小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

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第一章

第8話:リゼルの弟子入り志願

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 なんだか信じられない。
 ……だが、現実として目元の傷が完全に癒えているエメリアがそこにいる。
 そうか、僕は[翻訳の魔導書]の力で最高の付呪師に――。

 ん、待て!
 大事な見落としがあったぞ!

「最高なんて、買いかぶりすぎです。僕の付呪は効果は凄いかもしれませんが、実は全然安定してくれなくて……」

 ふふふ、そうとも。
 最高の付呪師が作る杖は爆発なんてしない。
 ローブが軽すぎて空中でくるくる回転することもないし、ブーツが軽すぎてまともに歩けないなんてこともない。

「えっ!? そ、そうなんですか?」

 エメリアが驚愕している。
 なんだか期待を裏切ってしまったみたいで少し胸が痛む。
 だけど、嘘を言うわけにはいかない。

「今回の付呪だって、意図してできたものでは無いんです」

 更に僕は、先程思いついた案を口にする。

「あの、エメリアさん。もし良ければ僕に付呪を教えてくれませんか?」

「え、私に、ですか……? でも私、基礎くらいしか……」

「その基礎が知りたいんです」

 と、僕は彼女に[翻訳の魔導書]を見せる。

「僕はこの、[翻訳の魔導書]の力で無理やり付呪をしていまして……」

 そうして僕の付呪の事情を説明した。

 ややあって、エメリアは難しい顔になってから言う。

「……凄い、そんな力技みたいな付呪があるなんて」

 力技、か。
 確かにおっしゃる通りだ。
 本来ならば一つ一つ[古代文字]を解読しながら行うものを、全部共通語で無理やりやってしまうのだから……。

「…………その魔導書は、私にも使えますか?」

「すいません、そうしたかったのは山々なんですが、開発途中でこんなとこに飛ばされちゃいまして……」

 実に残念だ。
 これが完璧な形で完成していれば、世界はほんの少し便利になったもしれないのに。
 ……あ、割と本気で悔しい。
 くそう。

「僕にも、姉がいます。優秀な姉です。不出来な――僕なんかより、ずっと立派で、優秀な……」

 だけど、もう魔導師の道は断たれた。
 その道で姉に恩返しをすることは、できなくなってしまった。
 僕は、付呪師への道に縋るしか無いのだ。
 そして基礎を完璧にし、爆発しない安定した杖を作れるようになりたい。

「このままでは、終われないんです。僕は胸を張って故郷に帰って、姉さんに今までありがとうって言える男になりたいんです」

 これが、僕の偽らざる気持ちだ。

 僕は、エメリアの瞳を真っ直ぐに見続ける。
 目を反らすな。
 反らしたら、負けなような気がする。
 負けるな、逃げるな。
 思いは伝えた。
 ならば後は熱意をアピールするだけだ。
 真っ直ぐ真っ直ぐエメリアの瞳を見続ける。
 あ、なんか目が乾いてきた。
 瞬きもするな。
 したら緊張の糸が途切れる気がする。
 目、痛い……。

 ややあって、エメリアはぷいと視線を反らした。
 少しばかり頬が上気しているような気がするが、見間違いだろう。
 目が痛い。

「あ、貴方は、私の――恩人です。そう、命の恩人です……」

「えっ? はい……。でも、見つけたのは偶然なんです」

「ですが、見捨てることだってできました。……その恩に、報いましょう」

 ええと、つまり?
 エメリアは、こほんと咳払いをしてから言った。

「……[黄金級]の冒険者として、あなたを弟子に迎えます」

「本当ですか!」

 やったぞ。
 念願の師を手に入れた。
 ああ、師。なんて良い響きなのだろう。

 ん?
 お、[黄金級]?
 それ事実上の、冒険者の最高位なんだけど……。
 ひょっとして、僕はとんでもない人を助けてしまったのでは。
 そしてとんでもない人に弟子入りを申し込んでいるのでは。
 な、何か尻込みしてきたぞ。
 [黄金級]なんて初めて見た……。
 そんなほいほいいて良い階級じゃないぞこれ。
 僕は今、かなり身分不相応な真似をしているのか……?
 まずいぞ、もっと丁重に行くべきだった。

「ですが、条件があります」

 う、何かを要求される……。
 [黄金級]が要求するものって一体なんだ。
 僕が出せるものなのか?
 だが良いだろう。
 僕の未来のためだ。
 覚悟を決めろ。
 さあ、何が来る――。

「私にも、貴方の付呪を教えて下さい」

「な、なんだそんなことですか! 良いですよもちろん! 何でも教えますとも! どんなことでも聞いてください!」

 ああ良かった。
 何を身構えていたのやら。
 そもそも[黄金級]だって人だ。
 この状況でそんな無茶な要求してくるわけ無いではないか。
 良かった。
 本当に、良かった――。
 そしてふと気づく。
 どうやら、僕は師と弟子を同時に得たらしい、と。

「……それで。リゼル君だっけ? キミこれからどうすんの?」

 と、先程まで傍観を務めていたルグリアが言う。
 ……何か警戒されてる気がする。
 でも、そうか。
 彼女は姉だ。
 ならば僕は妹についた悪い虫に見えるのも仕方あるまい。
 誠心誠意、正直に答えよう。

「それが、実は全然わからなくて。……どうしたら良いんでしょう?」

 ……あれ、何か正直に答えたら凄い情けなくなったぞ。
 でも事実だしなぁ……。

「ンじゃ、アタシらとパーティ組む?」

「え、良いんですか!?」

 事実上の最高位の人たちと、僕が、パーティ?
 し、信じられない。

「……言っとくけど、アタシは[白銀]だから」

 白銀は黄金の二つ下の階級だ。
 いやそれでも十分凄い。
 それだけ位が高ければ憧れの的だろう。
 改めて思う。
 凄い姉妹だ。

「是非お願いします」

 と、また僕はペコリとお辞儀する。
 良かった。
 これで何とかなりそうだ。
 僕は、命を繋ぐことができたんだ。
 ふと、ルグリアが何かを思い出したかのように言う。

「あ、そだ。一応これ大切なことだから聞かせて」

 聞く?
 なんだろう。
 家族構成? 実績? 好きな食べ物?
 だが良いだろう。
 何でも来い。
 何でも答えて見せよう。
 今日から僕たちは仲間だ。
 どんな質問でもどんと来い。
 ルグリアは、少しばかり警戒するような視線になって、言った。

「キミの魔導師として目指す道は?」

 その問いかけは、少し前の嫌な記憶を思い起こさせるものだ。
 レイヴンは、魔導は自らのためにあると断言した。
 だけど、僕にはそれが許せなかった。

「――魔導を広め、世界を豊かにすることです」

 まっすぐ、目を見てそう言った。
 偽りはない。
 この思いがあったから僕はここにいる。
 良くも、悪くも――。
 一瞬、ルグリアが満面の笑みになったような気がしたが、気の所為だろう。
 すぐに彼女は挑発的な顔になる。

「――上等! よし、行こう!」

「え!? あ、ちょっと!」

 突然且乱暴に腕を引かれ、僕はバランスを崩してベッドから滑り落ちた。

「あ痛っ!」

 打ちどころが悪かったのか、背中から響いた衝撃のせいで呼吸が一瞬止まった。

「あ、ごめん……」

 エメリアが咎めるような視線でじとりとルグリアを見る。

「……姉さん」

 あ、怒っている声だ。
 ともあれ、僕は二人と一緒に[冒険者ギルド]に向かうこととなった。
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