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幼少編

第21話 夜明け

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 出口へ向かう途中で刺客を1人見つけたが、ジェイグが出会い頭に音もたてず切り伏せていた。

 新たに屋敷の中に入り込んでいる刺客が居なかったようで、その後何事もなく館の外に出る事ができた。

 門へは一本道で開けているが、幸い視界には刺客の存在を確認できなかった。

 少し安心し、ジェイグに続いて門へ歩みを進める。

 シュウからも特にその後、連絡がないことから無事逃げられたのだろう。
 
 すると

 「ラフィアット様!上です!」

 急に数本の飛び道具が上空から飛来してきた。

 間一髪のところで、ジェイグの剣により防がれる。

 飛び道具が飛んできた方向を見上げると、屋根に5人の人影が見える。

 そして、5人が一斉に襲い掛かってきた。

 ジェイグがけん制し、何とか4人は食い止めてくれているが、残りの1人が私に向かって攻撃してくる。

 普段の訓練を思い出し、咄嗟とっさに剣を構える。
 
 何とか敵の攻撃を受け流す事ができたが、敵は気にすることも無く連続で攻撃し続けてきた。

 防御に徹していたためか、才能は無くとも何とか連続攻撃も防ぐことができたが、訓練の時とは比べ物にならないくらい疲労が蓄積される。

 手がしびれ、全身が疲労で重く感じる。段々防御が間に合わず、かすり傷が増えていった。

 そして、敵の剣による上段攻撃は防げたものの、その後の蹴りを予想できず、モロに食らってしまう。

 「カハッ…」

 そのまま、吹き飛ばされ剣を落としてしまった。

 肺の中の空気が無理矢理押し出され、呼吸もできず立ち上がれない。

 「これで終わりだ…」

 そして、敵の剣が振り下ろされる瞬間を目にした。

 「ウォォォォォォ!」

 遠くで誰かが吠える声が聞こえた。敵の攻撃がスローで再生される。

 私は死を予感し、目を瞑った。

 1秒、2秒と経過したが敵の剣は振り下ろされてこなかった。

 「よう!大丈夫か大将」

 その声と共に、目の前の敵が崩れ落ちた。

 「ゲン!」

 「遅くなってすまねぇ。ギフトの射程範囲ギリギリだったから、まじで危なかった」

 「助かった…」

 先ほどの吠える声はどうやらゲンのギフト【麻痺一喝】のようであった。

 ゲンが合流するころに、ジェイグも最後の1人を撃退していた。

 刺客を全て倒し、改めてギフトで残存する敵がいない事を確認するころには夜が明けていた。




 その後数日間、私は事後処理に追われていた。

 領主としての引継ぎ自体も残っていたが、その他に襲撃者について調べたりしていた。

 今回の襲撃者から新たに分かった事は、相手がギロムの部下である暗の絶傑ザツだった事。

 ギロムの目的は、アタナス迷宮を手にするためにアタナス領を我が物にしたいという事。

 バカーン=火の絶傑リッシーが音信不通で計画が失敗したと思われたため、強硬策として暗殺を指示した事等であった。

 ここで一つ矛盾が生じる。私はバカーンが王都で裁かれたと聞いていた。

 その情報と今回の情報で内容が違う。

 今回得た情報はギフトを元にしているので、他社から伝え聞いた情報よりも信用に足る。

 ギフトの情報を正と考えた場合、可能性として考えられるのは大きくは2つ。

 1つ目は、バカーン自体が裁かれておらずギロムの悪事が露呈ろていしていない。

 2つ目は、王側がギロムとグルになっている。

 もし2つ目の王側がグルだった場合は、詰んでしまうし、こんな回りくどいやり方をせずとも楽なやり方があったはずだ。 
 
 だから、私は1つ目の可能性の方が高いとにらんでいた。

 その場合は、バカーン自体が王都へ着いていない。嘘の情報を流した人間がいる。

 といった別の疑問が浮かぶが、やはりこちらの方がしっくりくる。

 もう1つ不安要素として、それが真実であるなら今回のザツ達襲撃者を王都へ移送するとしても同じ事が起こるかもしれない。

 そうなった場合は最悪また暗殺者が来る可能性も考えられる。

 改めて皆で話し合う必要があると思った。



 「ラフィアット様 それでは行って参ります。移送を済ませすぐに戻ってまいりますので。それまでは、シュウ!ゲン!頼んだぞ」

 「了解よ、ジェイグさん」

 「任せとけってボス」

 結果的には、ザツとその部下6名、計7名の移送について、役人にジェイグも同行する運びとなった。

 何やら他に王都での用事もあるそうなので、ついでに済ませてくるとの事だった。
 
 これまでずっと守ってきてくれたジェイグが離れるのは不安であったが、リッシーの時と同じてつを踏むのが一番危ない。

 それに王都に詳しく、腕が立つのはジェイグしかいなかったというのもある。 

 出発する背を見送りながら今後について考えていた。この前の実戦で思い知ったが、自分自身もう少し強くならなければいけない。刺客からの攻撃を実際は1分間も防ぐ事ができなかった。

 領地経営に関して無事引継ぎが終わったし、最近では視察の必要性自体も低くなってきている。

 視察の時間を減らし、剣以外で自分自身の身を守れるようになるため、魔法を学ぶ時間に当てるのも良いと思っていた。

 また、未だ発現しないもう1つのギフト【通貨保有量】の効果も調べなければならない。

 これからもやる事は山積みだが、みんなで力を合わせて頑張っていこうと思う。




 ジェイグが旅立ってから2か月が経った頃の事だった。穏やかな日常を送りつつも、皆が新しい事に挑戦していた。

 そんな中、その連絡は突然きた。
 
 『ラフィアット君…屋敷に来客らしいわ。戻ってきて欲しい』

 パルポロムが紹介してくれた、魔法使いデビアスの元でノワール、ナラタと共に魔法を習っていた際に、シュウから連絡が来た。

 『了解。来客?誰だろう?』

 『相手は、ギロムの使いと名乗ってるわ』

 『なんだって!!?』

 また、激動の日常が始まろうとしていた。
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