしたら、土の子供が木なんじゃないの? 土から顔を出して高く成長するんだからさ。木は、どんな大嵐が来ても倒れないし折れないんだ。弱音も吐かずに黙ってずっとそこに立ち続けている。しかも、お母さんの土から離れないでじっとしているのに、杉の木はとても高くまっすぐに伸びるからね。とても強い証拠だよ。

  なら、やっぱり旅立たなかった月は、強い存在なんだよ。だって月は、暗闇でも寂しがらずに明るく輝いていられるんだから。月も木もおんなじ強さを秘めているんだ。月も木も、ずっとそばに寄りそって離れない強さがあるんだよ。
  まさに空の王者が住むべき木さ」

 アゲハちゃんが、一つのひらめきを披露しました。

 「木が高く高く成長しようってするのは、太陽を目指しているんじゃないかしら」

 「太陽を?」とみんなが口をそろえます。

 アゲハちゃんが続けました。

 「そう。わたしのお家がある別荘の床下に這えた草は、縦に伸びないのよ。横にニョロニョロと伸びていって床下から出てくると、突然お空に向かって伸び始めるのよ。床下だって端の方は陽の光がさすんだから、わざわざたくさん草が生えているところまで出てこなくたっていいのに、わざわざ出てくるの。それって、太陽が恋しくってお空を目指しているのよ」

 アゲハちゃんの話を聞いて少し考え込んでいたキキが、ようやく何かを思いついて、アゲハちゃんに話を譲ってほしそうな視線を送りました。アゲハちゃんは、健やかな笑顔でキキに話しを譲ります。

 キキが話し始めました。

 「もしかしたら地球が太陽を恋しがっているのかもしれないね。木々は地球の毛なのかも。だって、大空から大地を見下ろすと、至ることろまで草木で覆われているから。

  そうだとしたら、この大自然は地球の意思なのかも。山々が高いのも木々が高いのも、みんな地球の意思なんだよ。確かに、なんか地球って生き物なんだなって思うよ」 

 「じゃあ、わたしたち地球の子供ね。わたしたちも地球が命を育みたいって生んでくれたのよ。わたしたちを生んでくれたママのように」

 モモタは嬉しくなって言いました。

 「そうしたら、冒険は怖いことなんかじゃないよね。ママのお肌の上を歩いているんだもの。雨が降ったり雪が降ったり風が強かったり、暑かったり寒かったりするけれど、それは、僕たちを育ててくれてるって証拠だよね」

 「ああ、そうだな」とキキ。「僕が巣立つ前にだって、お母さんは、僕に自分でごはんを捕る訓練をしてくれたからね。小さかった頃は、口に運んでくれたのにさ」

 地球は、どんな困難を自分たちに与えたとしても、乗り越えられる困難しか与えないんだとモモタたちは思いました。

 もし心と体の準備ができていなくて、その時は乗り越えられなくても、ちゃんとお休みする場所を用意してくれているんだと安心もできました。

 そして、成長するまで待っていてくれて、それを見てくれたあとに優しくいだいてくれる、と信じられました。

 
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