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幼少編

第4話 異世界でのFP活動

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 「もう少し分かりやすく説明したいので、紙とペンを貸して頂けますか?」 

 借りたペンで紙に、先ほど【市場調査】により得た、収入と支出からパルポロムのキャッシュフロー表を作成する。キャッシュフロー表とはFP活動で用いる家計簿の延長のようなものである。

 「これが、去年パルポロムさんが生んだ利益です。ただ、今年は色々な問題により赤字になっていると思います。そして、来年はさらに赤字が多くなりこのままでは3年後に過去2年分の黒字が全てなくなってしまいます」

 「……」パルポロムは難しい顔をしながら押し黙った。

 沈黙から、私のキャッシュフロー表が概ね正しいと判断し、そのまま会話を進める。

 「この赤字の理由は、殆どが働き手の減少と栄養失調から来る能力低下によるものかと思います。違いますか?」

 「……その通りです。なぜそれを?この表はあなたのギフトの力か?」
 
 「違いますよ、この表の黒字や赤字は計算で出しただけにすぎません」
 
 (数値は、ギフトでズルして手に入れたものだけどね!)

 手の内はなるべく見せないようにしながら、会話を進める。

 「先ほどまで私は居住区の視察を行っていました。その際に目にしたのは、食糧と水の問題です。直接の原因は日照りですが、それに加えて税金が重く、満足な生活を行う事が難しくなっているというのが現状のように見受けられました。しかし、この領地の税が特に重いわけではなく、国へ納める税金自体は他の領地と同様正当な金額です。ならば、税制を変え、みんなが健康に暮らす事ができる手法を取る事が最良だと私は思いました」

 「なるほど。税金が減ればそれを水と食糧の確保に当てる事ができ、健康な人間が増え人手不足も解消するという事ですかな?」

 「はい、その通りです。人手不足が解消すれば、パルポロムさんの来年以降の収入も黒字へ変わるはずです。税金が増えたとしても、3年後にはその黒字の合計がこの表のように税金3年分を上回る計算というだけです」

 そして、沈黙が流れた。

 「ハハハハッ!まさか私が6歳の少年に言いくるめられるとは…。失礼!話は大体分かりましたが、全てをいきなり信じる事はできません。ただ、このままでは来年が赤字というのは私も予想していたところです。そこでどうでしょう、今年一年はラフィアット様の言う通りの税制に変えて来年が黒字になるかどうか確かめてみる。黒字になれば、その税制を継続なさればいい。ただし、事業が好転しない場合は、元の税制に戻して頂きたい」

 「それで充分です。必ず好転しますよ!ただ、この税の話はまだ父上にしていないので、説得後にまだお話させて頂きたいと思います」

 「なんと、この話にパトリック様は関係しておられなかったのですかっ?パトリック様なら今の話をすれば確実に頭を縦に振るでしょうな。決まりましたら、またご連絡ください。他の商人は私が説得しておきましょう」

 「ありがとうございます!今後とも宜しくお願いしますね!」

 (ふう…。何とかなったかな。今日は初めての外出だったのに、急に色々やりすぎてどっしり疲れたな…)





 パルポロム家を出て、そのままジェイグと館へ帰った。
 
 そして、執務室にて父にパルポロムへ話した税金の相談をしに赴いた。

 執務室には、いつも通り父と側近のバカーンが居た。

 バカーンは、頭脳面での相談役となっていたが、私は昔からこの人間が好きにはなれなかった。
 
 一通り、パルポロムへ話した内容を父に説明する。

 「ムハァ。初めて外出したと思ったら、ふざけた話を!ジェイグ!貴殿が付いておきながら、なぜ止めなかった!そもそも…」

 父ではなく、バカーンが第一声を放つ。

 「バカーンよ止めよ。ラフィアットよ。もう少しだけ詳しく説明してほしい」

 父がバカーンの暴言を途中で制止し、話を続けるよう私に促した。   

 「ムハァ。パトリック様 ご子息と言えど、甘やかしてはいきませんぞ!」

 「よいのだ。私はラフィアットの話に単に興味がある。バカーンよ席を外せ」
 
 「ムムムムムハァ!」
 
 謎の怒り声を上げながら、バカーンは執務室を出て行った。
 
 (領主に対して、あの態度いいのか…?まぁ子供が急に言い出した事に対して、普通はこういう反応なのかもしれないな))

 少しモヤモヤしたが、気持ちを切り替えて、今日パルポロムに見せたキャッシュフロー表を新たに書き、父へと説明した。

 「なるほど…。どこでこんな知識を?」

 「座学の際に、自分で思いついたんです」

 前世の知識がある事や、別の世界に居た事など、誰にも話していなかったし今後も話すつもりもなかった。

(それにしても苦しい言い訳をしてしまった…)

 「なるほど…。わが子ながら素晴らしいぞ。これはこの国自体を変える画期的な案かもしれん…」

 父が感動しているのが、目に見えて伝わった。生前FP活動をしていたところで、そんなに褒められる事もなかったので、純粋に喜んでくれる人がいるだけで嬉しくて新鮮な気持ちになった。

 「よかろう。この案を我が領地で採用してみるとしよう。具体的に税率をいくらにするか等細かい数値面について、ラフィアットの方で計算することは可能だろうか?できれば、今の税金総額よりも少しだけ多めになるようにしてほしい。増えた金額を日照りと食糧不足への対策資金として使うと良いだろう」

 「はい!父上ありがとうございます!計算をすぐに済ませて、後ほど書面で伝えさせて頂きます!」

 こうして、私の長くて充実した外出初日が終わった。
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