小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

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第二章

第28話:魔法都市ガラリア到着

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 〈魔法都市ガラリア〉に到着する頃には、既に日が登りきっていた。
 ここからでも薄っすらと潮の香りがする。
 大きな大きな港湾都市だ。

 僕は獣車からひょいと顔を覗かせ、高い壁を見上げる。

「ま、街だぁー」

 ようやく、本当にようやくちゃんとした街にたどり着いた。
 もうへとへとだ……。
 申し訳ないけどやっぱり〈サウスラン〉は街じゃなくて砦だ。

 御者席に据わっていたエメリアが、くすりと笑って言う。

「良いとこですよ。きっと、リゼル先生も気に入ってくれると思います」

 エメリアのお墨付きももらえた。
 期待が高まるばかりだ。

 巨大な門が開かれると、中から慌ただしく治癒師や[冒険者ギルド]の職員が姿を現す。

「は、早いな!? 怪我人はどこにいるか! 負傷者!」

「治癒師部隊、入ります! 重傷者はこちらへ!」

 緊迫した様子でやってきた彼らだったが、すぐにきょとんとした顔になった。

 それもそのはず。
 僕たちを含む獣車隊は、どこかのほほんとした様子なのだ。

「んん!? 負傷者は!? どうなったか!?」

「おーい、こっちだー!」

 奥の獣車から、腕や足を失った冒険者たちが仲間の手を借りながら下りてくる。

「いたか! 怪我はどうか!……酷いな。治癒師部隊! こっちだ!」

「いや、もう怪我は無いよ」

「医療施設に運べ! 急いで!――ん!? なんて言った!?」

 既に、僕の[治癒の包帯]や、[治癒の服]の効果で、いわゆる生傷というやつは完全に癒えている。
 非常に質が良く回復も早く、今の段階でも十分機能してくれるため、[冒険者ギルド]の一押しはこれら[付呪された治癒セット]なのだそうだ。
 受付嬢をはじめとする職員の皆は、[商人ギルド]に殴り込んででも早急に許可を取らせると息巻いていた。
 ありがたい。

 ……それでも、失った部位は戻らなかった。
 どれだけ複雑な付呪をこなしても、欠損の再生には至らなかったのだ。

 もう彼らは冒険者引退だろう。
 これから、どうするのだろうか。
 ベヒーモスを始めとする魔獣の素材が、少しは今後の生活の足しになってくれれば嬉しいが。

 ルグリアがぴょいんと獣車の屋根から飛び降り、僕の前へと降り立った。

「アタシ、弓使いの会合参加しないとだから」

「会合ですか?」

「ン、会合! 弱点とか、あっちの魔獣の反応速度とか、そんな感じの報告!」

 そ、そういうのがあるのか……。
 だが大切なことだ。

「わかりました。僕は何をしていれば良いですか?」

「エメリアと一緒に向かってて! ンじゃね!」

 とルグリアは元気に駆け出していく。

 やや遅れてグインがのっそりとやってきて言った。

「俺も一足先に向かわせてもらう。鍛冶師の仕事があるんでな」

「そっか。生産職ですもんね」

「おう。……一応、坊主もだかんな?」

 確かに。
 付呪師だものな。
 ということは僕も行った方が良いのか?

「坊主は気にすんな、こっちでやっておく」

 そしてグインは、

「じゃ、後でな」

 とだけ言い残して言ってしまった。

 どうやら、僕とエメリアの二人だけになってしまったらしい。


 ふと、手足を失った冒険者たちが、ギルド員や治癒師部隊に担がれて行く様子が目に入る。

 ……彼らは、何を思って冒険者になったのだろう。
 何を、目指していたのだろう。
 だが、彼らの夢はここが終着らしい。

「――つらいよな」

 と、僕はつぶやくも、気持ちは晴れない。

 彼らは僕と、すれ違うと、腕の無くなった手を軽くあげた。

「ありがとな、先生」

「頑張れよ先生。あんたならどんなとこでもやれるさ」

 気丈に振る舞っているように見えるのは、彼らなりの心遣いだろうか。

「……いえ。皆さんも、お元気で」

 僕の目頭が熱くなったのは、何故だろう。
 悔しかったのだろうか。
 ただ単に別れが惜しいのだろうか。

 遠ざかる彼らの背中に、僕はもう一度、

「お元気で」

 とつぶやいた。


 ※


 エメリアに言われた通り、良い街なのはひと目でわかった。
 街の隅々にまで付呪が施されており、建物の劣化や汚れを防いでくれている。

 この街の付呪師ならば、衣食住に困ることは無いだろう。
 僕も頑張らなければ……。

 ギルド員に案内され、門を抜ける。

 まずは宿だ。
 エメリアの親戚と言っていたけど、場所はどこなのだろう。
 まあ案内してもらえば良いか。

 少し前を歩いていたエメリアがちらと僕に振り返り、言った。

「ではリゼルさん、行きましょうか」

 と、その時だった。
 きょろきょろと何かを探していた受付嬢が僕を見つけると、ぱあっと明るい顔になって駆け寄って来る。

「リゼルさんっ! やりましたね!」

 そのまま彼女はぎゅっと僕の両手を握った。
 彼女には道中本当にお世話になった。
 おかげで、僕は[青銅級]の冒険者にまで上がることができた。
 活動がだいぶ楽になるらしい。

 ふと、エメリアから短い舌打ちの音が聞こえたような気がした。
 ……き、気の所為だよね?

「[冒険者ギルド]所属、非戦闘員三十三名! リゼルさんのおかげで無事全員生還できました!」

 輝くような笑みだ。

「ギルドを代表して、お礼を申し上げます! リゼルさんには、報奨が支払われると思いますので――あ、しばらく滞在なさるんでしたよね?」

「はい。ルグリアさんの親戚が経営してる宿を紹介してもらえるみたいで」

「ああ、あそこですか! [石と苗木の宿]! 良いとこですよっ! お酒がとても美味しいんです」

 名前は[石と苗木の宿]か。覚えておこう。
 ちなみにお酒は飲まない。
 あれは勉強の邪魔だ。

「あと、お野菜もっ!」

 おお、それは良いことを聞いた。
 毎日毎日臭い肉ばかりで飽き飽きしていたのだ。
 流石に道中で山菜やきのこなどは採取できたが、基本的に前線で戦う人たちが優先されたので僕は一口くらいしか食べられなかった。
 こういう時に生産職はつらい。

 すると、エメリアがぐいっと僕と彼女の間に割って入る。

「あのぉ…………そろそろ、私たちは行かないと……」

「あっそうですね! 失礼しました! 私ももう行かなくちゃ! リゼルさん、ちゃんと換金に来てくださいね! では!」

 と、彼女はペコリとお辞儀をして、忙しそうに駆けていく。
 ちなみに、最初にもらった白銀の手形に加えて、キングベヒーモス討伐の証として白金の手形ももらってある。

 換金額は時価と聞いているが、いったいどれくらいの学になるんだろう。
 ちょっと手が震える。

「……ではっ。リゼルさん、一緒に二人で街に――」

「リゼル君はこれから街かい?」

 と、板鎧のリーダーがゆっくりと近づいて来た。
 奥にはパーティメンバーの姿もあり、皆こちらに手を降っている。

 僕はちらとエメリアの顔色を窺う。
 表情は笑顔だが、目元の辺りがぴくぴくと反応している。

 ……ここ数日の付き合いで少しわかったことがある。
 エメリアは、意外と短気だ。
 最初は、いやまさかあのお淑やかなエメリア師が? と内心で驚いたが、そういえば彼女はルグリアの妹だったなと思い出せば不思議と納得できた。

 ……応対はなるべく手早く済まそう。

「はい。エメリアさんが宿まで案内してくれるんです。僕もうヘトヘトで、早くお風呂に入りたくて」

 だからあまり時間をかけないでくれ、と遠回しに言ってみた。
 伝わるだろうか。

「風呂か! 良い浴場を知っているが一緒にどうだ?」

 伝わらなかった。

「い、いや、たぶんエメリアさんのとこが用意してくれてると思うので」

 う、嘘をついてしまった。
 胸が痛むが、許して欲しい。
 というか彼は良い人なんだけどちょっとしつこいところがあって、少しだけ苦手だ。

「そうか。いや、それは失礼をした」

 よし、話は終わりかな?

「しばらく我々もこの街に滞在することにした。新しい遺跡が見つかったらしいのでな」

 話はまだ続くのか……。
 いい加減に――。
 ん、遺跡?

「へえ、遺跡ですか!」

 思わず僕はその話題に食いついた。
 僕は未知が大好きなのだ。


「ああ。新しい魔石が手に入るかもしれない。よければリゼル君も――」

「うわあ! 魔石ですかぁ!」

 まさに僕が欲しているものでは無いか。
 付呪の魔力を魔石で補う。
 こんなにも早く可能性が見つかるとは――!

 と、板鎧のリーダーは僕の後ろにいたエメリアの何かに気づく。

「いや、やめておこう。すまない、邪魔をしたようだ」

 あっ……。

 板鎧の彼は僕の胸にぎゅっと拳を押し当ててから、

「ではな、リゼル君。――負けるなよ」

 と言って去っていく。

 僕はそーっとエメリアの様子を窺う。

「……では、リゼルさん? 今度こそ、二人で、行きましょうね?」

 口元は笑顔だが目はマジだった。

 ともあれ、僕は苦楽をともにした冒険者たちと別れ、〈魔法都市ガラリア〉に到着することができた。

 さあ、これからやることがいっぱいあるぞ。
 でもまずはお風呂に入りたいな……。
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