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piece2 バースデーケーキ

4番は、キャプテンだよ

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恥ずかしさに真っ赤になりながら、悠里は振り返る。
風呂上がりであろう、濡れた髪をタオルで拭きながら、呆れた表情で自分を見つめる弟がいた。

「ゆ、悠人。いつからいたの」
姉からの質問には答えず、悠人は並べられたアイシングクッキーを眺める。
「へー。バスケのボールとゴールだ」
「わかる!?」
バスケ部の弟にそれと認識され、悠里は思わず破顔する。

上機嫌な姉を見て、大体のことは察したのだろう、悠人が問いかける。
「バレンタインの練習?」
「ん。まあ、そんなとこ」
「柴崎さんだ」
「うるさい」

悠里は容赦なく、弟の口にクッキーを突っ込んだ。
「もがっ!?」
唐突な姉の蛮行に、悠人は目を白黒させる。
ゴールを描いた、大きい方のクッキーだ。

悠人は暫くの間、懸命にもぐもぐと口を動かしたあと、頷いた。
「……うま!」
「でしょ?」
悪戯っぽく悠里は微笑む。

あまりにも嬉しそうな姉の姿に、思わず弟も笑った。
「まあ、がんばりなよ」
冷蔵庫から牛乳を取り出し、悠人はキッチンから去ろうとした。

「あ、悠人」
そういえばと、悠里が彼を呼び止める。

小さな疑問を弟に投げかけてみた。
「ねえ。バスケのユニフォームの番号って、ポジションで決まってるの?」

「はあ?」
牛乳を飲み干したあと、怪訝そうに姉を見つめた。
「あー。決まってるわけじゃないけど、大体の方針はあるかな」

「じゃあ、4番って、シューティングガードの番号なの?」
「おお、姉ちゃんの口からポジション名が出るとは」
悠人が感心したように笑った。
「柴崎さん効果すげえ」
「もう、うるさいな」
照れ隠しにペチンと悠人のおでこを叩く。

悠人は笑いながら応える。
「4番は、キャプテンだよ」
「キャプテン」

「そ。バスケは3秒ルールとか、数字を使ったルールがあるから、1から3の数字は選手の番号には使わんのよ。審判のサインと被ったら、試合中に紛らわしいからね」

ふうん、と悠里は弟の説明に深く頷いた。
「だからレギュラーの人は大抵、4番から8番の人。4番がキャプテンで、5番が副キャプテンなことが多いかな」
「そうなんだ」

興味深そうに聞き入る姉の姿を見て、悠人はニヤリと笑う。
「バスケのルールブックなら、オレの机にあるから、読んでいーよ」
今度こそ、悠人はキッチンから去っていく。

「柴崎さんのカノジョなら、基本的なルールぐらい知ってた方がいいんじゃない?」
「ち、ちがっ……」
否定の言葉を告げる前に、弟は階段を昇っていってしまった。


ひとりに戻ったキッチンで、悠里は黒のユニフォームを着た長身を思い描く。
4番を付けた剛士の姿。

「そっか。キャプテンの番号だったんだ……」

やっぱり、ケーキのデコレーションには、ユニフォームも加えたい。
剛士の存在を表現したい。
明日、ユニフォームのクッキーを焼けるように、型を買いに行こう。

時計を見れば、間もなく深夜になるところだった。
今日のところは、これで終わりにしよう。
キッチンを片付けて、お風呂に入らなければ。
悠里はエプロンの紐を結び直し、洗い物に取り掛かった。
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