闇の胎動

雨竜秀樹

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オークの軍勢

第2話 勝利と血

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 モルグ。
 その名を聞いただけで、広大な大陸の各地に住む人々の心は恐怖に染まるようになる。オークの首領であり、鼻のない怪物として知られる彼の軍勢は、強大で恐れ知らずの兵士たちで構成されていた。オークだけでなく、人間やドワーフ、エルフの一部も彼の軍勢に従い、その勢力は増していく。彼らはただ単に土地を奪い、国を滅ぼすだけではない。彼らの進軍は、戦場を炎と血で満たし、その名声は遠くまで轟く。

 この日もまた、モルグの軍勢は新たな征服を求め、広大な平野を進んでいた。
 彼らが目指す先には、富に恵まれた北の王国が広がっていた。肥沃な土地と強力な守備力を誇るその国は、これまで幾度も他国の侵略を退けてきた。しかし、今や彼らは新たな脅威に直面していた。それがモルグの軍勢だった。

「ボス、見えてきました!あの城が俺たちの次の標的です!」

 一人のオーク兵士がモルグに報告する。彼の声には興奮が混じっていた。
 モルグはその方向を見やり、にやりと笑う。傷だらけの顔に浮かぶその笑みは、冷酷で野蛮なものだった。鼻のないその顔は、かつて幾多の戦いで負った傷跡の名残である。

「フン、あの城か。いい城じゃないか。俺たちの勝利の証にはふさわしい!」

 モルグの声は低く、だが響き渡るような力強さがあった。以前までのたどたどしい共通語ではない。
 彼は大剣を肩に担ぎ、進軍を命じる。
 大剣からは赤い輝きが浮かぶ。
 彼の武器はただの剣ではない。炎の大精霊イフリートが宿るその大剣は、切りつけた相手を一瞬で燃え上がらせる魔力を秘めていた。その力で、数多くの敵を葬り去っている。

「こいつで殺すのにふさわしい相手はいるかな?」

 モルグは期待を込めて呟く。やがて彼の軍勢が城に到着すると、すぐに戦闘準備が整えられた。人間やオークたちは原始的な武器を手にしていたが、仲間に加わったドワーフたちの攻城兵器はエルフたちの魔術は城攻めでも大きく活躍した。
 これらの同胞の蛮行に対して、攻められる城側にもドワーフとエルフが援軍として加わり、互いに血を流す。

「ボス、あの城の守備はかなり手強いですぜ!」

 側近の一人が忠告する。
 モルグはその言葉を聞き流すかのように鼻で笑った――彼の鼻は無かったが――、表情だけでその不敵さが伝わる。

「手強いだと? だから何だ? 強ければ強いほど、俺たちの勝利が栄光に満ちるってもんだ! お前たち、いいか、俺についてこい! 勝利はすぐそこだ!」

 モルグは大声で叫び、軍勢に士気を与える。

「最も大きなボスに栄光あれ!」

 オークたちは一斉に応える。
 その声は雷鳴のように轟き、周囲の空気を震わせた。

「ここが奴らの最後の場所だ!」

 モルグは叫び、大剣を高々と掲げる。その瞬間、剣に宿るイフリートの炎が一気に燃え上がり、周囲の空気を焦がした。

「――召喚、火炎大精霊!」

 モルグが叫ぶと、イフリートの力が解放され、巨大な炎の波が城に向かって放たれた。
 城壁の上にいた守備兵たちは、突然の炎に驚愕し、混乱に陥った。燃え盛る炎は石の城壁さえも焦がし、そこにいた兵士たちは次々と焼き尽くされていく。
 城の守備を任されたエルフたちの次々と精霊をぶつけて応戦するも、モルグが支配するイフリートの猛攻を前に、一人、また一人と消し炭にされる。

「すごい。モルグ様の力はまさに神のごとし……」

 モルグに従うエルフの一人が呟く。

「いや、神なんかじゃない。モルグ様は俺たちのボスだ。神なんかよりも強い!」

 側近のオークが大声で応じ、さらに士気を高める。
 炎の勢いに押され、城の守備は大きく崩れた。しかし、守備隊も黙ってはいなかった。彼らは迅速に体制を立て直し、反撃を開始した。降伏を拒んだ時点で、すでに全員が死を覚悟していたのだ。生き残った弓兵が次々と矢を放ち、騎士たちが馬を駆って城門から繰り出す。

「面白いじゃないか!」

 モルグは笑みを浮かべたまま、イフリートに自由を許して、自らも大剣を振りかざし、騎士たちを迎え撃った。
 騎士の一人が突撃し、モルグに向かって槍を繰り出したが、その槍を素早く回避するとオークの首領は笑い声をあげながら、大剣を振り下ろし、騎士を一刀両断にする。さらに一人、二人と騎士たちを両断しながら、敵の真っただ中に突っ込んでいく。イフリートの暴力以上の大嵐となって、次々に敵を切り殺す。

「もっと来い! 俺はまだ満足していないぞ!」

 モルグはさらに多くの敵を求めて叫び、次々と襲いかかる騎士たちを倒していった。
 狂乱の宴は長く続かず、モルグはついに騎士たちの指揮官を発見する。黄金の鎧をまとった騎士隊長は蒼く輝く戦槌を振るい、オークの首領を屠ろうとする。
 しかしモルグの一撃の方が早い。
 黄金の鎧を大剣が貫き、指揮官の一撃は届かない。
 オークたちは勝利の咆哮をあげ、モルグの名を讃える。やがて城は落ち、守備兵のほとんどは戦死して、死ぬことができなかった者たちは捕らえられた。彼らは奴隷の焼印を押されて、死ぬよりも過酷な生を歩まされることになる。
 モルグは支配下においた城を側近に任せると、次なる戦場を探して、軍を進めるのであった。


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