85 / 103
第4章
約束
しおりを挟む
「アリエス!!!待て!!それ以上はやめろぉ!!!」
俺の咆哮は虚しく空気となって消える。彼女には全く聞こえていない。復讐の怒りに任せたアリエスの猛追は、アルデバランの猛攻に引けを取ってはいない。しかし、ここまでの激しい応戦…体力が消耗してないわけがない。
一進一退の激しい攻防。
アリエスの分身の出し入れに、後方からの狙撃。それに劣らずアルデバランは金棒を駆使し狙撃手の処理や、アリエスの激しい剣技に対応している。
「なんで俺は…今アリエスを助けに行けていない…先ほどハマルと約束したばっかじゃないか…なんでアリエスがあの狂気に身を任せた姿になってしまっている…俺が側に居てあげねぇと…
ゲホッゲホッ…くそッこんな時に…」
次第に増していくアツキの咳。
口に手を当てていた右の掌には血がべっとりと付いていた。
これは、何を意味しているのか自分ではまだよく分からないでいた。
不安と焦りが脳裏を駆け巡る。
この状況下において自身ができること。それはアリエスと一緒に体制を立て直すことだ。作戦無しで到底敵う相手ではない。それに伝えなくちゃいけない事がある。俺が導き出したアルデバランの能力…憶測だけれど、この能力なら全て辻褄が合う。
伝えなくては。
どうにかして、アリエスを…前のアリエスを取り戻さなくては…
「キャッ!!!」
俺が体の異常による咳を堪えていた瞬間、アリエスが地面に叩きつけられていた。
アルデバランの周囲に展開していた5.6体の分身が一瞬にして爆散する。アルデバランの攻撃ではない。アリエスが地面に叩きつけられ、一瞬能力を解除してしまったのだ。
アルデバランの左肩には、アリエスが刺したであろう赤い槍が刺さっている。おもむろにアルデバランが肩に刺さった槍を、痛みを感じていないかのように無表情で引っこ抜く。
「まずいっ!!このままじゃ!!!」
衝撃で仰向けでぐったりしている。そのアリエスに狙いを定めたかのように、アルデバランが、金棒を捨て、アリエスが使用していた槍を大きく構える。
だめだ!!!待ってくれ!!!俺が守るんだよ!!そう決めたんだ!!守らせてくれ!!守りたい!!
俺の足は無意識に駆け出す。既に力なく横たわる少女の元へ。
俺は無意識に手を伸ばす。あの華奢な少女に手を差し伸べるために。
全神経が、手を伸ばす指先と、駆け出す足へと集中していた。
俺がこの過去の世界まで、アリエスに付いてきた意味。俺がずっと側に居た意味。俺がずっと育んできた思いの意味。
それは全て君への想いなんだ。
「アリエスーー!!!!」
俺の精一杯の声は、微かにアリエスを呼び起こす。
途方もなく長く感じたアリエスとの距離は無くなり、横たわるアリエスに覆いかぶさるようにしゃがみ、ようやくその姿を目の前で捉える。
良かった、生きてる。
大丈夫。
俺が守るから。
その瞬間
アルデバランの投擲したアリエスの赤い槍が俺の胴体を突き抜け、アリエスの左側の地面へと突き刺さった。
口から激しく吐血しアリエスに飛び散る。
俺の声に気がついてくれたアリエスが、涙を流し、必死に何かを叫んでいるように見える。
もう何も聞こえないよ。
もう痛みすら感じない。
でも、君を守れて良かった。
そんな顔しないでくれよ。
俺が居なくたって大丈夫だ。
もうすぐ助けに来てくれる星霊王だっている。
横たわるアリエスに覆いかぶさるようにして、投擲された槍からアツキは守った。アツキの体が、微妙に槍の軌道をずらしアリエスには傷1つ付かなかった。
良かった。
君の力になれて。
あ、でも伝えたい事…これじゃあ伝えられないな。アルデバランの能力とかじゃなくて、もっともっと伝えたかった事。あったんだよ。凄くたくさんあったんだ。
でも、もう無理そうだ。
泣き叫ぶアリエスの姿がだんだんと暗くなっていく。体を動かす力も、考える力も…もう残ってない。
じゃあね。
俺はそう言って目を閉じた。
「いやぁぁぁぁああ!!!!!」
アリエスの悲痛な叫びだけが雨空を駆け巡る。無情に滴る血の雨がアリエスに降り注いでいた。
------------------------------------------
痛い、痛い、痛い。
誰かが俺を強く締め付けている。
誰だよ。痛いじゃないか。
気がつくと、俺は白羊宮の玄関前の中庭に立っていた。青く晴れた青空。それに、白羊宮の白い壁が光に照らされて眩しく見える。
中庭には、大きな噴水があって、勢いよく噴出し、青い空へと舞い上がっている。その粒が光と反射して気持ちが良い。
どうやらアリエスの過去への移動は成功らしい。気持ちの良い過去移動ができた…というのに、俺の体が何かに締め付けられて痛い。
横腹付近が締め付けられ、胸にはグイグイと押し当てられるものが…
原因は分かっている。
アリエスだ。
何をしているのかは知らない。
なぜこんなことになっているのかは知らない。
よく分からないが、俺は今、アリエスに強く抱きしめられている!!
「あの…アリエスたん?」
状況を把握するために、恐る恐る彼女に聞いてみる。どう対処していいか分からないので、とりあえず呼びかける戦法だ。
すると、俺の声にピクッと反応したかと思ったのだが…締め付ける力も、グイグイと顔を押し当てる力も全く変わっていない…どころかさらに力を込められた。
「ちょ、痛い痛い痛い!!!」
痛みに我慢できなくなって俺は、ギブアップの意思表示のために、肩をポンポンと叩く。
途端、アリエスは顔をグイグイと押し付けていたのをやめ、ゆっくりと顔を上げる。
スカイブルーの大きな瞳が上目遣いで…そして涙目で覗かせる。
ついさっき『現在』から移動してきたというのに、もうハマル達のことが寂しくなったのだろうか。
それに、涙で服が濡れて胸の部分がムシムシして痒い。これはどうにかして痒みというストレスから脱却するためにも、アリエスに離れてもらわなければならない。
「ちょ、アリエス!!どうしたんだよ!!もうみんなの事が寂しくなったのか!?」
そう言って俺は、アリエスをナデナデする。アリエスの銀髪の髪はフワフワでサラサラでいい匂いだ。しかし、そうは言ってられない。そうこうしているうちに痒みが増してくる。
俺の言葉に反応して、アリエスはようやく俺から離れる。俺の胸部周りの服は涙で、軽いお漏らし状態である。
アリエスは、少し沈黙した後、
「……………はい…ごめんなさい!ちょっと寂しくなってしまいました!」と本当に寂しそうな笑顔で答えた。
俺の咆哮は虚しく空気となって消える。彼女には全く聞こえていない。復讐の怒りに任せたアリエスの猛追は、アルデバランの猛攻に引けを取ってはいない。しかし、ここまでの激しい応戦…体力が消耗してないわけがない。
一進一退の激しい攻防。
アリエスの分身の出し入れに、後方からの狙撃。それに劣らずアルデバランは金棒を駆使し狙撃手の処理や、アリエスの激しい剣技に対応している。
「なんで俺は…今アリエスを助けに行けていない…先ほどハマルと約束したばっかじゃないか…なんでアリエスがあの狂気に身を任せた姿になってしまっている…俺が側に居てあげねぇと…
ゲホッゲホッ…くそッこんな時に…」
次第に増していくアツキの咳。
口に手を当てていた右の掌には血がべっとりと付いていた。
これは、何を意味しているのか自分ではまだよく分からないでいた。
不安と焦りが脳裏を駆け巡る。
この状況下において自身ができること。それはアリエスと一緒に体制を立て直すことだ。作戦無しで到底敵う相手ではない。それに伝えなくちゃいけない事がある。俺が導き出したアルデバランの能力…憶測だけれど、この能力なら全て辻褄が合う。
伝えなくては。
どうにかして、アリエスを…前のアリエスを取り戻さなくては…
「キャッ!!!」
俺が体の異常による咳を堪えていた瞬間、アリエスが地面に叩きつけられていた。
アルデバランの周囲に展開していた5.6体の分身が一瞬にして爆散する。アルデバランの攻撃ではない。アリエスが地面に叩きつけられ、一瞬能力を解除してしまったのだ。
アルデバランの左肩には、アリエスが刺したであろう赤い槍が刺さっている。おもむろにアルデバランが肩に刺さった槍を、痛みを感じていないかのように無表情で引っこ抜く。
「まずいっ!!このままじゃ!!!」
衝撃で仰向けでぐったりしている。そのアリエスに狙いを定めたかのように、アルデバランが、金棒を捨て、アリエスが使用していた槍を大きく構える。
だめだ!!!待ってくれ!!!俺が守るんだよ!!そう決めたんだ!!守らせてくれ!!守りたい!!
俺の足は無意識に駆け出す。既に力なく横たわる少女の元へ。
俺は無意識に手を伸ばす。あの華奢な少女に手を差し伸べるために。
全神経が、手を伸ばす指先と、駆け出す足へと集中していた。
俺がこの過去の世界まで、アリエスに付いてきた意味。俺がずっと側に居た意味。俺がずっと育んできた思いの意味。
それは全て君への想いなんだ。
「アリエスーー!!!!」
俺の精一杯の声は、微かにアリエスを呼び起こす。
途方もなく長く感じたアリエスとの距離は無くなり、横たわるアリエスに覆いかぶさるようにしゃがみ、ようやくその姿を目の前で捉える。
良かった、生きてる。
大丈夫。
俺が守るから。
その瞬間
アルデバランの投擲したアリエスの赤い槍が俺の胴体を突き抜け、アリエスの左側の地面へと突き刺さった。
口から激しく吐血しアリエスに飛び散る。
俺の声に気がついてくれたアリエスが、涙を流し、必死に何かを叫んでいるように見える。
もう何も聞こえないよ。
もう痛みすら感じない。
でも、君を守れて良かった。
そんな顔しないでくれよ。
俺が居なくたって大丈夫だ。
もうすぐ助けに来てくれる星霊王だっている。
横たわるアリエスに覆いかぶさるようにして、投擲された槍からアツキは守った。アツキの体が、微妙に槍の軌道をずらしアリエスには傷1つ付かなかった。
良かった。
君の力になれて。
あ、でも伝えたい事…これじゃあ伝えられないな。アルデバランの能力とかじゃなくて、もっともっと伝えたかった事。あったんだよ。凄くたくさんあったんだ。
でも、もう無理そうだ。
泣き叫ぶアリエスの姿がだんだんと暗くなっていく。体を動かす力も、考える力も…もう残ってない。
じゃあね。
俺はそう言って目を閉じた。
「いやぁぁぁぁああ!!!!!」
アリエスの悲痛な叫びだけが雨空を駆け巡る。無情に滴る血の雨がアリエスに降り注いでいた。
------------------------------------------
痛い、痛い、痛い。
誰かが俺を強く締め付けている。
誰だよ。痛いじゃないか。
気がつくと、俺は白羊宮の玄関前の中庭に立っていた。青く晴れた青空。それに、白羊宮の白い壁が光に照らされて眩しく見える。
中庭には、大きな噴水があって、勢いよく噴出し、青い空へと舞い上がっている。その粒が光と反射して気持ちが良い。
どうやらアリエスの過去への移動は成功らしい。気持ちの良い過去移動ができた…というのに、俺の体が何かに締め付けられて痛い。
横腹付近が締め付けられ、胸にはグイグイと押し当てられるものが…
原因は分かっている。
アリエスだ。
何をしているのかは知らない。
なぜこんなことになっているのかは知らない。
よく分からないが、俺は今、アリエスに強く抱きしめられている!!
「あの…アリエスたん?」
状況を把握するために、恐る恐る彼女に聞いてみる。どう対処していいか分からないので、とりあえず呼びかける戦法だ。
すると、俺の声にピクッと反応したかと思ったのだが…締め付ける力も、グイグイと顔を押し当てる力も全く変わっていない…どころかさらに力を込められた。
「ちょ、痛い痛い痛い!!!」
痛みに我慢できなくなって俺は、ギブアップの意思表示のために、肩をポンポンと叩く。
途端、アリエスは顔をグイグイと押し付けていたのをやめ、ゆっくりと顔を上げる。
スカイブルーの大きな瞳が上目遣いで…そして涙目で覗かせる。
ついさっき『現在』から移動してきたというのに、もうハマル達のことが寂しくなったのだろうか。
それに、涙で服が濡れて胸の部分がムシムシして痒い。これはどうにかして痒みというストレスから脱却するためにも、アリエスに離れてもらわなければならない。
「ちょ、アリエス!!どうしたんだよ!!もうみんなの事が寂しくなったのか!?」
そう言って俺は、アリエスをナデナデする。アリエスの銀髪の髪はフワフワでサラサラでいい匂いだ。しかし、そうは言ってられない。そうこうしているうちに痒みが増してくる。
俺の言葉に反応して、アリエスはようやく俺から離れる。俺の胸部周りの服は涙で、軽いお漏らし状態である。
アリエスは、少し沈黙した後、
「……………はい…ごめんなさい!ちょっと寂しくなってしまいました!」と本当に寂しそうな笑顔で答えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる