DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第七十六話 ついにゲット⁉ 最強装備

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 ローゼたちは、積み上げられたレンガの上に座って、女の子がもって来てくれたハーブティを飲みながら休憩をしていた。
 辺りを見渡していたローゼが、おもむろに訊いた。
 「でもなんで、こんな人が住めないような森の中に、こんなたくさんのレンガが?」
 女の子が答える。
 「ここは数年前にゴーレム戦争があった場所なんです」
 この森にアジトを構えた魔導士が大量のゴーレムを作って蜂起した内戦があったらしいのだ。
 「――ということは」とエミリアが見渡す。「これ、何百体というゴーレムの残骸?」
 よく見ると、最初に視界に入った塔は、大きな人の形に見えなくもない。屋上にある建屋が顔のようだ。周りにも似たような塔や極小の砦の残骸。その場所に建築された、とするにはとても不自然な配置だから、多分全部ゴーレムだったのだろう。お城の塔を魔法でゴーレムにするなんて、相当な実力があったに違いない。
 ゴーレムには二種類がある。精霊や邪霊が宿ったゴーレムと、命のない鉱物を法術で操るゴーレムだ。 
 ゴーレムが戦史に登場することは度々あるが、ローゼが知っているのは岩が連なった人型のものか、泥や木製のものがほとんど。お城のように大型のものは稀だし、しかも城そのものとしても使えるなんて信じられない。城の石やレンガを利用してゴーレムを作るにしても、大抵は原型などとどめていないからだ。ゴロゴロと城材が集まって来て、人型になるだけだから。
 胴体である塔には沢山の窓あって、一階部分の腰の真ん中には大きな門と階段がある。周りには手足の残骸が落ちていた。戦争当時は、あの窓から魔導士が魔法を使ったり、腰の門から兵士が出てきて戦ったのかもしれない。
 ローゼから旅の目的を聞いた被害者たちは、膝をついて懇願するように二人に退治を依頼する。
 それに応えてローゼが言った。
 「退治しておくから、早く服着て逃げちゃいなさいよ」
 「服は全部燃されて無いんです」一人の妻子持ちだと言う男が答える。
 「じゃあ、そのまま逃げたら?」
 「この格好で町に戻れって言うんですか? 一生変態のレッテル張られちゃいますよ」
 家族と感動の再会どころか、離婚絶縁家庭崩壊絶対的。
 「それに、ドラゴンがいる森の中を我々だけで逃げるなんて出来ません」
 「じゃあ、先にこの人たちを逃がしましょうか」とローゼ。
 突然「何をしている」と男の声がした。「貴様、私のとんがり兵をどうするつもりだ」
 何だよとんがり兵って。ただの一般市民だろう? と振り向くローゼ「……」。一度目を逸らしてもう一度見やる。
 「ええ~? 何その格好⁉」と三度見めでそう叫んだ。
 ツノぱんつどころか、ツノ着てるよ。尖ったほうをお股にして。
 エミリアもびっくり「かわいー」
 ってそっちかい。どこが可愛いんだよ。
 ローゼ、やや眺めて――
 うーん…確かに。ある意味可愛いけれど、それって宴会とか何かの出し物とかでウケ狙いでした時だよね。普通にこんな格好してたら、可愛いって言えなくね?
 竜殺紳士が頷いて言う。
 「うむ、この可愛さが分かるとは、なかなか見込みのあるやつらであるな」
 いや、結論“可愛いって言えない”って言ったの聞こえてた?
 「これだけ大きいツノであるにもかかわらず、先の方に向かって微妙に湾曲しているのがチャームポイントである」
 その可愛さ、使われ方で台無しじゃね? せっかく怖さないんだしさ。多分生えてた時は恐怖しか感じない湾曲だったろーし。
 「もしよければ、色々制作しているので、プレゼントしてやろう」
 いらねーよ。
 「ちょっと待っておれ」
 そう言って一番大きい城型ゴーレムの塔に入っていった竜殺紳士。
 待っている間に彼の説明。こいつほんとにドラゴンハンター? と言いたくなるような様相。身長はエミリアくらい。ちょっと癖のある七、三分けで紳士風の口髭が生えている。黒目がちの目はバンビの様だ。
 大きな竜のツノを逆さにして着ていて、ツノの根元から頭を出している。どうやって中に入ったんだろう? よく見ると靴までツノ製、歩きにくくないんだろうか。
 しばらくして、幾つかのツノの束を持ってきた竜殺紳士は、それらを綺麗に地べたへと並べた。
 女性用ツノ下着のオンパレード。ブラは、トップだけを覆った物や全体を覆う物。パンティは腰を全部覆って股の中央から下に向かってとんがった物、二股になって外側に向かって弧を描いてとんがった物。エトセトラ、エトセトラ。
 「ローゼさん愛用の骸骨ぱんつとお似合いですね」とエミリア。
 「なんと、その様な下品なものを穿いているのか」
 竜殺紳士がびっくりする。その周りで、みんなドン引き。ヒソヒソ囁き合って、ローゼに冷たい視線を向けた。
 エミリアのヤツ……(怒)
 「まあ良い」と竜殺紳士。「そのような中二病的悪の剣士にはこれじゃ」と言って、ちちバンドを取って広げる。ぐるぐる螺旋の溝の入った珍しいツノ。でもいらねー。
 なんかただのおじさんに見えてきた。たまにいるよね。自分の世界を持ってる強烈なおじさん。もうただの面白おじさんだ。何年か町を定期的に徘徊していれば人気者になれるかも。
 でもそれを想像して、遠い目で悟ったように「うふふ」って笑っていることなかれ、竜のツノや牙は鉄より硬い。それを切り落とすだけでも至難の業だが、手足を通す穴まであけてある。服? 鎧? どちらにしても、防御力は絶大だろう。とてもすごいことなんだが、見た目のせいで全部台無し。すごさが全然伝わってこない。
 「あっ」とローゼが叫んだ。「ドラゴン――」と言って言葉を止めた。“スレイヤー?”と続けようとしたが、どうも違う。少し考え込んで「キラー?」と言って「見た目が変過ぎて、持ってるの気がつかなかった」と続けた。
 とても大きな剣だ。派手なハルバードのような形状をした鈍色の刃。表刃の中央が膨らんだえげつない屠殺包丁のような形で、先にいくにつれてカジキのツノのように細長くなっていくブレード。その背を覆う長く太いスパイクは裏刃付き。さらに切っ先に向かって伸びる両刃のアックスブレードが背側にあって、反対側(グリップに向かって)にも小ぶりな片刃のアックスブレード。
 メインブレードとアックスブレードの間中央よりやや強い部分(根元の方)寄りに楕円鍔があって、スピアヘッドでいうところのランゲットの部分に、六十センチくらいのグリップが伸びている。
 全長は男の身長を優に超えていた。百八十センチくらいあろうか。メインブレードからアックスブレードの刃までの幅もだいぶも長くて、百センチ近くある。よく見ると、ポメルとメインブレードのグリップ側の先がだいたい同じ位置だから、剣身自体も百八十センチだ。
 武器事典で見たドラゴンスレイヤーに似た形状であったから、ローゼは一瞬見間違えた。だが素材は読んだ本と明らかに違う。見た感じ鉄かその類(錬金術で作った鉄素材)だろう。
 おもちゃではない。あんなものを片手で持ち上げて、肩に乗せていられる時点で只者ではないはずだ。 


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