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piece4 楽しい遊園地

SLで楽しいお喋り

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「はーあ、楽しかったあ」
「また後で乗ろうよ!」

友人たちの明るい笑顔。
悠里だけは、違う意味で笑みを浮かべていた。

「私、次はSLに乗りたいな」
絶叫マシンが続いては、剛士が可哀想だ。
悠里は自然な調子で、和やかな乗り物を提案する。

「いいねー!」
幸い、彩菜も拓真も違和感を覚えることはなかったようだ。

笑い合いながら、4人はSL乗り場に向かう。
恐怖から解放された剛士も、元気を取り戻したようだ。
楽しげに、拓真と軽口を叩き合っていた。


SLは比較的混んでいたが、やはり大した待ち時間もなく乗り込むことができた。
ちょうど、ひとつのボックスが4人乗りだったので、悠里たちはいそいそと着席する。
彼女の隣りは、もちろん剛士だ。

このSLは、終着点は同じだが、コースが2つに分かれているようだ。
悠里たちが乗ったのは走行距離の短いコースで、7分程度だというアナウンスがあった。

「いいね!景色を見ながら喋るには、ちょうどいい時間じゃない?」
拓真が明るく微笑んだ。


4人でさまざまな話に興じる。
話題は、彩奈の写真部の活動に移った。

「春に、挑戦してみたいコンテストがあるんだよね」
赤メガネの奥の瞳をキラキラ輝かせ、彩奈が言った。

「へえ!どんな写真を撮る予定なの?」
興味津々で拓真が問いかける。

「うん。撮りたいものがあり過ぎて、まだ迷い中」
楽しそうに彩奈は悩むそぶりを見せた。


「個人的には花とか木とか、風景を撮るのが得意なつもりだけど、今まであまり撮ってこなかったものを撮りたい気持ちもあるんだ」

「へえ、いいじゃん!チャレンジする彩奈ちゃん、カッケェよ」
ニコニコと拓真が答え、悠里と剛士も同調する。


「最近撮ってみて、すごい燃えたのは、やっぱシバさんの試合の写真ですねえ」
彩奈が、興奮気味に剛士を見た。

「私、今までスポーツの写真は、撮ったことなくて。かなり難しかったんですよ。タイミングの合わせ方。呼吸の読み方。刻一刻と変わりゆく戦局を、どう写真に写し込むかがね」


4人でいるときに、あまり写真の話をしたことのない彼女が、堰を切ったように話し始める。
その熱量に感心しながら、3人は彩奈の言葉に聞き入った。

「写真の中に、闘志を写したいんです。勝利に向かう感情、命懸けでゴールをもぎ取る覚悟を! 」
熱っぽく語る彩菜を、剛士は穏やかに見つめている。

「写真を見たときに、選手の生き様が感じられるような、そんな写真が撮りたいです。だから、いろいろ研究したい!」
彩奈がその勢いのままに、剛士に向き直った。

上気した頬に笑みを浮かべ、胸の前で手を合わせる。
「だからシバさん。またバスケの試合、撮らせてください!」

剛士の切れ長の瞳が、ふっと柔らかく微笑んだ。
「もちろん。撮ってくれたら俺も嬉しい。そんなに、いろいろ考えて撮ってくれてたんだな。ありがとな」


「うんうん。彩奈ちゃん、やっぱカッケェわ! 初めて彩奈ちゃんの写真見たときも、悠里ちゃんの言ってた通りだって、オレたち感心したもんなあ」

顔を見合わせ、頷き合う男子2人を見て、きょとんと彩奈が目を丸くする。
「悠里が? 何て言ってたの?」

「2人が初めてゴウの試合を見たときだよね。悠里ちゃん、『彩奈の写真には被写体への思いが込もってて大好き』って、オレに教えてくれたんだよ」

「えー!? そうだったのー?」
拓真の言葉を聞き、彩奈が嬉しそうに顔をほころばせた。

あのとき、何気なく言った自分の言葉を、拓真たちは覚えていてくれたのかと、悠里の頬が赤みを帯びる。

「悠里、そんなふうに思っててくれたんだね!ありがとうめちゃくちゃ嬉しい!」
悠里の両手を取り、彩奈はブンブンと上下に振った。

「本当のことだよ」
照れ笑いを浮かべながら、悠里も彼女の手を握り返した。
「彩奈の写真大好きだから、これからも応援するよ」

「ありがとー! またシバさんのこと、カッコよく撮ってみせるからね!」
「ふふ、うん!」
その様子を見た拓真が、ぷっと吹き出した。

「ゴウ、次の試合も、がんばらなきゃね?」
「おう」
小さく笑い、剛士は頷いた。
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