Rotting March

木下望太郎

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第16話  彼と、もう一人の父親と

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 暗い倉庫の中、マーチが錆びついた扉へ肩からぶつかる。外から閉ざされていたのか、何度かやってようやく扉は開いた。遥か上方から漏れる光が差し込み、舞い散る埃が白く輝く。その中に、上へと続く螺旋階段が浮かび上がって見えた。

 機械の不具合か何かの細工か、エレベーターの電源を落とすことはできなかった。そこでユンシュとマーチが連れられてきたのは零地址リンディズゥのもう一つの通路、非常階段だった。

 零地址リンディズゥの者が言う。
「しかし、正直追いつけるかどうか……こいつは屋上にしか通じてませんし」

 聞いた様子もなくマーチは駆け出し、錆びた階段を跳ねるように、数段飛ばしで上り出す。ユンシュも走り出し、零地址リンディズゥの者たちが後に続いた。
 しかし上へ駆け続け、差し込む光が段々と強くなった頃、ユンシュからマーチの間は差が開き始めていた。ユンシュから後ろの者たちへの差も同様に。

 肩を上下させ、荒い息の下からユンシュは言う。
「止まれ」
 マーチは振り返らず駆け続ける。その背へ再び声をかけた。
「待て……いいから止まれ! 腕を見せろ、右だ」

 マーチの足が止まる。
ユンシュは駆け寄り、マーチの右手をつかむ。その拳頭は皮が破れ、茶色がかった灰色の骨が剝き出されていた。人差指は明らかに、関節のない部分が折れ曲がっている。そして手の甲と、手首から先の腕。そこでは皮がめくれ黄色い脂肪が見え、灰色味を帯びた薄赤い肉が顔を出し。折れた骨が突き出していた。手の甲からは中指の付け根、腕からは内側の一本が。折れた中から赤黒い髄を垂らして。

 喉の奥でユンシュはうめいた。天井扇ファンを落とすため壁を殴ったときの反動。しかもこの朽ちかけた体で。おそらくは、痛覚のある生身では不可能な、自らを砕くほどの力を込めたせいで。
 服の裾を噛み破り、包帯代わりにマーチの腕へ巻きつける。

「右は使い物にならん。崩拳ポンチュエンを打ったところでまともな威力は乗るまい。いいか、左だ。追いついたなら左で決めろ」

 マーチは小さくうなずく。左の拳でユンシュの肩を押すと、再び走り出した。

 ユンシュも後に続くが、見る間に差は広がる。やがて膝が笑い、足が止まる。光の中、小さくなっていく背を見ながらつぶやいた。
「頼むぞ。お前とエイミアと……わしらの娘を」
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