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第4章

約束

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「アリエス!!!待て!!それ以上はやめろぉ!!!」
 
 俺の咆哮は虚しく空気となって消える。彼女には全く聞こえていない。復讐の怒りに任せたアリエスの猛追は、アルデバランの猛攻に引けを取ってはいない。しかし、ここまでの激しい応戦…体力が消耗してないわけがない。

一進一退の激しい攻防。
アリエスの分身の出し入れに、後方からの狙撃。それに劣らずアルデバランは金棒を駆使し狙撃手の処理や、アリエスの激しい剣技に対応している。

「なんで俺は…今アリエスを助けに行けていない…先ほどハマルと約束したばっかじゃないか…なんでアリエスがあの狂気に身を任せた姿になってしまっている…俺が側に居てあげねぇと…

ゲホッゲホッ…くそッこんな時に…」

次第に増していくアツキの咳。
口に手を当てていた右の掌には血がべっとりと付いていた。
これは、何を意味しているのか自分ではまだよく分からないでいた。

不安と焦りが脳裏を駆け巡る。
この状況下において自身ができること。それはアリエスと一緒に体制を立て直すことだ。作戦無しで到底敵う相手ではない。それに伝えなくちゃいけない事がある。俺が導き出したアルデバランの能力…憶測だけれど、この能力なら全て辻褄が合う。

伝えなくては。
どうにかして、アリエスを…前のアリエスを取り戻さなくては…


「キャッ!!!」
俺が体の異常による咳を堪えていた瞬間、アリエスが地面に叩きつけられていた。
アルデバランの周囲に展開していた5.6体の分身が一瞬にして爆散する。アルデバランの攻撃ではない。アリエスが地面に叩きつけられ、一瞬能力を解除してしまったのだ。
 アルデバランの左肩には、アリエスが刺したであろう赤い槍が刺さっている。おもむろにアルデバランが肩に刺さった槍を、痛みを感じていないかのように無表情で引っこ抜く。
 
「まずいっ!!このままじゃ!!!」
衝撃で仰向けでぐったりしている。そのアリエスに狙いを定めたかのように、アルデバランが、金棒を捨て、アリエスが使用していた槍を大きく構える。



だめだ!!!待ってくれ!!!俺が守るんだよ!!そう決めたんだ!!守らせてくれ!!守りたい!!

俺の足は無意識に駆け出す。既に力なく横たわる少女の元へ。

俺は無意識に手を伸ばす。あの華奢な少女に手を差し伸べるために。

全神経が、手を伸ばす指先と、駆け出す足へと集中していた。

俺がこの過去の世界まで、アリエスに付いてきた意味。俺がずっと側に居た意味。俺がずっと育んできた思いの意味。

それは全て君への想いなんだ。


「アリエスーー!!!!」

俺の精一杯の声は、微かにアリエスを呼び起こす。

途方もなく長く感じたアリエスとの距離は無くなり、横たわるアリエスに覆いかぶさるようにしゃがみ、ようやくその姿を目の前で捉える。


良かった、生きてる。

大丈夫。

俺が守るから。


その瞬間
アルデバランの投擲したアリエスの赤い槍が俺の胴体を突き抜け、アリエスの左側の地面へと突き刺さった。


口から激しく吐血しアリエスに飛び散る。
俺の声に気がついてくれたアリエスが、涙を流し、必死に何かを叫んでいるように見える。

もう何も聞こえないよ。
もう痛みすら感じない。

でも、君を守れて良かった。

そんな顔しないでくれよ。
俺が居なくたって大丈夫だ。
もうすぐ助けに来てくれる星霊王だっている。

横たわるアリエスに覆いかぶさるようにして、投擲された槍からアツキは守った。アツキの体が、微妙に槍の軌道をずらしアリエスには傷1つ付かなかった。

良かった。
君の力になれて。

あ、でも伝えたい事…これじゃあ伝えられないな。アルデバランの能力とかじゃなくて、もっともっと伝えたかった事。あったんだよ。凄くたくさんあったんだ。

でも、もう無理そうだ。


泣き叫ぶアリエスの姿がだんだんと暗くなっていく。体を動かす力も、考える力も…もう残ってない。

じゃあね。

俺はそう言って目を閉じた。


「いやぁぁぁぁああ!!!!!」


アリエスの悲痛な叫びだけが雨空を駆け巡る。無情に滴る血の雨がアリエスに降り注いでいた。




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痛い、痛い、痛い。
誰かが俺を強く締め付けている。
誰だよ。痛いじゃないか。



 気がつくと、俺は白羊宮の玄関前の中庭に立っていた。青く晴れた青空。それに、白羊宮の白い壁が光に照らされて眩しく見える。
 中庭には、大きな噴水があって、勢いよく噴出し、青い空へと舞い上がっている。その粒が光と反射して気持ちが良い。

 どうやらアリエスの過去への移動は成功らしい。気持ちの良い過去移動ができた…というのに、俺の体が何かに締め付けられて痛い。
横腹付近が締め付けられ、胸にはグイグイと押し当てられるものが…

原因は分かっている。
アリエスだ。
何をしているのかは知らない。
なぜこんなことになっているのかは知らない。
よく分からないが、俺は今、アリエスに強く抱きしめられている!!


「あの…アリエスたん?」

状況を把握するために、恐る恐る彼女に聞いてみる。どう対処していいか分からないので、とりあえず呼びかける戦法だ。


すると、俺の声にピクッと反応したかと思ったのだが…締め付ける力も、グイグイと顔を押し当てる力も全く変わっていない…どころかさらに力を込められた。


「ちょ、痛い痛い痛い!!!」
痛みに我慢できなくなって俺は、ギブアップの意思表示のために、肩をポンポンと叩く。

途端、アリエスは顔をグイグイと押し付けていたのをやめ、ゆっくりと顔を上げる。

スカイブルーの大きな瞳が上目遣いで…そして涙目で覗かせる。

ついさっき『現在』から移動してきたというのに、もうハマル達のことが寂しくなったのだろうか。

それに、涙で服が濡れて胸の部分がムシムシして痒い。これはどうにかして痒みというストレスから脱却するためにも、アリエスに離れてもらわなければならない。

「ちょ、アリエス!!どうしたんだよ!!もうみんなの事が寂しくなったのか!?」

 そう言って俺は、アリエスをナデナデする。アリエスの銀髪の髪はフワフワでサラサラでいい匂いだ。しかし、そうは言ってられない。そうこうしているうちに痒みが増してくる。

俺の言葉に反応して、アリエスはようやく俺から離れる。俺の胸部周りの服は涙で、軽いお漏らし状態である。


アリエスは、少し沈黙した後、
「……………はい…ごめんなさい!ちょっと寂しくなってしまいました!」と本当に寂しそうな笑顔で答えた。








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