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痛みの王
第3話 慈愛の会
しおりを挟むダークエルフの皇子が魔導都市ハルセイヌを暗黒の支配下に置く準備はすでに整っていた。彼は魔導技術の精髄とも言えるルーン・ゴーレムの制御権を完全に掌握していた。元老院の議員たちが最後の砦として頼りにしていたその強大な守護兵器も、今や皇子の手駒に過ぎない。
「お前たちの時代は終わりだ。きひ、ひひひひっ」
皇子は冷酷な微笑を浮かべながら、手を軽く一振りする。その合図で、ルーン・ゴーレムたちは一斉に元老院の議場へと進撃した。元老院の魔導士たちは恐怖に震え、次々に呪文を唱えて応戦しようとするが、すでに遅かった。ゴーレムたちは圧倒的な力で彼らを制圧し、逃げ場を失った元老たちは一人ずつ拘束されていった。
その後、ダークエルフの皇子は元老院の議員たちを全員、自らの拠点へと招待した。だが、それは礼を尽くしたものではなく、血で染まった宴の始まりだった。
「ひひひっ、どうだ、元老院の諸君。都市の民から巻き上げた税金で、随分と豊かに暮らしてきたな。老いたブタのようだ」
皇子は軽蔑に満ちた声で議員たちを見下ろした。議員たちは椅子に縛り付けられ、無力な状態で皇子を睨むしかできなかった。彼らの中には、かつて民衆の声に耳を貸さず、自らの欲望を満たすことに汲々としていた者たちも多い。
「心配するな。私がその脂肪を少し削いでやろう。キヒヒヒヒッ!!」
皇子の声が響くと、彼の手下たちが静かに動き出した。
市民からの税金で肥え太った議員たちの脂肪を減らす手伝いをするのは、ダークエルフの拷問師にとっては造作もないことで、元老院たちは血の涙を流して喜んだ。脂肪だけでなく、臓腑も取り出しては、別のものに取り換えていった。ダークエルフたちにとっては、人間の肉体など簡単なパズルであり、そのピースを弄ってバラしても、きちんと元通りにすることはできるのだ。
元老院の議員たちは、一刻も早い死を願ったが、無慈悲なる闇の種族に聞き入れられることはない。ダークエルフの皇子にとって、これはほんの序章に過ぎなかった。彼が本当に望んでいたのは、力による支配ではなく、恐怖と絶望による支配だった。
ルーン・ゴーレムたちの調整を行いつつ、影の兵力として隠した。
一方で、ハルセイヌの支配構造は急速に崩壊していった。
元老院が消滅したことで、都市の秩序は完全に失われ、残された魔導騎士たちは権力の空白を埋めようと主導権争いを始めた。各騎士団は己の力を誇示し、内部での対立が激化する中、ダークエルフたちはその混乱に暗殺や破壊工作を加えた。不信感は都市全体に広がり、誰もが敵対者を恐れ、疑心暗鬼の渦に巻き込まれていた。
「このままでは我々も終わりだ!」
魔導騎士団の一人が焦燥感をあらわにして叫んだ。
だが、それに対して別の騎士は冷笑を浮かべる。
「今こそ力を示す時だ。弱者を排除し、都市を掌握する。そうすれば、我々が新たな元老院を築くことができるのだ」
騎士たちの会話は、もはや都市の混乱を鎮めるためのものではなく、ただ権力のために争うものへと変質していた。その結果、都市はさらに混沌を極めていった。
路上には殺害された者たちの死体が放置され、ネズミや野犬がそれを貪る光景が日常となっていた。強盗や殺人は増加の一途をたどり、まともな商人たちは都市から姿を消していった。
経済は停滞し、交易は途絶え、ハルセイヌはゆっくりとその命脈を絶たれつつあった。
魔導都市ハルセイヌの暗黒時代に、奇妙な組織が現れた。
その名は<慈愛の会>。この新興宗教団体は、元々は教会の分派であったが、今では「慈愛の母」と呼ばれるカリスマ的な人物が主導していた。彼女は貧困と苦しみにあえぐ人々に希望を与え、癒しをもたらすと謳っていた。
「我々は苦しむ者たちに救いを与える」
慈愛の母の演説は、衰退していく都市の民たちにとって一筋の光となった。彼女の信者たちは、傷ついた者や病に倒れた者たちに食料や医療を提供し、荒廃した都市にささやかな安らぎをもたらした。
「私たちが都市を救うのです」
信者たちは慈愛の教えを忠実に守り、慈悲の心を持って行動した。彼らは暴力を嫌い、争いを避け、ただ人々の痛みを和らげることだけを目的としていた。それゆえに、慈愛の会は都市の荒廃においても少しずつ支持を集め、存在感を増していった。
だが、皇子はそんな慈愛の会を見逃すはずがなかった。
「あの組織は厄介だな。人々に希望を与えるなど、私の計画には邪魔でしかない。きひひっ、今までと同じように潰してしまえ」
彼は側近たちに命じ、慈愛の会に対しても徐々に圧力をかけ始めた。慈愛の母はそれを察知していたが、表立って抵抗することはなかった。彼女は静かに、しかし確実に信者たちと共に都市を再建しようとしていた。
「我々は戦わない。慈悲の心でこの都市を癒すのです」
その言葉は、次第に多くの人々の心に響き渡り、慈愛の会は都市に広がり続けた。
その言葉に邪念がないことに気づいた皇子は、腐敗した傷口に触れられたような不快感を覚え、より直接的な手段として暗殺者を送り込んだ。
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